「……」
「こんにちは、とミサカは礼儀正しくあなたに挨拶をしてみせます」

きっちり45度。御坂妹は一方通行に腰を曲げて挨拶をする。
対する一方通行は眉間に皺を寄せ、険しい表情のままだ。
相変わらず黒を基調とした格好で、手にはコンビニの袋がぶら下がっている。コーヒーでも買ったのでしょうか、と御坂妹が考えていると、
「…てめェ、ナニやってンだよ」
ワケが分からないといった表情で、一方通行は御坂妹を睨み付ける。
「何、と言った曖昧な表現は判りかねますが、端的に述べるならばあなたに挨拶をしているのです、とミサカは礼儀知らずな奴だと思いつつ返答します」
「…手前は自分を虐殺してた相手にも挨拶すンのかよ、バカじゃねェの」

嘲るような一方通行の様子に、御坂妹は少しだけ呆れたような気分になる。"実験"の中止の後から、一方通行は"妹達"に会う度に同じようなリアクションをとる。自嘲するようなそれが、御坂妹にとっては不愉快だった。どんなリアクションをして欲しいのだと怒鳴りつけてやりたくなる。
内心そんなことを思いながらも、御坂妹の表情には変化一つない。「挨拶をした程度で馬鹿扱いされるのは心外ですが、とミサカは不愉快になりつつあなたに告げます」
「挨拶ってモンは親しいヤツとするモンだろうが。自分の身体をグチャグチャにしてきた相手にするなんて、気でも狂ったンじゃねェの?」
「……くだらない、とミサカはあなたに吐き捨てます」
「あァ?」

御坂妹の発言に、一方通行は訝しげな表情をする。
それを気にする素振りもなく、御坂妹は言葉を続けた。

「くだらない、とミサカはあなたに言ったのです。あなたはミサカ達に会うたびにそのような発言をしますが、その意図はなんなのでしょう?とミサカは分かりきったことをあなたに尋ねます」
「会うたびにお前らみてェなのに挨拶されンのは鬱陶しいって言ってンだよ」
「ならばミサカ達を無視すれば良いのです、とミサカはあなたを鼻で笑います。自分の気持ちも理解出来ないのですね、とミサカは憐れみの視線を向けます」
「…くっだンねェ、俺がお前らを喜んで殺してた以外に感情も何もねェよ」
吐き捨てるように言う一方通行に、御坂妹は容赦なく言い返す。
「ほらまた、とミサカはあなたに指摘します。あなたの発言は自嘲ばかりです、とミサカは告げます」
「うっせェな、それがなンだって言うンですカァ?」
「あなたは、」御坂妹は、息を吸い込んで淀みなく言い放つ。

「懺悔したいだけですよ、とミサカは結論を述べます」

「…は?」
「いいですか、とミサカは溜め息混じりにあなたに説明します」
まるで出来の悪い教え子に説明するような口調で、御坂妹は話を続ける。
「あなたはミサカ達に罵って欲しいのです。罵られることで、耐え難い罪悪感から逃げたいだけです、とミサカははっきりと事実を述べます」
懺悔は救いだ、と御坂妹は思っていた。
ごめん許してと泣くことで相手に許されて楽になりたい。けれど、一方通行はそれが出来ない。だから敢えて妹達に罵倒や自嘲を告げることで罵ってほしいのだ。殺人者でも化物でも何でもいいから、罵って楽になりたいだけなのだ。けれど、御坂妹は思う。

「それは虫の良い話ですよ、とミサカはあなたを侮蔑します」

御坂妹は怒っていた。
確かに、怒りという感情が今の彼女にはあった。
自分達を"実験動物"と称していた頃にはなかった、それは確実な"変化"。
世界にお前は1人しかいないと御坂妹に対して怒ってくれた少年が与えてくれたもの。御坂妹はそれを無くしたくないと思う。
「ミサカ達があなたに良い感情を抱いているかと問われれば、答えは否です、とミサカは怒りながら告げます」

御坂妹の言葉に、一瞬だけ一方通行の顔が歪む。
本人も自覚していないような微弱な変化に、御坂妹は再度溜め息をつきたくなった。

(分かりきったことでも、真正面から言われるのは傷付くのですね、とミサカはくだらなそうに呟きます)

まるで失恋した少年だ、と心の中で御坂妹は一方通行を称した。
それでも、同情する余地なんて"今"の一方通行にはない。

「ふざけるな、とミサカはあなたに怒鳴り付けます。
確かにあなたは今まで1万以上の妹達を殺害してきました、とミサカはあなたに変えられない事実を述べます」

御坂妹は数ミリ眉毛を吊り上げる。今の一方通行を見て誰が彼を恐れるのだろう。それくらい、今の一方通行は情けない顔をしていた。本人は自覚がなさそうだが。
悪党にもなりきれない学園都市最強を真っ直ぐ見据え、


「あなたはそれを後悔しているかもしれません、ミサカは確信に近い憶測を述べます。でも、ただそれだけです、とミサカは言い切ります」

人々は無意識に2人のことを避ける。一方通行の白髪赤目の外見や御坂妹が額に付けている暗視ゴーグルのせいだけではない。
ただ2人を纏う空気だけが、重い。

「しゃがみこんで啜り泣くだけなら誰だって出来ます、とミサカは持論を述べてみます。大切なのはそこから何をするからではないのはないのですか?とミサカはあなたに問いかけます」

一歩。御坂妹が足を踏み出す。

「――は、?」
飛び退くことは出来たかもしれない、けれど突然のことに反応が送れた。
一方通行の目の前に、御坂妹が立っていた。
遠目から見たら、2人がキスをしているようにも見えたかもしれない。それくらい近い距離で向かい合う。
恋人同士とするには、あまりにも真っ直ぐと強い視線を御坂妹は一方通行に向ける。臆することなく、射抜くように。
一方通行の鼓膜が、揺れる。


「すべきことが、あなたにはあるハズです、とミサカは告げます。泣いて無様に懺悔していいのはそれからですよ、とミサカは付け足します」

それまでは、と御坂妹は続ける。自分達を殺してきた相手に向けるには、優しすぎる声色で。


「許してなんて、あげません」




(だから、しっかりしなさい)





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