Commemoration | ナノ


It tickles for joy and(アルレイ)






子供の頃、大ケガをしたわたしは、一時期ジュードの家のマティス治療院に入院していた。
あの頃は怖くて、もしも元に戻らなかったら、治らなかったらどうしようって、不安で不安でいっぱいだったのを覚えてる。
まともに歩くことができない、体を動かせば痛い。お父さんやお母さんを不安にさせないように、笑ってみせていたけど、影ではこっそり、何度も泣いていた。

そんな日々が続いていたある日、わたしは松葉杖を使いながら、病院の通路を歩いている途中、ひとりの男の人の声が聞こえてきて立ち止まった。もう診察の時間は終わっているはずなのに、ディラック先生とは違う、少しだけ声の高い、男の人の声。

「ディラック先生も、いそがしいんだろうな」

わたしはそう思って、ゆっくりとその場を立ち去っていった。外に出る事は許されなかったから、入口に佇んで、外を眺めていた。夕方の涼しげな風が、わたしの髪をふわふわと揺らして、それだけで、泣きそうになっていた。
わたしはいつまで、ここにいるんだろうって、考えただけで嫌になって。

ぐいっと、涙を拭い、また慣れない松葉杖を一生懸命動かして、病室へ戻ろうとした。その瞬間、診察室から出てきた誰かと思いきり正面衝突してしまって、わたしは松葉杖のバランスを崩して、転びそうになってしまって。

「おっと、大丈夫か?」

そんなわたしの体を、しっかりと抱き止めてくれた人がいた。それは聞き覚えのある声でもあって、あれ、もしかしてと思い、わたしは顔を上げる。
見れば、ル・ロンドでは見たことのない、整った顔立ちをした男の人がいた。

「っ・・・あ、ありがとう、ございます」
「おお、偉いな、小さいのに、ちゃんとお礼が言えるなんて」
「・・・・・・・・・・」

最初は、なんて失礼な人なんだって、そう思ったっけ。いきなりそんなこと言われても、どう反応したらいいかなんて、わからないじゃない。
だからわたしは、無言になってしまったの。

「・・・痛かったか?」

その人は、わたしの目元が濡れている事に気づいて、涙を拭いてくれた。きっとわたしの怪我を見て、そしてぶつかってしまったから、傷が痛んだと勘違いしたんだろう。

「だいじょうぶ、だもん」
「そっかそっか。強いな」

男の人はにこっと微笑んで、ぽんぽんと優しく頭を撫でてくれた。何故だろう、そうされるのは始めてじゃないのに、いつもとは違う感覚が、わたしの中にあった。とても恥ずかしくて、逃げ出したくてたまらなかった。でもそうすることができなかった。松葉杖を動かす手に力が入らない。

「病室は、あそこか?だったら、連れてってやるよ、ぶつかったお詫び」
「い、いーもん、だいじょうぶなんだから、ひとりであるけるよーにならなきゃ、いけないんだから」
「んな意地ばっかはってっと、治るもんも治らねーよ?」

男の人は軽々とわたしを持ち上げて、本当にすぐそこの病室にわたしを連れてってくれた。
俗に言う、お姫様だっこ。こんなことをされるのって、もちろん始めてだったでしょ、だから、その男の人は王子様に見えた。
ベッドにも寝かせてくれて、松葉杖も傍に置いてくれて。

「あの、ありがとう!」
「いえいえ」
「王子様!」
「王子様・・・・・・!?」

わたし、胸に閉まっていたこと、つい口走ってしまったんだ。王子様、って。その人どんな顔してたかな、覚えてないんだけど、きっとびっくりしたんだろうな。子供の発言だから、あんまり気になんてしてなかっただろうけど、わたしにとっては、王子様にしか見えなかった。

「ははは、そっか、王子様か。じゃあまた、おたくを迎えに来なきゃいけないな」
「むかえ、に?」
「おたくが元気になって、歩けるようになって、何年かたったら、また、迎えに来てやるよ、お姫様」
「治るのかな?」
「治るさ。王子様は、嘘なんかつかねーよ?」
「うん、ありがとう!」


男の人はそこからすぐにいなくなって、わたしは顔が赤くなって、体が熱くて、そのまま何日か寝込んでしまった。どうやら熱を出してしまったみたいで。その王子様の事も曖昧にしか思い出せなくなってしまっていたけど、あれは確かに、わたしの初恋だった。







「って言うのがあったんだよ!」
「へえー、そりゃまあロマンチックだこと。で、なんで今更そんな話?思い出したのか?」
「ほら、わたし、最近熱を出して寝込んじゃったじゃない。その時に夢の中でその王子様が出てきたんだよ、それで思い出したんだ♪王子様、今頃何してるのかなー」


そう、目を輝かせているレイアを他所に、一人呟く男性がここにいた。


「そりゃ、ここにいるんだから、元気だっつの。しかし、レイアの初恋の相手が、俺だったとはな」

くすぐったい気持ちを抑えきれず、アルヴィンは自分の目先にいるお姫様を見つめ続けていた。



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アルレイで二人は子供の頃に出会っていて、レイアの初恋相手はアルヴィンだった。みたいなお話(あわあ様)

大変遅くなってしまって、申し訳ございません。
レイアは忘れているけど、アルヴィンは覚えている。そのシチュは鼻血もんでした!そして、足を運んで下さってありがとうございます。
今回はリクエストありがとうございました。拙い文ですが、楽しんで頂けると嬉しいです。

2013.08.15


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