玄関のベルが、うるさいくらい鳴らされている。
一度鳴って、住んでいる者の反応がないのだから、留守だっていうことくらいわかるだろう。

呼び鈴がいつまで立っても、鳴り止む事がなかったので、この部屋の住人である、ミラは流石に苛立ち、いい加減にしろと怒鳴ろうとし、玄関のドアを開ける。


「おい!いい加減にし…………」



ドアを開けたのはいいが、そこには誰の姿もない。
なんだこれは。悪質な悪戯か。

ミラが溜息をつき、ドアを閉めようとする。

だが、ドアのすぐ脇に、脇腹を抑えながら、ひとりの少年が、そこに確かに立っていた。



「ジュード……?」



ミラは、ジュードの姿を見て驚いた。顔も体も、ぼこぼこに殴られ、生々しい傷痕が体全身に残されている。

彼のこういう姿を見るのは、初めてではない。これまで数回もあったことがあるから、驚きはしない。
ただ、今回の傷は酷すぎだろう。

しかもまた、酒臭い。
どれだけまた、大量にアルコールを含んだんだろうか。




「ジュード………」



ジュードはミラの姿が出てきたのを確認し、ふらふらなその体を、ミラへと預けるように、前へ倒れ込む。
ミラはジュードを寄り掛かってきたジュードを受け止め、とりあえずジュードを部屋の中へ入れ、玄関のドアを閉めた。



「本当に君は何をしている。部屋はすぐ隣だろう。どうして私の所に来るんだ」


言葉もつい、刺々しい感じになってしまう。
とりあえず、傷の手当をしようと、ミラはジュードをソファーへと座らせた。
救急箱を取りにミラは行こうとしたが、ジュードがミラの長い髪の毛を掴み、ミラを引き止めた。



「行かないでよ」

「それ程の元気があるのなら、今すぐ部屋に帰るんだな」

「冗談、無理だよ、すぐには帰れない」

「だったら、大人しくしていろ、この不良が」




ミラのいうことを素直に聞き入れ、ジュードは掴んでいた手を離し、ミラを解放した。
そうして救急箱を取りに行った、ミラの後ろ姿を眺めていた。

そういえば、初めて会った時も、そうだったっけなと物思いに更けてみる。

自分は、こう見えても、名門一家の息子で、医大生である。
だが、一家の期待と重圧に耐え切れず、家を飛び出しては、バカみたいなことを繰り返し、毎日酒を飲んで喧嘩をしては、たまにこのように、全身に怪我を負い、帰宅する。

隣に住んでいるこの女性、ミラとも、マンションの入口付近で倒れそうになっている所を介抱され、そこからの付き合いになっていた。
この時は、まさか、隣に住んでいる人間だとは思いもしなかった。

ミラは自分の事を、あまりよく語らない。
ジュードが知っているのは、名前と年齢だけ。
ミラの持つ独特な雰囲気が、ジュードは好きだった。ここは居心地が良い。落ち着いた。



「にしても、よく病院送りにならないものだな」

「急所だけは守るようにしてるんだよ」

「威張って言えることじゃないだろう」



救急箱の包帯の減り具合を見ては、ミラはジュードの怪我の頻度がどれだけのものなのか、実感せざるを得なかった。




「ねえ、ミラ。ミラってさ、男作らないの?」

「何度も言っているだろう、そんな気がわかない」

「じゃあ、どうして、僕とキスしてくれるの?」

「キスぐらい、減るものじゃないしな」




ジュードがいくら口説いても、ミラは冷静に対処してくる。
ミラはジュードが本気で言っているわけではないとわかっていた。

酔っ払いの発言はあてにならない。その事を知っていたから。







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