黒い天使に花は降る(冠陽)
本当は、ずっと、わかっていたのかもしれない。
冠葉も晶馬も、自分には、とっても良くしてくれた。
特に冠葉は、とても優しい顔をしては、いつも、大丈夫だとか、俺がお前を守ってやるとか、家にいる時も、いつもそういうことを言っていたと、冠葉の声が、陽毬の頭の中を廻らせる。
先日、陽毬は、無事に病院を退院することができた。
家に帰り、皆で食卓を囲み、少し一息ついた後、晶馬が苹果を送っていくと家を出た後、陽毬は、冠葉と二人きりになった。
自分を守る為に、親の罰を受ける為に、左手に傷を負った冠葉。
陽毬は、冠葉の左手に巻かれた包帯を見ては、あの廃坑での出来事を思い返し、目が潤み、心の中が熱く燃えて、張り裂けそうになってしまっているのを、知っていた。
陽毬が自分の左手を見つめていることに冠葉は気づき、あえて包帯を巻いた手で、陽毬の茶色い長い髪を撫でた。
絡める事は敵わなかった。
「冠ちゃん」
陽毬が何かを言いたそうにしている。
口から出てくるのは、謝罪の言葉か、感謝の気持ちなのか。
冠葉にとっては、どちらでも嬉しいものではあるが、どちらもいらないと思った。
陽毬は自分の為に生きろと、促した。
陽毬にいくら言われようと、自分は陽毬の為に生きていきたい。
この手に負った傷は、その証だ。
「肉、美味かっただろ」
「え、うん、とっても、美味しかったよ」
陽毬の言葉を、冠葉は遮る。
まだ終わりたくない。この思いを消したくない。
頼むからまだ、消さないで。
彼はそれだけを切に願った。
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タイトル・Evergreen