なんで殺したの、と番外個体の唇が頼りなく動く。一方通行の首へと伸びるそのには幾つもの注射痕が残っている。机に散乱した無数の袋に、彼女の腕から発せられる妙に高い温度。それが示唆するのは、

「……お前、クスリやってンのか?」
「…別に、全部がヤクってわけじゃないよ。ミサカは身体のあちこちに機械埋め込んでるからね、身体の拒絶反応に耐えるための鎮静剤とか…、まぁ、いろいろだよ」

言語ははっきりとしていて、文脈にもおかしいところはない。彼女の弱々しい態度は、薬が切れたことによる症状なのか。普段憎悪の言葉を紡ぐ彼女の口が紡ぐのは随分言葉ばかりだ。
首を絞められているせいで、息が苦しい。ただ、

(コイツが本気で絞めてりゃ、もっと苦しいよな)

彼女の腕は痙攣していて、うまく力が入っていないようだった。絞める気がないのではなくて、絞められないだけかもしれない。おそらくは後者だろう。

「…アンタには、わっかんないんだろうなぁ……」

普段より幼い印象を受ける番外個体の顔が、一方通行を見下ろす。徐々に腕の力が強まってるのを感じていたけれど、振りほどこうとすることはしなかった。

「1万人の妹達…って言っても、アンタに殺された方の、って言うのが正しいかな。あるんだよ、全部」

記憶。と番外個体が力なく笑う。
「まるで自分が殺されたみたいになるんだ。何回目にどんな風に殺されるのかだとか、先を知ってる分逃げられない。記憶の中の自分がいつ死ぬか、どうやって死ぬか知ってるから、アンタを殺すためにデータを見ようとする度に恐怖が付きまとう」

知らないよね、と彼女は笑う。繰り返し、繰り返し。そこに浮かぶのは嘲りでも怒りでもない。
ただの、羨望と恐怖。
彼女は自分の命なんてどうでもいいと言っていたのは、全部嘘だったのか。本当は、と一方通行は段々ぼんやりしてきた思考回路で考える。
彼女は、死にたくなかったのか。

「あは、何そのぶっさいくな顔はさぁ。……ミサカに死への恐怖がないと思ってたんだ?」
「……ッ」
「まあ、ね。他の妹達は学習装置でそういう風にしてたからそうだけど。でもミサカは違う。一方通行への負の感情を抱くには"妹達を殺したこと"に何らかの価値を感じなきゃいけないんだからさぁ。ガラクタを踏み潰されたって怒んないでしょ?」

だから、コレ。と番外個体はどこか壊れてしまったように笑みを浮かべる。片方だけ首から外された手が掴んだのは、空の注射器。

「…鎮静剤と精神安定剤と、闘争心を煽って恐怖を無くすためのドラッグ。ミサカは人形じゃないかわりに、ヤク漬けのジャンキーにされたってわけ」

こひゅ、と一方通行の喉から掠れた音が漏れる。意識がぼうっとして、声がエコーのように響く。

(…ダメだ、今、ここで)

まだ自分にはやらなくてはならないことがあるのに。
一瞬脳裏よぎるのは、自分に全てを預けてなお安心しきったように笑う少女の顔。

(…違う、)

今、自分がしなくてはならないのは。

「…………、ィ」
「…な、に?」

悪い。

たったそれだけ。掠れた声でそれだけ呟くと、一方通行の首を絞めていた手は解かれた。
真っ暗な部屋の中で、番外個体はずるい、としゃくり上げながら言った。私達の痛みは消えないのに、自分だけ謝って楽になろうとして、生きる意味さえ迷わせる。番外個体は一方通行を殺すためだけに産まれたのに。

「アンタは、卑怯だ」


それでも、もう彼女の腕に力が込められることはなかった。



最近番外個体→一方通行が好きすぎる。ヤンデレおいしい。そして話がまとまらない。やはり私にヤンデレのハードルは高かったようである。



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -