アルヴィン 13
レイア 24







体の節々が痛くなることが、この頃増えていた。
ギシギシと音がする。たまに痛くて眠れないこともある。
声も掠れて出なくなった。毎日が過ぎていく度に、自分に何かしらの変化が訪れていて、自分でも困ったものだった。

これが所謂、成長期と呼ばれるものだろう。
少しずつ子供から大人へと変わっていく。それがアルヴィンは嬉しかった。

今後いつ、姉のレイアは家に帰ってくるんだろうか。

大学を卒業し、看護士の資格を取るために、試験勉強真っ只中と聞いていたから、家になど帰ってくることはないのかもしれない。

それでも、レイアに会いたかった。会いたい気持ちが抑えきれない所まできているのを、アルヴィンは苦しいくらいに理解していた。


毎日、レイアが夢に出てきては、毎朝の自己処理に困惑してしまうほどに。


「はあ……」


重い溜息が部屋中に広まる。慣れれば、こういうことも減るんだろう。
それでも、レイアの事を考えるだけで、恋い焦がれてしまう。



「なんで俺、あいつの事、こんなに好きなんだ……?わかってんじゃねえか、一生、叶わないってことぐらい」



そんな複雑な感情を抱きながら、成長した彼は、雰囲気は大人びてしまい、態度も年相応なものとは思えない態度をとるようになっていた。





ちょうどその日の昼間に、レイアは自宅へと帰宅する。
母親には、家に帰ると告げていた。けれどアルヴィンには黙っていてほしいと、レイアは母親に口止めしていた。

彼が帰ってきて、自分が部屋にいて、驚かせてやろうと模索していたのだ。

アルヴィンに会うのは数ヶ月ぶりだ。
中学にも入学し、そろそろ、成長期を迎えて、いろいろと体が変化してくる頃だろう。

元々、彼は整った顔をしている。小さい頃は本当に可愛くて、食べてしまいたいくらいだった。
凄く溺愛していた。それは今でも変わらない。可愛い弟だ。



「お邪魔しまーす」



レイアはアルヴィンの部屋へとこっそり侵入する。
想像では、男の子だから、もっとごちゃごちゃとした、いかにも男の子っていう部屋だったのだが、服は多少投げ出されていたが、物は少なく、殺風景とした部屋だった。


「なんか、以外。」


掃除でもしてあげようかと思ったのに。少しだけがっかりした。
けれど男の子の部屋といえば、もうひとつ気になる事があった。


「違うよ、本当の目的は、そういうんじゃないんだからね!」


と、最初に自分に言い訳をしつつ、レイアはアルヴィンのベッドの下を覗き込む。
しかし何も見当たらない。


「普通って、こういうとこに隠しておくもんじゃないの?」


次にレイアは、枕を退かす。しかしそこにも何もない。彼はまだ、そういう事に興味が湧いていないのだろうか。
見つけて、からかってあげようと思っていたのに。
さすがに机の中など漁る気にはなれないし、まさか見やすい本棚にあるとは思えない。
つまんないなとレイアは諦めかけた。だが、たまたま、ベッドのマットレスの下に手を突っ込んでいた。
その時、何か本みたいなものがあるとレイアは判断する。


「もしかして、もしかしちゃったりする?」


その挟まっている本らしき物を、レイアは頑張って抜き取ろうと試みた。






「ただいま」


やがてアルヴィンは学校から帰宅する。
家には誰もいない。まだ仕事から戻ってきていないのだろう。そんな誰もいないはずの家に、見慣れない女物の靴が、玄関に置かれていた。

家に鍵はかかっていたし、鍵を開けることができるのは、この家の鍵を持つ者だけ。


(まさか………!)


靴を脱ぎ捨て、アルヴィンはリビングへと走る。
そこには誰もいない。彼は一階を隈なく探してみたが、人影は感じられない。
じゃあ二階か。彼は階段を駆け上がり、レイアの部屋を思い切りノックする。


「おい、姉貴!!いるんだろ!?」


しかし返答はなかった。
まさかと思ったアルヴィンは、自分の部屋へと向かい、勢いよくドアを開けた。

彼の目には、ベッドの上で何か本を呼んでいる、姉のレイアの姿があった。


「はあ、はあっ……」

「あ、おかえり、アルヴィン。久しぶりだね」



レイアはむくっと起き上がり、本をベッドの上へ置きっぱなしにして、アルヴィンと向かい合った。

その時、レイアは気づく。自分がもう、アルヴィンを見下ろしていないということに。
目線の高さが同じ所にあることに非常に驚きを隠せなかった。


「何見とれてんの?」


自分を見てくれていることを嬉しく思い、アルヴィンはニヤニヤしながら、レイアへ問い掛けた。


「…おっきく、なったね」

「まあな、最近、体全身が痛くて痛くて。これが成長期なんだなーっつうのは、わかってるつもり。これから、まだまだ伸びんじゃねえか」

「だろうね」




レイアの予想を超えた成長を、アルヴィンは迎えていた。このままいけば、身長を追い越されるのもすぐだろう。まだ大丈夫。まだ子供扱いができるし、しても大丈夫だろう。


「アルヴィンって、年上好みなの?」

「は?なんだよ急に」

「だって、ほら」



レイアはベッドの上に置いた本を、再び手に取り、アルヴィンへと差し出す。
その本を目にして、アルヴィンはすぐにレイアから取り上げた。顔を真っ赤にしながら。



「ばっっかじゃねえ、何見つけてんだ、つか何見てんだよ!」

「いやー、もう、アルヴィンもそういうお年頃なのかな、と思って、つい好奇心で」



彼はまた、重い溜息を吐く。
そういう本を見てしまうのは、生きてるうちに通る道であるから、恥ずかしがる必要はなかったのだが、恥ずかしいのは、そのジャンルである。知られたくないから隠す。

今の年齢では、必然的に年上に興味が湧くのは仕方がないこと。
けれど、根本的にあるのは。


もう既に成人を迎えた、彼女、レイア。大人の女。
本当に困る。会う度に綺麗になっているから。これからまた、どんどん綺麗になっていくんだろう。そうしたら、自分はまたレイアに置いていかれる。誰かに連れていかれる。



「わたしも、もう少し、ナイスバディになりたかったのにな」

「こういう本は、そーいう人を集めてるもんなの。夢だよ、夢」

「でも、夢なんでしょ?」

「夢は夢だ。やっぱ、好きな女とは比べものになんか」

「アルヴィン、好きな女の子いるんだ?」





アルヴィンは顔をしかめる。
今の会話の流れからにして、やはりそういうことになってしまうのか。緊張のあまりに、唾を飲み込むのもやっとだった。



「俺はまだ恋はしねえよ。周りには同い年のガキしかいねえし」

「ふーん」

「なんだよ姉貴。ほっとしたか?」

「別にっ」





確かにレイアは、アルヴィンに好きな子がいないと知ってほっとした。
こんなに大事に可愛がってきた弟を、誰かに持っていかれるなんて考えがつかなかった。
それくらいレイアは、アルヴィンの事が大事だった。


彼に彼女が出来たら、絶対、彼女に冷たくしてしまいそうだと思った。












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