愛してる≠忘れた頃に(冠陽)
大切な大切な天使は、絶対に守り、絶対にたすけなくてはいけないと心に誓っていた。
最早それが、自分の使命でもあった。
天使に唇を捧げるのは、ほぼ毎日と言っていいほど。
それは誓いの口づけでもあり、彼女への想いを、自らのすべてを捧げるという意味合いも持ち合わせていた。
ならどうして、こうまで自分は焦らなくてはいけないのか。
陽毬から好きだと言われても、想いを確かめ合っても、本当の彼女の想い人は、自分ではないからだ。
そんなのは見ていればすぐにわかった。記憶をなくしていたとはいえ、心は、体は、覚えているものなのだ。
その心も体も、冠葉という存在で埋め尽くしたくてたまらない。行き過ぎた愛情だとしても、もう後には戻れなくても、それだけが自分のすべて。
「冠ちゃんは、私を甘く見すぎてるよ」
陽毬は言った。
誰よりも冠葉が、自分の事を助けてくれていたことを知っている。
冠葉が自分に対して、家族以上の想いを抱いていることも、陽毬にはわかっていた。
こうすることは、冠葉にとっては、拷問になるのかもしれない。
だが陽毬は、そうしたくて堪らなかった。冠葉は勘違いをしている。自分が冠葉へと抱いている想いの事を
「冠ちゃん、一緒にお昼寝しよう」
「はっ!?ひ、陽毬……」
「もう、何動揺してるの、いいじゃない、だって私達……家族なんだから」
冠葉が耐えれないことも知っている。
それなのに、これは彼を虐めるだけの行為だ。
でも、彼をここに繋ぎ止めておけるのは、自分しかいないのだから。
いつもは晶馬と冠葉の部屋だが、そこに陽毬は入り込んだ。
畳の上で既に寝そべっていた冠葉と背中を合わせて、陽毬も横になる。
背中が熱い。背後には陽毬がいる。冠葉は耐えた。
「冠ちゃん」
「…どうした」
「久しぶりだね、こうやって、ごろごろするの」
「ああ、そうだな」
ただ何もせずに、ただ横になり、日常生活の出来事を毎日のように語っていたあの頃を。
それは当たり前のもの。けれど、何にも変えられない大切な宝物だ。
「陽毬」
「うん?」
「お前、いつから、こんなに意地悪になったんだ」
「さて、いつからでしょう?忘れちゃったよ」
くすくすと陽毬は笑う。
冠葉は体を動かし、陽毬と背中を合わせた。
小さな背中。服の感触が冠葉へと入り込む。こんな小さな少女は、すでに達観している何かを持ち合わせた、女性だった。
「陽毬」
受けいれてくれとは言わないが、受け止めてほしかった。
「好きだ」
「…うん。私も好きだよ、冠ちゃんのこと」
信じてよ、冠ちゃん。
そんな言葉は、風に揺れた。
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タイトル・間接の外れた世界