輪るピングドラム | ナノ

恋するものの行動力(晶苹)





(………好き)



その気持ちが通じ合ったときの嬉しさは、すごく計り知れないものだ。
想いを伝えたのは、彼女を拒絶してから。
雰囲気も、ムードも全然なかった。
だけど、彼女を想う自分の気持ちを、抑え切ることが出来ず、言ってしまった。


「晶馬君?どしたの?深刻そうな顔して」

「あ、あのさ、聞いて欲しいことが…あるんだけど……」


晶馬は、自分の心臓がバクバクとしていることに、少し焦り始めていた。
そうなることは、当然だ。
一生分の勇気を使ってしまいそうな、そんな感じだった。
でも、もしフラれた時のことを考えると恐くて、どうしようかとも思う。
だんだん、顔が百面相になってきた。



「なに?改まって」



(うっ…………)


いつにも増して、彼女がとても可愛く見える。
いや、彼女はいつも可愛い。それは本当だった。


「……茶化さないで、聞いてほしいんだ」


晶馬は深く深呼吸すると、彼女の方をちゃんと見て言う。


「好きだよ。ずっとずっと……好きだったんだ」

「えっ…………」


さすがの苹果も、晶馬の言葉が冗談でないことは、わかっていた。
いつもと違う、真剣な表情。そうだと知っていても、口では違うことを口走ってしまう。


「またまた〜、何言ってるの?晶馬君」


晶馬から視線を反らし、苹果は晶馬に背中を向けた。


「……本気だよ、僕」


晶馬の低い声が、苹果の心を圧迫する。
嬉しいよ。嬉しすぎる。晶馬に飛びつきたいくらい。だけどダメだ。


「………ゴメンね。嬉しいけど……気持ちには、応えられない……」

「……他に、好きな人がいるの?」

「そうじゃなくって……今はさ、自分のことで…いっぱいいっぱいで、恋とかそういうの…考えられないんだ」



やっぱりか、と晶馬は感じていた。
もしかしたらフラれるんじゃないかと思っていたから。


「そっか……わかった。いきなり…ごめん」


カツカツと晶馬の足音がどんどん、遠ざかっていく。
苹果は、足を竦めた。


「っ………く………」


好きな相手から、告白されることは、とても嬉しい。こんなに嬉しいことはない。
でも、苹果は受け入れることができなかった。
晶馬のことを、苹果はとても大好きだ。
誰にも取られたくないし、譲れない。
でも、今の自分では、彼に釣り合わないと思った。

多蕗の件もある、晶馬を事故に遭わせたのもある、こんな目茶苦茶な自分が、果たして晶馬の隣にいてもいいものなのかと。自分を責めた。



一方の晶馬も、部屋に帰り、布団に座り込む。
予想以上に、ショックだった。
ちょっとでもいいから、期待してた自分が、恥ずかしい。
自分はフラれたんだ。
その事実を、受け入れるべきだ。


「………情けないな、本当」



笑顔で名前を呼んでくれる、彼女の姿が、脳裏に浮かんでいた。






−−−−−コンコン




扉をノックする音が聞こえる。
軽い眠りについていた晶馬は、ぼ〜っとしながら、返事をして扉を開けた。



「……………………」




目の前にいたのは、苹果だった。
正直、今は会いたくなかった。晶馬はまともに苹果の顔が見れない。



「……ちょっと、いい?」

「………いいよ」



だが彼女を追い返すなんて、晶馬にはできなかった。



「……電気、つけないでね」

「う、うん………」



今から何を言われるのかと思うとビクビクしてしまう。本当に恐い。
苹果が今どういう顔をしているのかも、わからないというのに。



「晶馬君さ、私のどこがいいの?」

「……どうして、そんなこと聞くの?」

「だって……そうでしょ?私、全然………」




苹果の問い掛けに、晶馬は考えるフリをする。
どこがいい?なんて、考えたことはない。



「……それは、わからない。でも、僕にはもう……女の子にしか見えてないんだ」



きっと彼女は、何かしら、どこが好きなのかを、あげて欲しかったんだと思う。
そんなの、数え切れないほどたくさんある。
でも、言わなかった。


僕は、君自身がいいんだ。


何もかも、すべて。



「……わからなくて、私こと…好きなの?」

「何かしら言わないと……納得してくれないの?」

「だって……信じられないんだもん………」




理由を言ってほしかった。安心したかったのだ。
彼は、自分のこういう所がいいんだ、と。



「………荻野目さん自身がいいんだ」

「……………?」

「君がいいんだよ。僕はずっとそう思ってきた」

「っ………なにそれ、そんなの理由にならないよ……」




この人は本当に自分の事を思ってくれているのだ。自分は暴走もするし、こんな人間なのに。

(……言わなきゃ、私も………)


「晶馬君」

「何?………おわっ」


苹果は、晶馬にぎゅっと抱き着く。それはずっとずっと、そうしたかった嬉しさの表現だった。


「さっきは……ゴメンね。本当は私、晶馬君が大好きだよ」


あまりの突然の出来事に、晶馬は目をパチクリさせた。


「……本当?」

「本当。さっき…すっごくね、すっごく…嬉しかった。でも…なんかね……」



苹果の言葉を遮るかのように、晶馬はしっかりと苹果を抱きしめていた。
離すことがないくらいに。


「し……晶馬君?」

「荻野目さんごめん……体が……自然に……」



今の言葉が、嬉しくて嬉しくて、抑え切れなかった。抱きしめたかった。閉じ込めたかった。


「ぁ……えとね、私じゃ……釣り合わないんじゃないかって思った。私、こんなだし……」

「そんなことないよ。本当可愛い。僕は君じゃないとだめなんだ」


暗闇で顔は見えない。
そんな中、苹果は、晶馬が今、どのような状況であるか気付く。


「………なんで泣いてるの?」


苹果に顔をうずくまらせた晶馬は、涙を流していた。なんて情けないんだ、晶馬は自分でも驚いた。
苹果に思いが通じて、嬉しくて流した涙だ。



「本当……嬉しいんだ……………」

「晶馬君……」




苹果はポンポンと彼の背中を叩いた。
苹果も自分がこんなに、晶馬のことが好きなんだと、実感した。


「……大好きだよ」



窓から差し込む月光が、部屋の中を照らしていた。


二人を祝福するかのように。






――――――――――
タイトル・反転コンタクト


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