レイアが11歳の時に、待望の兄弟ができた。しかも弟だ。
周りの友達には、上がいたり、下がいたりと、家に遊びに行く度に出くわして、やり取りを見て、羨ましいなと思っていた。
そんな自分に、家族が、、同じ血が繋がっている人ができたのだ。
弟の名はアルヴィンと名付けられる。
尋常じゃないくらい、可愛がり、一緒にいた。
アルヴィンには、恥ずかしいから止めてくれと、思春期を向かえた辺りから、手を跳ね退けられた事が増えたりしていたが、それにレイアは傷ついたりもせず、アルヴィンへと絡み続けた。
それはそうだ。
だってレイアは、アルヴィンの本当の気持ちに、気が付いていなかったのだから。
レイアには告げることはなかったが、アルヴィンの初恋の相手は、レイアだった。
実の姉を?と、常識外れの感情に彼は幾度も苦しんだ。
それを自覚したのは、彼が六歳の時。
レイアはもう、十七を向かえ、姉であったが、更にお姉さんへとなっていた。
幼い自分でも、それくらいはわかっていた。
子供だから、いくらでも言えた。
大好きだよとか、数えきれないくらいに伝えた。
レイアは応えてくれたが、それは家族愛だということは、わかりきったことだった。
数年立って、彼が八歳の時。
大学進学の為に、レイアは家を出ることになった。
もう一緒にいられなくなるのか。
アルヴィンは嫌だった。離れるなんて嫌だった。
しばらく彼は、レイアと口を利かなくなった。
行くなら早く行けよと、突っぱねた。
「アルヴィン」
だがそこは、レイアの方が上だった。
アルヴィンがどれだっけ無視しても、逃げても、彼が男であっても、まだ八歳の彼の体を抱き抱えることなど、簡単にできる。
「離せよ、バカレイア!嫌いだ、早くどっか行っちまえ!」
「ちょっとは大人しくしてなさいよ!」
レイアは家の二階の上の屋根裏部屋に、アルヴィンを連れていく。
窓の隙間からは星が見えた。
家に屋根裏部屋という存在があったことを知らなかったアルヴィンは、そこから見える月や、星空に興奮し、舞い上がっていた。
「うわー、すっげえ!」
やっぱ男の子だなあと、はしゃぐアルヴィンを見ては、レイアはその光景を見守っていた。
やがて興奮が収まり、アルヴィンはレイアと目が合ったが、またすぐそっぽを向いた。
「しょうがないなあ」
レイアがアルヴィンを、自分の膝の上に座らせる。彼は暴れたが、逃げないようにしっかりと捕まえた。
彼の頭部に、レイアの胸が当たる。
柔らかい感触に、アルヴィンは恥ずかしくなり、黙りこんでしまった。
「わたしだって、淋しいよ」
「嘘だ、だったら、なんで出て行っちゃうんだよ」
「そりゃあ、大人になる為だよ。いつまでも子供じゃいられないでしょ?アルヴィンも大人になったら、きっとわかるよ」
レイアの話をアルヴィンは黙って聞いていた。
レイアを困らせるのは嫌だ。けれど、傍にいてほしかった。
レイアが大好きだ。どこにも行かないでお願いだよって。
次にレイアは、アルヴィンを振り向かせて、彼の小さな額に、自らの額を重ね合わせる。
ドキドキした。レイアが近い。どうにかなってしまいそうだ。
「小さいなあ。次に会う時は、大きくなっているのかな?」
「大きく…なるよ」
「そうだね、アルヴィンの成長した姿を見るの、今から楽しみだな♪」
たまらず、彼はレイアへと抱き着く。
情けないが涙を流してしまった。
よしよしと、レイアはアルヴィンの背中を撫でながら、ぎゅっと力強く抱きしめ返した。
(早く大きくなるから)
だから、レイア。
早く大きくなるから、俺を、待っていてくれ。
レイアの時間が止まってしまえばいいのにと、なんでもっと早く生まれなかったんだと、彼は神様を呪った。