スピカの涙(高倉三兄弟)
誰かが泣いてる……
ねえ、誰…?
どうして泣いているの…?
「…毬、陽毬!」
「えっ?」
「大丈夫?うなされてたみたいだけど…」
陽毬をいくら呼んでもい、陽毬がこないため、心配した晶馬が様子を見に来ていた。
「平気だよ…大丈夫」
陽毬はベッドからゆっくりと起き上がる。自分でも知らないうちに、冷や汗をかいていた。
「陽毬、あんまり無理しちゃダメだよ。もう少し休んだら?」
「ううん、大丈夫」
「ダメだよ、やっぱり少しだけ休んでて。冷や汗もかいてるし…」
晶馬は、よろよろになっている陽毬を再びベッドへと座らせた。
「晶ちゃん、ありがとう…でも、すぐ行くからね」
「了解」
そして晶馬は陽毬の部屋を後にし、居間へと戻った。
「晶馬。お姫様はどうしたんだ?」
すごく眠そうな冠葉だったが、晶馬が複雑そうな顔をしていたのを見て、陽毬と何かあったのかを察した。
「気分が良くないって」
「まあ、まだ緊張してんのもあるかもな。生活にも慣れてないんだろ」
「冷や汗もかいてたんだ」
彼は陽毬をとても心配していた。
いつしか、無理をしすぎて、壊れてしまいそうな感じが消えなくてしかたない。
「可能性は高いな。あいつも、俺達に話してくれれば、少し楽になると思うのにな」
「だよね。まだ、一人ぼっちだって、思っていると思うから」
そして二人は陽毬の部屋の方を見る。あの日、血の繋がりのない自分達が兄弟となり、新しい生活がスタートした。そんな簡単に新しい生活になれるはずがない。陽毬だけでなく、冠葉、晶馬もそうだった。
その頃、陽毬はベッドの上に横になり、顔を埋めていた。
あの泣いていた人はきっと自分だ。孤独が辛くて、泣いている。
一ヶ月に数回は夢を見ていた。
いつもは平気なのに、今回は無理だった。
にこやかだった瞳も、戻らない。
笑顔という感情をなくしてしまったかのように。
「涙………か」
その後は、ずっと目を押さえていた。
いつのまにか、泣き疲れて、眠ってしまう。
またあの夢で、私は私との対面を果たす。
泣いているのは自分。
どうする?私はどうすればいいの?
「泣かないで!泣いちゃダメ。あなたはこれから簡単に、涙を見せてはいけないの!」
それは精一杯の自分への言葉だ。
それでも、泣き声は止まらなかった。
それを見ていると、なんだか悲しくなった。
私は待っていたんだ。
誰かが傍にいてくれることを。来てくれることを。
「…泣かないで」
陽毬は自分を優しく抱きしめた。
少しだけど、わかった気がした。
私はもうひとりじゃない。
「ん………頭…いたい」
目を開けると、目の前に入り込んできた風景。
そこには冠葉と晶馬がいた。
晶馬は、しっかりと陽毬手を握り、冠葉は椅子に腰掛け、こちらを向いていた。
手が暖かくて。
表情が優しくて、なごむ。落ちついていられる。
「大丈夫?陽毬」
「う、うん…冠ちゃん、晶ちゃん……どうしたの?」
「俺達はお前が心配になって、ここにいたんだ」
そう言うと、冠葉は陽毬の隣に座った。
照れ隠しのせいか、陽毬は晶馬の手をふりほどき、立ち上がる。
「あ、あの…ありがとう」
そう一言だけ告げて、陽毬は自室をあとにした。
「なんだ?ったく、あいつも可愛くねえな」
「けど、すっきりした顔だったよ、陽毬」
「ああ、そうだな」
ふと思う。
私は、二人のもとで暮らすことができて、よかったのかもしれない。
私がこんなんでも、優しく受け止めてくれる。
だから私は最初から、ひとりぼっちじゃないのかもしれないって、思えた。
「本当…ありがとう…」
ドア越しにつぶやき、再び彼女は、二人の元へと戻っていった。
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タイトル・Evergreen