甘い後味を残して(カグミコ)
紅い髪の男の姿を目にしては、その場に立ち尽くす日々が増えた。
会った回数は、指で数えるぐらいしかないというのに、こんなにも強烈で、強力で、すべてを奪っていく。
そしてすぐに見つけられ、見つけることができた。
その腕で、何度抱きしめられただろう。どこにも行かないよと、伝えても信じてもらえない。寧ろミコノを抱きしめる力は強まり、カグラの厚い胸板にミコノの顔は押さえ付けられ、彼の中へと入り込んで、一つにされてしまいそうだ。
そんなカグラに翻弄されつつも、その力強さがミコノを安堵させていく。
恐怖ばかりを生んでいた場所が、いつしか心地好い場所へと変えていく。
「この肌の柔らかさ、気持ち悪い、お前とこうしてると、居心地が悪い」
そう言いながら、カグラがミコノの絶対領域へと指をなぞらせ、ふにふにと揉んだ。
この不器用な手つきもまた、ミコノの顔を真っ赤にさせるのには早かった。気持ち悪い、居心地が悪いと言われて、あまり気分はよくないのに、肌に触れてくる指や、ミコノの額にそっと触れる柔らかい唇の感触が、とても困った。
ミコノの宙ぶらりんになっていた両腕を、そっとカグラの腰に廻す。
「っ、な、なにすんだ、クソ女!!
」
こんなに密着して、顔色ひとつ変えなかったのに、ミコノの方からアクションを返すと、すぐにカグラは顔を赤くする。クソ女、クソ女。そう言われるのもなれた。自身を抱きしめながら、そう叫んで、そして優しくも呼んでくれて。
「私の名前はクソ女じゃないわ」
「何言ってんだ、当たり前だろ、クソ女」
名前で呼んでと言っても、彼はミコノを名前では呼んでくれない。
「カグラくん」
「なっ……」
「カグラくん、カグラくん、カグラくん」
「やめ、やめろ…やめてくれ……もっと…呼べよ、出ないとこうしてやる」
ミコノの唇から吐息が漏れ、その息すらも、カグラの唇の中へと吸い込まれていく。
彼女がもう、彼の名を呼ぶことはしばらくなかった。
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