お姉様、と声を掛けられて美琴は足を止める。同部屋の後輩のものではない、聞き慣れているようで聞き慣れていないその声は、

「…ああ、アンタか」
「こんにちはお姉様、とミサカは礼儀正しくお辞儀をします。ちなみにこのミサカの検体番号は10032号です、とミサカは混乱がないようにと懇切丁寧に説明します」

向こうから規則正しい歩幅で歩いてくる、自分そっくりの妹に美琴は少しだけ気まずい気持ちになる。罪悪感だとか後ろめたいのではない。単に何だか気恥ずかしいのだ、自分の姿を客観的に(とは言え内面には大きな違いがあるが)見ているような気分になる。鏡で自分を見るのとはまたちょっと違うような、と美琴が考えていると。

「…もしもし、お姉様?とミサカは何やら物思いに耽ってしまったお姉様に手をパタパタと振ってみます」
「あ、ああゴメンゴメン。やっぱり見分けがつかないなーって思って」
「基本的にミサカ達は細胞レベルで同一になるように作られた個体なので無理はないかと思います、とミサカは何やら落ち込んでしまったお姉様を慰めます」
「…うーん、でもやっぱさ。学園都市に残っているアンタ達くらいちゃんと見分けてあげたいって思うんだけどなあ」

ごめんね、と申し訳なさそうに頭を掻く美琴に、

「…いえ。ミサカはその気持ちだけで十分に嬉しいです、とミサカはぺこりと頭を下げます。ミサカ達もミサカ単体に価値を見出だし始めてますから。冥土返し曰く、個性が生まれているのです。だからきっと、」

そのうち他のミサカ達とは変わっていきます、とどこか宣言するように言った御坂妹に美琴はそっか、と小さく笑みを浮かべた。この子達が変わろうとしているならば、それを見守ることが出来たらいい。私に文句の一つでも言ってきて、喧嘩でも出来るようになれば上出来だ。そんな幸せな未来を考えて、美琴は少しだけ楽しい気分になる。

「ところでお姉様は何か用があったのでは?とミサカはお姉様が行こうとしていた方向を見ながら尋ねてみます」
「ん?ああ、買い物よ。買い物。これからセブンスミストにちょっとね」

黒子と行くと子供っぽいだのなんだの言われるから、とは言わなかった。そういえばこの子達は服はどうしているのだろう、と考えて美琴がそちらを向くと、

「そうなのですか、とミサカは驚きを隠しつつ返答します。実はミサカもこれからそちらに向かおうと思っていたのです、とミサカは自分の予定を暴露します」
「え?アンタも?」
「はい、とミサカは肯定します。実は下着を買いに行くのです。流石に下着類を買ってきていただくのは申し訳ないというか恥ずかしいので、とミサカは頬を染めつつ理由を述べます。ところでお姉様、もし迷惑でなければご一緒しても構いませんか?とミサカは控え目に尋ねてみます」
「そりゃ勿論構わないけど…」

一瞬、美琴は御坂美琴が2人並んで歩いていたらまた何か言われるだろうかと考えたが、止めた。何を言われたところで構わない。もし何か聞かれたとしても胸を張って妹だ、と言ってやればいいのだ。

「…ところでさ。アンタって私服持ってないの?制服姿しか見たことないけど」
「持ってません、とミサカは答えます。元々実験には不必要なものでしたから、ミサカ達は制服以外の衣服を所持していません、とミサカは補足説明します」
「…ふうん。あの医者に言えば一着くらいはすぐ用意してくれそうだけど」
「お世話になっている身で、流石にそこまで我が侭は言えません、とミサカは内心あの人に頼むとナース服とか着せられそうでこわいという本音を隠しつつ、建前を言ってみます」
「本音ただ漏れじゃない」

呆れつつも、全部が嘘ではないのだろう、と美琴は考える。実験が凍結状態になってしまった今、彼女達に割ける金銭はそうないはずだし、第一補助を受けているのかすら怪しい。多分したいことがあっても、それがあまり出来る環境にはいないのだろう。美琴はそこまで考えると、

「…分かった。服買いに行きましょ」
「はい?とミサカは言葉の意味が分からず首を傾げます」
「だーかーらー。服買いに行くってんのよ。予定があるわけでもないんでしょ?」
「それはそうですが…、ミサカはそのような衣類を買うだけの金銭を所持してませんから、とミサカはせっかくのお姉様からのお誘いを断るは残念だと思いつつ返答します」
「別に、それくらい私が出すわよ。お金ならあるし」
「ですが…」
「あーもうっ!」
「!」

お金を出してもらうのが申し訳ないのか、なかなか頷かない御坂妹に焦れた美琴がぐい、と御坂妹の腕を引く。よろけたようになりつつも美琴の前に立つ御坂妹の鼻先に、びし、と指を突き付けると、

「いい?お姉様が買ってあげるっつってんだから黙って買いなさいっての!ナニ遠慮しちゃってんのよ、妹に姉が服買ってあげてなんかおかしいわけ?」
「!…いえ、そういうわけでは」
ありませんが、と続けようとした御坂妹を「なら、」と美琴が遮る。

「いいじゃない。お姉様にまかせなさいっての」

レベル5の金銭状況ナメんな、と笑う美琴に御坂妹がつられたように少しだけ表情を緩めた(ように見えた)。

「…そう、ですね。では、お姉様のお言葉に甘えたいと思います、とミサカは素直に喜びながら頷きます」
「うん、それでよろしい」

満足気に頷いた美琴は、御坂妹の腕から手を離すと、歩幅を合わせて歩き始める。

「実は少し前から気になっていたワンピースがあるのですが…とミサカは段々ノリノリになりつつお願いします」
「あら、いいじゃない。じゃ、まずそこから行きましょ。場所分かる?」
「はい、とミサカは太っ腹なお姉様に惚れ直しつつ肯定します」
「なによこれくらいで。…あ、でもこんだけそっくりなら自分が着たい服を相手に着せれば客観的に見れるかもね」
「それは名案です、とミサカは賛同しつつもお姉様の私服を想像して心配になります」
「…なによ。子供っぽいって言いたいの?」
「別にそういうわけでは…とミサカはゴニョゴニョと本音を隠しつつ誤魔化します」
「いいじゃない好きなんだから…。服買ってあげるんだから、勿論アンタにも付き合ってもらうわよ?」
「どこまでもお供しましょう、とミサカはキリッとした表情になりつつ宣言します」
「現金ねぇ…」

苦笑しつつも、美琴はどこか楽しそうな妹を見て頬を緩ませる。なんか普通の姉妹みたいだ、なんて思う。こんな穏やかな日常が当たり前になればいい。
こんな風に。


sister


(あと、チョコバナナクレープというものも食べてみたいです、とミサカは所望します)
(はいはい)







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