そうすれば愛されると思ったから(冠プリ)
「貴様、どうしてもこの女を失いたくないのだな」
晶馬が先に現世へと戻され、冠葉は陽毬の体を使い、こうして会話を交わしている、『姫』と言葉を交わしている。
陽毬ではないとわかってはいるが、姿は陽毬だ。
最初は戸惑ったものだ。だが、話し方も瞳の色も、雰囲気もすべて、別の者へと変わってしまう。
それからは、陽毬と姫は、完全に違うと認識できるようになった。
「そうだ。俺は、陽毬の為なら、なんでもする」
「ほう、妹であるこの娘を、女として、愛しているのだな」
ヒールの音が、冠葉へ向けて、どんどん大きくなっていく。
姫は冠葉に歩み寄り、冠葉の顎へ人差し指を添えた。
冠葉は姫の視線を跳ね返すような事はせず、染まる深紅の瞳を見つめ続けた。
「報われない恋か」
「なんとでも言え」
姫の発言にも、冠葉は動揺することはなく、対応することができた。互いに挑発する発言を幾度か繰り返してはみたが、引く気配はない。
姫は冠葉と鼻を触れ合う。冠葉はわかっていた。陽毬が好きな自分を、完全に試していると。
「好きな女子が、ここまで近づいても、貴様は顔色ひとつすら、変えないのだな」
「お前は陽毬じゃない、理由はそれだけだ」
「つまらんな」
最後の悪あがきとして、姫は冠葉の顎を掴み、一瞬であったが、唇を重ねた。その感触は陽毬のもの。冠葉の心は一瞬、平静さを失わせた。
「せいぜい苦しめ、このシスコンが」
姫が勝ち誇ったような顔を見せ、笑っている。
次に冠葉が気づいた時は、家のリビングであった。冠葉は恐る恐る唇を触った。
潤いがある。陽毬の唇の感触を、確かにまだ感じている。残っている。
「あの姫、どS過ぎるだろ」
「姫って誰?」
ひょっこりと顔を見せたのは、彼が誰よりも愛する少女、陽毬だ。
冠葉がすぐに見たのは、陽毬の唇だった。自分はほんの一瞬だとしても、確かに、その唇に唇を重ねたのだ。中にいるのが、陽毬ではなくても。
「やっ、な、なんでも、ないんだ、陽毬」
「珍しく冠ちゃん、慌ててるね」
「そ、そうか?」
陽毬の唇の動きを無意識に追い掛けてしまう自分が、とてつもなく恨めしい。
あの姫に、自分は確かに苦しめられてしまった。
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タイトル・Evergreen