ミラの背中には、ジュードのゴツゴツとした手が触れられている。
触れているだけではなかった、背中をなぞりながら、そしてさりげなく、ブラのホックを取ろうとしている。
さすがのミラにもわかる。そんなに遊んでいると伺わせない彼が、片手で外す事ができることに、少しばかり関心した。
舌を舐めあいながら、彼女が考えていたのは、そんなこと。
ブラのホックが外された時点で、ミラは膝で、ジュード、所謂男の急所を、力強くぶつけた。
「っ………!」
やられた。油断した。
ジュードは強烈な痛みに耐え切れずに、ミラの背中から手を離し、離された手で顔を覆い隠した。
本当にこのミラという女は、他の女とまったく違う。
普通ならもう、気分が高まって、体を許して、いくところまで、一緒にいってくれるものではないのか。
「調子に乗るからだ」
ミラの膝は、未だ、ジュードの敏感な部分の近くに置かれたまま。
「次にまた手を出そうとしたら、すぐに蹴りつけてやるからな」
「……は……っ……怪我人に容赦ないね……」
「私を簡単にモノにできると思ってもらっては、困るからな」
わかった、もう手は出さないからとジュードはミラに誓い、ミラは膝を退かし、ジュードから離れた。
ミラは服を少し上げて、外されたブラのホックを付けなおす。
指の隙間から、ジュードはその姿を密かに覗いていた。
綺麗だった。色っぽく美しく。自分のモノにしてしまいたかった。
ミラはどんな声で鳴くんだろう。どんな顔をするんだろう。
少しずつ近づいているつもりでも、実際には近くなんかなっていないということを、ジュードは知っている。
すぐ隣の家に帰るよりも、どんなにあしらわれても、優しくなんかしてくれなくても、ジュードはミラに会いたくて、ついつい隣に足を運んでいてしまっていた。
自分はMなのかと思った。ミラの対応が新鮮なのか否か、普通の女性とは違う。キスは許してくれる。一度ではなく数回も。
キスなんて減るものじゃない、それが彼女の口癖だった。
きっと自分が思う以上に、たくさんの恋愛を経験してきたのだろう。態度と言葉と行動でわかる。
しばらくしていると、煙草の匂いがジュードの鼻に入り込んでくる。吸っているのは、ミラだった。ジュードの視線を感じ、ミラは腰に手をあてながら、ジュードを見た。
「なんだ、眠ればいいものの」
「何吸ってるんだっけ」
「LARKの赤だ。ああ、お前は吸わないんだったな、すまない」
「すまないなんて、思ってないくせに。思ってるなら、吸わないでしょう」
「ふっ、そうだな」
ミラはトントンと灰皿に吸い殻を落とす。
ジュードは煙草の匂いを吸い込みながら、ようやくまた深い眠りについていく。
ジュードの寝息が聞こえてきて、ミラはようやく寝たかとジュードを見ながら呟いた。
ゆっくりと足を忍ばせては、ジュードの傍に近づき、座る。
「ディラック、お前の息子は、どうやら私に惚れてるらしい。こうなるとは、私も思わなかったんだがな…」
ミラはジュードの黒髪に触れては、毛先を指先で摘み、指腹で転がしていた。
ディラックはジュードの父親だった。ジュードの強引さが、ミラはディラックを重ねていた。
ミラはディラックに頼まれて、ジュードの監視をするために、隣に越してきた。
正体を隠すのが絶対条件だった。だから、ジュードには何も伝えることができなかった。
自分が好いている者には好かれず、好かれたのは、その息子。
「………」
ミラは眠っているジュードに、自ら唇を重ねる。その行動は、無意識に行われたものであった。