長くて甘くて精一杯の(アマミコ)
「うわ、甘っ」
コーヒーを口に含んだアマタは、砂糖を入れすぎた事にも気付かずに、口の中が砂糖一色になってしまったのかと思うくらいの甘さを味わっていた。
こんなに甘いコーヒーを飲んでいても、彼女の、ミコノの甘さとは、比べる事はできなかった。
つい先程までミコノとは一緒にいた。普通に話をする時は、言葉が詰まることもなく、ゼシカやMIXやユノハと同じように会話することができるのだが、ミコノのすぐ傍にいるだけで、おかしくなってしまいそうで。シュシュが暴れ回るまで気付かないままで。
「はあ………」
ほんの一瞬だった。ミコノへホットミルクを渡し、ミコノが受け取った際、ミコノはコップをそのまま受け取ってしまい、熱さでコップを落とし、コップは割れ、ホットミルクが床全体に広がった。温まったミルク、そしてその甘い甘い匂いが部屋全体に広がった。
アマタは真っ先に、ミコノの指先を掴んでいて、火傷をしていないかどうかを確認した。
ミコノの指は少しだけ赤く染まっていたが、これくらいなんともないよと、ミコノは笑いながらアマタを見つめた。
なんとなく笑いあっていただけだったのに、目が合っただけで、さっきまでの穏やかだった空気とは一変して、ホットミルクが誘い込んできた甘い空気に変わっていた。
アマタはまだ、ミコノの指を握っていて、いつしかその指を人差し指、中指、順番にゆっくりと絡ませあった。
ホットミルクのカップを触れて熱かった指が、今度はアマタのせいで、指が火傷してしまいそうだった。
こういう時はどうしたらいいの。どうして何も言ってくれないの。そんな困ったような顔で見たりしないでお願い、ミコノは何度も息を呑む。
アマタの放つこの優しい空気は、気持ちの高ぶりを頂点に上げるのは早い。
ずいっとアマタがミコノの顔へ近づいた。瞳を潤ませながら見つめられて、アマタもまた、気持ちが頂点へ昇りつき、そしてミコノのその顔を、誰にも見せたくないと思った。
「アマタくん」
「ミコノさん」
互いの名を呼び合ってから、すぐに唇は重なった。アマタのゆっくりな丁寧な口づけ。離しては口づけ、その度に唇が触れ合ってる音が響いた。
数分ぐらいそうした後、二人は「恋愛禁止」というワードを思い出し、互いに互いを突き放した。
「そ、その、あの、コップ、ごめんなさいっ!!!」
「え、あ、ミコノさん!!」
アマタの伸ばした手はミコノへは届かず、彼女は部屋からいなくなった。
「甘かった………」
今のこの濃密に過ごしてきたミコノとの時間は、アマタにはとても甘くて、耐え切れ難いものだった。
割れたカップを片付けては、ホットミルクが零れた跡を拭いても甘い、ブラックで飲もうと思っていたコーヒーも、砂糖を入れすぎて甘い、ミコノを思い出しては、甘い。
「甘すぎだ………」
だけど、ミコノの甘さだけは、もっともっと、味わってみたかった。
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