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Come if interested(カグミコ)







カグラに愛されれば、愛されるほど、その気持ちに甘えてしまっている自分がいた。
こんなにも自分の事を想ってくれて、そして、愛してくれていて。そんな人は、なかなかいない。
そんな人がいるだけで、とても幸せなはずなのに。


(私は、何も、与えるものなんて、ない)


カグラといればいるほど、それを痛感せざるを得なかった。
誰かの特別になるのが、とても怖くて堪らなかった。エレメント能力もない、優れた才能があるわけでもない、こんな自分を誰も必要としてくれない。

歪んだ自分の心が、まっすぐに気持ちをぶつけてくる彼の心を、素直に受け止めることなど、できなかった。



「じゃあ、また、明日な」

「うん、また……」


日が沈み、ミコノを寮まで送り届けたカグラは、ミコノが寮に入るのを見届けるまで待って、帰路に着く。
部屋に戻り、ドアを閉めたミコノは、真っ先にベッドに横になり、カグラの顔を思い浮かべた。



(私を、大事に、大事にしてくれる)



それなのに、どうして、涙が出てくるのだろう。
辛い、辛い。
素直に彼の気持ちに応えるだけでいい、ただそれだけの、簡単な事なのに、あと一枚の壁を越えられない。彼がすべてをミコノに捧げている事なんて、もうとっくにわかっている。
ミコノが想いに応えてからのカグラは、ミコノをとてもとても大事にしてくれた。

ほんの一分、一秒でも、顔が見たかったからと理由で訪れてくれたり、聞いていて照れくさい言葉も、ちゃんと伝えてくれた。


(私は)


ミコノは、カグラに伝えた事がなかった。カグラにも問われた事はない。
ミコノと一緒にいるだけで、幸せだと告げたカグラの幸せそうな表情が、脳裏を掠める。




「……っ、カグラくん…………」



気づけばミコノの涙は収まらず、シュシュも気にかける程の涙を流していた。幸い、部屋にはミコノしかいなかった為、ここは我慢せずに、泣こうと決めていた。

その時、ぺろっと舐められる感覚が頬を刺激する。シュシュが気にして、涙を拭ってくれたのだと、ミコノはシュシュを撫でようとした。



「ありがとう、シュシュ」


シュシュだと思い、目を向けた先には、カグラがいた。



「っ………!え………、カグラくん……」

「……………………」



カグラはミコノのベッドの上に乗り入り、ミコノをじっと見つめた後、またミコノの涙を舌でぺろぺろと舐め続ける。
どうしてここにカグラがいるのか、理解ができないまま、ミコノはカグラの行為を受け入れる。

そうしてカグラは、ミコノと目を合わせた。



「……どうして、どうやってここ…」

「……お前が、俺に会いたいって言ってるような気がしたから、ミコノの匂いを辿って、ここに来た。不用心だな、鍵ぐらい閉めとけよ」


電気もついてない、薄暗い部屋の中、カグラの低い声が胸をときめかせる。


「…それに、最近、なんか様子おかしかっただろ、なんかあったのか?誰かに酷い事でもされたのか」

「ち、違うの、そういうんじゃないの……」



ミコノがカグラから視線を逸らし、手をぶんぶんと振る。いつもなら、ここで切り上げるはずのカグラが、今日は引く様子を見せない。


「……俺が何かしたか」

「………!」

「何かしたなら、言ってくれ。お前に嫌われるのだけは、ごめんだ」



そんなことはない。あなたは何も悪くない。悪いのは私。私の心が悪いの。あなたに愛されることが怖い。ここまで私を求めてくれる人が急にいなくなってしまったら、私は耐えられる自信がない。


「……私は、カグラくんに、何を与えてあげられているのかな」

「何って……」

「……私は、何もないのよ?何にもない、私なのに」



ミコノがそう告げると、カグラはミコノの両頬を掴み、顔を近づける。彼の金色の瞳がミコノを見続けた。



「俺だってそうだ」

「カグラくん…」

「俺だって、お前に嫌われるのが怖い。お前だけは、俺を裏切らないとわかっているのに、いつも、いつも、怖いんだ」



だから、いつも彼女を優先させた。ミコノが気持ちを伝えてくれなくても、尋ねる事を控えた。大丈夫だ、ずっと傍にいてくれるんだと言い聞かせては。


「……っ、そんなことないわ!私はあなたを……一人にしたりなんか………」

「俺だってそうだ、例え何があっても、お前が何を思っていようが、俺はお前しかいらない、お前がいいんだ」

「……でも、私は」

「……あんだろ、ミコノ。お前は、俺を幸せにする力を持ってんだろ。俺はそれだけで、いい」




唇の距離が狭い中、言葉が紡がれる。
まただ、自分はまた、彼に幸せにしてもらってしまった。どんなことがあっても、彼は自分を選ぶと言う。それならば、自分は。



「……好きよ、大好き。カグラくん」



そう告げたミコノがカグラの服を引っ張り、ベッドへと倒れ込んだ。
ミコノを上から眺めたカグラは、顔を真っ赤にする。ミコノにシチュエーションを作られた事に、戸惑いを隠せなかったからだ。



「……あなたは、私を、満たしてくれる人よ」

「ミコノ………」

「もっと満たして。あなたのすべてで、私を」





初めてミコノは、カグラに要求をする。我ながら、大胆だなと思う。
けれど、今、カグラに骨の随まで愛されたいと思い、そしてカグラを愛したいと思っていた。










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