Commemoration | ナノ


※forget oneself(ジュミラ)





ミラはいつものように、ソファーへと横たわり、真っ白な天井を眺めていた。
すぐ傍にある窓からは、蝉の鳴き声が入り込んできて、その声を聞きながららそっと目を閉じた。
せっかく、今日は何もない日なのに、とそんなことを思いながら。

「とても面白い資料を貰ったんだ」

3日ほど前にジュードが、嬉しそうににこにこと、皆に告げていたらしい。ローエンがこれは興味深いと言いながら、ジュードと話しているのを見た、とレイアが言っていた。それから部屋にこもって、ほとんど出てこないのだと。3日後にはミラが戻ってくるのだから、ちゃんと顔を見せなきゃダメだよと叱咤したらしいのだが、いざミラが姿を現しても、ジュードは部屋から出てこなかったのだ。

「ふむ。ジュードは私よりも、資料の方が大事・・・なのか」

何回もドアをノックしたのだが、反応がないし、邪魔されたら嫌だからと、鍵をかけてしまっているから、開けることもできない。精霊の力を使えば、このようなドアを開けるなど容易いことなのだが、そのような事で力を使ってしまうのは、精霊たちに申し訳ない。
だからこうして、ジュードが出てくるのを待つしかなかったのだが、やはり面白くはない。ジュードに会えるのを楽しみにこうして訪れたというのに、ジュードは私よりも、資料の方が大事なのか。

「どうもいけないな、こういう考え方をしてしまうのは・・・」

少し頭を冷やそう。
ミラはそう思い、また目を閉じることにした。




その頃、ジュードは眼鏡を外し、ふうっと息をついていた。資料を見た自分なりのレポートをまとめ、完成し、やりきった表情を見せている。

「できた。やっぱり楽しかったな、この資料を見れて正解だったかも」

そしてジュードは時計を見る。
時計の針は、6時を指していた。朝なのか、昼なのか、どちらかはわからないが、少しだけ眠いから、1日後だろうなと思っていた。ジュードは鍵をあけて、部屋を出た。
思いきり背伸びし、水を飲もうと冷蔵庫に向かおうとしたその時、ジュードはソファーに横になっている人物を目撃する。

「ミラ・・・」

それは紛れもなく、ミラだった。ジュードは何度も目を擦った。幻だと思ったからだ。でもそこには、確かにミラの姿があって、ジュードは頭を抱えた。

(ミラがいる・・・ということは、もう3日後ってこと・・・!?)

レイアにあれだけ叱咤されたというのに、ジュードはまたやってしまったという表情をしていた。どれだけ夢中に資料を見てレポートを書いていたのだろう。きっと皆も、そしてミラも、何度も何度もドアをノックしたり、僕を呼んでいたに違いない。

そして窓から差し込んでくる光は、日が落ちるものだった。ああ、1日がもう終わってしまう。ミラが帰ってしまう。

「ジュード」

名を呼ばれて、ジュードは手をそっと離した。むくっと起き上がったミラがジュードを見つめていた。それは無表情にも近くて、ジュードは手を合わせて叫んだ。

「ミラ、ごめん、本当ごめん!!!!」
「気にするな、いつものことだろう、1日しか会えない私よりも、3日間珍しい資料を見ることの方が、夢中になるだろう」
「それは、って、そんなことないよ!!」
「いいんだ、ジュード。私が帰るまでに顔を見ることができて嬉しかったよ、ちゃんと寝てないんだろう?しっかり体を休めろ。いいレポートも書けたようだし、私はそろそろ失礼するよ」

ぽんぽんとジュードの頭を撫でたミラは、皆に顔を出して帰ろうと思い、ジュードを横切ろうとしたが、ジュードに背後から抱きしめられてしまい、動きを止めた。
ジュードの両腕がミラをしっかりと包んで離そうとしない。それが少しだけ痛くて、ミラは離せと呟いたが、ジュードは応じようとしなかった。

