輪るピングドラム | ナノ

只の理想だと笑いながら(晶苹)








晶馬は周りからよく、温厚な性格をしていると言われていた。
見た目からにして、穏やかで、日だまりのような存在感を醸し出していた。
そう言われても晶馬は、特に悪い気はしなかった。
自分でもそう思っていたし、クールなつもりはなかったが、怒りが込み上げてくるということもない。
感情に波を生じることはなかった。

陽毬の一件や、ピングドラムを手に入れる為に、荻野目苹果と接触するようになってからは、晶馬は、正直、毎日が疲れていた。

本当、一体どうしてしまったものなのか。



「君と関わるようになってから、僕自身がおかしくなりそうだよ」



次のミッションの作戦を立てている苹果の側で、晶馬はふと気が緩み、本音を漏らしてしまう。
「は?」と苹果のきつい言葉が返ってくる。
つい言ってしまったと後悔した時は遅かったが、彼は、苹果がまた自分の制服を掴み上げて、力強く、体全身を揺さぶられるんだと思い、構えていた。

だが苹果は何もしてこなかったのだ。

苹果はテーブルの上にある、切られた林檎を爪楊枝で刺し、晶馬へと差し出した。


「え」

「食べなよ」

「あ、ありがとう」



晶馬は林檎をかじる。
林檎の甘さと酸っぱさがいい感じに広がり、晶馬の咥内を林檎で埋め尽くした。


「美味しい」

「でしょう?だって、私だもの」



ごくんと晶馬は勢いよく呑んでしまい、喉を詰まらせ、咳を繰り返す。
苹果はそんな晶馬を見て、くすっと微笑み続けた。
あなたは気づいているのかと。

自分と初めて会った時に比べて、今のあなたは、感情をよく見せるようになっているんだよ、と。



「荻野目さん……?」

「これくらいで動揺しちゃって、ばっかみたい」




違う、動揺したのは自分の方だった。
ちりちりと熱くなっていく胸の奥が、それを証明していた。












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タイトル・異邦人

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