そこには意味が在り過ぎた(晶苹)
晶馬を好きだと自覚してからの自分は、いつも見ている風景が、世界が、変わっていた。
姉の残した日記の運命を自分が達成させようとし、多蕗を好きだと錯覚していた頃とは、まったく違っていた。
苹果は桃果を乗り越えた。
だからこそ、今まで感じていた当たり前の日常が、生まれ変わったんだと、体中に感じ、そして受け止めた。
日記を手に入れる為に、晶馬は自分の傍にいてくれていた。
だがもう、自分には、日記がない。
彼が求めているものを、手にしてはいない。
彼が自分の傍にいる意味が、なくなってしまったのだ。
晶馬と関わりがなくなる、会えなくなる。
そう考えた苹果は、意地でも繋がりを消したくなくて、高倉家にお邪魔したりした。
陽毬を利用するつもりなど、更々ない。
陽毬は自分の友達だから。それに、陽毬に会いたいのも嘘偽りのない、事実であるから。
苹果は陽毬と、他愛のない会話をしていた。
陽毬が、冠葉や晶馬の話をたくさん自分にしてくれた。
苹果はそれが嬉しかった。
陽毬が自分に心を開いてくれている、と。
「ただいまー」
「あ、晶ちゃんだ」
ただいまの声を聞いた苹果は、急に心臓の鼓動が早まりだした。
あんなに会いたかったはずの彼が、もうすぐ傍まできているのだ。
どうしよう、ちゃんと話せるだろうか、また怒鳴ったりしないだろうか、あれこれ考えて、その時を待った。
「あれ、荻野目さん、来てたんだ」
「う、うん、晶馬くん、お、お邪魔して、ます!」
「どうしたの?そんな片言になっちゃって……」
苹果はしまったと思い、にっこりと微笑みながらも、心の中はとんでもないことになっていた。
自分が晶馬を意識しているんだと知られたら、どうしようと冷や汗が出そうになる。
「苹果ちゃん、たくさん面白い話、してくれたんだよ」
陽毬がにこにこしながら、晶馬に語り、苹果へと近づいて、陽毬は腰を落とす。
「よかったね、陽毬。荻野目さん、いつもありがとう」
「ううん、だって私、陽毬ちゃんの事好きだから。ねー?」
苹果は陽毬と顔を見合わせて笑う。
陽毬と打ち解けることができて、陽毬が慕ってくれて、確かに嬉しい。
だから、今度は。
(晶馬くんも、私に、心を開いてくれたら、いいな)
その言葉を、想いを、いつか、彼へと。
――――――――――
タイトル・Evergreen