ジュードは深く反省した。大事な人にこう言われてしまっても無理はない。この日は、今日だけは、何も予定を入れないで、1日開けていたというのに、何をやってるんだと思っていた。

「ジュード、わかったから」
「ダメだよ。まだ行っちゃダメ、お願いだから、行かないで」

力を弱めて、拘束を解いたジュードが次にしたのは、ミラをソファーに押し倒す事だった。その細い体にジュードが乗った。ミラの手首を片手で押さえつけ、もう片方の手でミラの顔に触れようとした。

「触るな」
「えっ」
「言っておくが、私はまだ怒っている・・・というか、面白くない」

ミラはジュードから視線を反らす。

「私は、資料に負けてしまったのかって、そう思ったら、なんか、悔しかったんだ」

自分と一緒にいる時は、あんなに自分に夢中になってくれたジュードなのに、今回はそうではなかった。それがずっと胸に突っ掛かっていた。ジュードの一番は、自分であってほしかったのに、と少しだけ悔しくなってしまったのだ。

「ごめん。本当に悪かったって思ってる。だから、こっちを向いてミラ。僕を見て」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ミラに夢中になりたいんだ。お願い、資料よりも、僕が一番夢中になるのはミラだから、顔を見せて」

本当に、ジュードはずるい。そう思ったミラだったが、いつまでも拗ねてるわけにはいかなかったので、ようやくジュードの顔を見た。見た途端に、ジュードの唇が、額に、瞼に、唇に落ちてきて、ミラは驚き、目を塞いでしまった。

「ミラ」

そうして名を呼ばれ、頬を優しく撫でられた。そう、こうされるのを、ずっと望んでいたのだ。ジュードと言葉を交わして、こうして触れあうのを。久々に触れられた指先の感覚は、あの時、握りしめあった掌の、ジュードの温かいもの。
ジュードに手を解放されたミラは、すぐにジュードに組み付いた。

「知ってるよ、君が私以上に夢中になれるものなんて、ないってこと」

その言葉を合図に、ジュードは白衣を脱いで、ミラへ覆い被さった。
額を押し当てて、ジュードは言う。

「そうだよ」

と。ようやくミラがくすっと微笑みを浮かべてくれたことに、ジュードは安堵した。







ミラの体は相変わらず艶やかで、触れることに緊張を覚えていた。
それでも、ひとつひとつの行為を時間をかけては、ゆっくりと行った。それは自分の性格と似たようなものであったが、「夢中」になっているということだった。
自分に支配されているミラを見るのが、なんだかとても可愛かった。自分しか知らない声で、「ジュード」と呼ぶ。それがまた堪らない。
ソファーはとても狭いから、できることに限りはあるが、ジュードはミラを集中的に愛撫した。放置をしてしまった分と、ミラへの愛情を目一杯伝える為に。
ミラの足がソファーから飛び出し、バタつかせている。腰も浮き上がり、気持ちよくなってくれていることがわかる。

「はぁ、はぁ・・っ・・ジュード」
「好きだよ、ミラ、好きだ」

ぐぐっとミラのなかへ押し込んだ後、ミラは甲高い声をあげながら、ジュードの名を呼び続けた。それは時に叫んでいるようにも聞こえた。前面から、背後から、そして最後はジュードが横になり、ミラが上になった。ジュードがミラの腰を持ち上げながら、動かし、ミラも腰を動かして。

「私がいちばん夢中になるのも、君だよ、ジュード・・・・・・・・・っ」


それが、ジュードに届いていたかどうかはわからないが、今回の事はこれで許してあげようと思ったミラの、ジュードへ伝えたかった言葉だった。





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ED後ジュミラでジュード君が研究or読書に夢中になってしまい、ミラ様が嫉妬する話。できれば裏(れな様)

大変遅くなってしまい、申し訳ございません。
お祝いコメント本当にありがとうございます。ご希望に添えていると嬉しいです。
今回はリクエストありがとうございました!拙い文ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。

2013.8.14


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