これの続きっぽいもの



「あ、」

見覚えのある後ろ姿に、白井黒子は進めていた足を止めた。
ツンツンした黒髪に、気だるげに鞄を下げて歩いている――先日話題にも上がった、上条当麻だ。今日は不良に追われていないらしい。
そこまで考えたところで、黒子は前を歩く上条の足元の近くに空き缶が転がっているのに気がついた。このままだと確実に踏むのではないかと思い、

「ちょっと、そこの殿方さ――」

黒子が声をかけるのと同時に、空き缶が風で転がった。
計ったように、上条の足の間に空き缶が滑り込む。

(――あ、)

やばい、と思ったときにはもう遅い。黒子は条件反射的に、これから起こるだろう状況に目を瞑る。
「へっ?あ、ちょっま…、うあああ!」

直後。上条の悲痛な叫び声と、コンクリートに体をぶつけた音に続いて、鞄が開いていたのか中身が散乱したような音がした。
黒子が目を開けると、道に教科書やら筆箱やらをぶちまけて、仰向けの状態で倒れている上条の姿がある。

(うわぁ…、頭からですの)

どうやら頭からダイレクトに倒れるという見事な不幸っぷりを披露したらしい上条を見て、思わず同情の視線を送らずにはいられない。だかしかし、このまま放っていくわけにもいかないだろう。そう黒子は判断し、「不幸だ…」と仰向けのまま呟いている上条に近づく。

「はぁ…、大丈夫ですの?」
「へ?あ、白井か…――ッ!?」
「? 何ですの?」
「いいいや!何でも!何でもございません!」

黒子の姿を視界に捉えた直後、慌てたようにがばりと体を起こした上条を訝しげに見ると、
「いや、何でもないです!いやまじで何でもないから金属矢に手を伸ばさない下さいお願いします!」
「ふぅん…。まぁいいですの。ところで殿方さん。早いとこ片さないと周りの皆さんの迷惑になってしまいますのよ」
「え、ああ!そうだな、悪い」

いくら人通りの少ない道とはいえ、物が散らばっている真ん中に人が座り込んでいるのはマズいだろう。
黒子の言葉に、上条が慌ててノートやらプリントやらをかき集める。黒子も手伝い、手際よくそれらのものを拾い上げていく。あまり使い込まれていない薄い参考書に挟まれていたテストを見る限り、あまり学校の成績は芳しくなさそうだ、と思いながら。


「はい、これで全部ですの?」
「ああ。サンキューな」
集めたものを上条に手渡しながら、「しかし見事な転びっぷりですのね。ギャグですの?」
「ギャグで転ぶ程上条さんは芸人ではないのでせう。…ってか前にもこんなんあった気が…」
デジャビュ?と首を傾げる上条。
「貴方、そんなにしょっちゅう空き缶に足元取られてますの?」
「いや、あんときはたしかテニスボール……あ、そういやさっき声かけてくれたのって白井か?」
何か呼ばれた気がしたんだけど、という上条に黒子は首を縦に振る。
「まぁ、結果的には間に合わなかったのですが…」
「いーっていーって!あんがとな白井!」

結局自分は派手に転んだというのに、と黒子は少しだけ不思議に思った。でも、

(本当に屈託のない顔で笑いますのね、この方)

なるほどこれは厄介だ、と顔には出さないように溜息をつく。

「にしても、こんな道の真ん中に空き缶だなんて…まったくどういう神経してるんですの」
「なんつーか…空き缶が俺に吸い寄せられてる気がする」
「驚きの吸引力ですわね」
「上条さんは不幸掃除機ですか」
あながち間違っちゃねぇけどさ、と上条は苦い表情を浮かべる。
人懐っこい、というより他人に対して壁が薄いのだろうか。知り合って間もない黒子に対しても、長い付き合いの友人のように接してくる。

(お姉様も、こんなとこに惹かれたのでしょうか)

黒子は今いない上級生のことを考える。彼女はちょっと空回りしてる気がしなくもないが。照れ隠しとはいえ、会って直ぐに勝負だなんだと言って電撃をぶっ飛ばすのは警戒されるだろう。

(まぁそんなとこも可愛いのですけど)

「…おーい、白井?どうした、なんか顔がやっちゃいけないくらいにニヤけてますが」
「あら、私としたことが」
「何を考えてたのか聞くのがこわいな…」
「なんで今ここにお姉様がいらっしゃらないのでしょう…」
「自重しような白井。っていうかそうか、御坂…」

忘れてた、と言った表情で上条は頭を掻く。先程までのやり取りで、自分とこの少女がどういう関係なのか忘れていたのだ。知り合いの後輩。しかも、知り合い――御坂美琴に関してはあまり良く見られていない気がする。

「あー不幸だ…。まぁいいや、白井」
「何ですの?」
「お前このあと時間あるか?」
「はあ、まぁ今日は風紀委員のお仕事もありませんし…、暇と言っては暇ですが…」
「そっか!じゃあさ、飲み物かなんか飲みいこうぜ」
上条の突然の申し出に黒子は思わず「はい?」と首を傾げる。

「荷物も拾ってもらっちゃったしな。お礼しますってことですのよ」
「別にそれくらい…。というか学園都市の治安維持は風紀委員のお仕事ですの」
「人助けも治安維持なのか…。ま、んなことはどーでもいい。ホラホラ上条さんの気が変わらないうちについてきた方が懸命ですことよ」
どうやら黒子に拒否権というものはないらしい。
上条はすでに行く気満々で黒子を手招きしている。

(本当によく分からない人ですわ…。しかし、お姉様のことを聞くのには良い機会かもしれません)

見定めてやろうではないか。
敬愛するお姉様に相応しいかどうか。そんなことを考えて、黒子は上条の後を追う。

「殿方さん」
「何でございませう?」
「私の審査は厳しいですわよ」
「へ、何の話だ?」

今はまだ分からないで構わない。意味が分からない、といった上条に黒子は勝気に笑ってみせた。



(覚悟してくださいまし!)




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