Commemoration | ナノ


After all you like it(ジュミラ)





※ジュード→ピアニスト
ミラ→女優


「こちら、現場から中継をお届けします。現場の・・・」

耳に入ってくるテレビのアナウンスの声。せっかく心地よい睡眠をとっていたにも関わらず、睡眠を邪魔されてしまったことに、布団に横になっている主は、酷く頭を抱えていた。

(ったく、なんでテレビが付けっぱなしになっているんだよ・・・)

まだ眠いといっている体を無理矢理起こし、テレビのから放たれる薄い光を目印にし、青年、ジュードはテレビのリモコンを探した。まだ頭が目覚めていないため、若干の目のぼやけがあるものの、いつも使っているリモコンの感触を、そう簡単に間違えるはずもなかった。ようやくリモコンを捕えたジュードは、テレビのスイッチを切ろうとするものの、次のテレビから入り込んでくる光景に、テレビのスイッチを切ることができなくなってしまった。

「それでは、芸能ニュースをお伝えします。年明けの月曜夜二十一時から始まる、ドラマの主演に、ミラ・マクスウェルさんが起用されたとの情報が入りました」

テレビはその後、画面一面に、ミラ・マクスウェルの姿を思い切り映し出す。
ミラ・マクスウェル。この国で、今一番輝いている女性だ。抜群の演技力、飾らない性格。その性格から、ドラマや映画だけでなく、バラエティにも顔をよく見せている。裏表のない、憧れる女性だった。その女性の姿を、ジュードはずっと眺めていた。

(そうか・・・ミラが主演・・・・・・本当にすごい存在になっちゃったんだ)

ジュードはため息をついた。
彼女がどれだけ努力をしてきたのかは、ずっと前から知っていた。彼女がデビューしてからの軌跡を彼はずっと覚えていた。どうしてそこまで知っているのかと言われれば、それは一言で片付けることができてしまう。

「うーん・・・・・・・・・」


先程まで、自分が寝ていたベッドから、女性の声が聞こえてきた。掛け布団がぐるぐると動き回っている。ああ、そういうことかと、ジュードは頭を抱えた。一歩一歩ベッドへと足を運び、掛け布団を取っ払うと、そこには女性が眠っていた。
その女性は、先程までテレビに映っていた、女優、ミラ・マクスウェルであった。

(これで何回目なんだよ、ミラ)

彼女が隣で寝ていることに、動揺することもなく、彼は取っ払った掛け布団を元に戻した。
確かに今いる部屋は寝室ではなく、リビングであった。ソファーベッドが置いてあり、疲れて帰ってきた時でも、すぐに眠れるようにのことである。
きっと彼女は、仕事が終わってきてから、テレビをつけて、そしてそのまま眠くなって、なれたように、ソファーベッドに横になって眠ってしまったのだろう。いつものように。自分が寝ていることもお構いなしに。だが、それを責めることはできなかった。

何故ならここは、彼女の部屋なのだから。
自分は二年前、海外へと留学し、先週に日本に戻ってきた、ピアニストである。そしてそこにいる女性、ミラとは恋人同士の関係だった。だけど二年前、彼女から別れを告げられて、自分もそれを受け入れて、海外へと飛び立っていったのだ。

日本に戻る際、部屋などをどうしようかと考えていた時、僕の元へ一本の電話が入った。

「はい、もしもし」
「・・・もしもし。」

声を聞いた時、最初は本当に驚いたんだ。耳を疑った。忘れたくても、忘れられない、僕の五感のすべてが、間違いないよって、そう教えてくれていたから。

「・・・ミラなの?」
「ああ・・・久しぶりだな、ジュード」

君の声を聞いたのは、最後に君に別れようって言われて以来だった。その次の日に、自分は海外へと旅立っていったのだから。普通の恋人同士なら、別れてからは一切、関わりを持たなくなるだろう。一度恋愛感情を抱いてしまった相手に、友情の感情などを持つことなど、不可能に近い。だけど、自分たちの場合、そこが違っていたのだ。最後の会話を交わしたときに、約束した。
自分たちはお互いに励ましあって、今の地位まで登り詰めた。たとえ、関係が壊れてしまう時がきたとしても、ずっと、お互いを糧にし合って生きていこう、と。
その言葉も、彼女が僕に言ったものでもあるのだけど。
周りにもよく言われた。そんな関係ってありなの?とか、そういうのありえないとか。
そうだ、普通だったらありえないだろう。だけど僕たちにとっては「あり」になるんだ。

「聞いたぞ。日本に戻ってくるんだって?しかも、大分腕を上げたみたいじゃないか。」
「そんな対したものじゃないよ」
「君らしいな。昔からそうだ。絶対に鼻を高くしたりしないもんな」
「なにそれ」


二年ぶりに交わした会話は、以前と変わらずにスムーズに言葉のリレーが行われていた。ミラがどう思っているのかはわからないが、ジュードは二年前と気持ちはまったく変わっていなかった。ミラに恋焦がれていること。別れた後もずっと、ミラのことだけを想っているということ。

「どうせ君のことだから、日本に戻ってからの一時的に住む部屋、決めてないんじゃないって思ってさ」
「そこまで準備が悪いわけじゃないよ。まあ、付き人の人が、ホテルを予約してくれるってことは言われたけど、断ったんだ。あんまり窮屈な場所は好きじゃないし」
「だったら、私の所に来ないか?部屋も余ってるし」


それを聞いたとき、さすがにジュードは黙っていられなかった。


「ミラ、それ本気で・・・」
「その方がお金もかからないし、いいんじゃないか?一応、それなりにいい場所に住んでるし、綺麗だぞ。」
「いや、けど」
「大丈夫だ。多分私も、ほとんど部屋には帰ってこないと思うから。今撮ってる映画の撮影があるんだ。深夜まであるし、何時に撮影が終わるかどうかもはっきりとしてないしな。君と顔を合わせるのなんて、そうそうないよ」



撮影か、とジュードは思った。ミラの活躍は、ネットでよく見ていたから知っていた。自分たちはまだ名も知られていない時、いつでも、どんな時でも、お互いの活躍を見守ろう、と。
今は夢を叶えて、世間にもよく名前を知られるようになったけれど、夢を叶えた分、犠牲になってしまったものもたくさんあった。


「本当にいいの?君のマネージャーさんだって黙っていないでしょう。それに、あの人は・・・」
「あの人?」
「ううん、なんでもない・・・」
「それで、どうするんだ?」


しばらくジュードは悩んだものの、少しの期間だけだし、彼女がほとんど帰ってこないというのなら、特に支障はないだろうと思い、声を発する。


「・・・わかった。じゃあ、よろしく」
「了解だ。じゃあ、空港まで迎えに行きたいのは山々なんだけど、それは難しいからさ、君も色々あると思うし。実はジュードが帰ってくる日、私はオフなんだ。だから、帰国してからの君の用事が終わったら連絡してくれないか。番号は・・・昔と変わっていないから」
「ありがとう」


そうして、電話を切った。切った後、自分の体が身震いしたのがわかった。どうして承諾してしまったんだろうとも思った。断りきれなかったのは、彼女の事が好きだから、きっと自分は会いたかっただと、その気持ちだけは嘘をつくことができなかった。

彼女の背後に、自分じゃない、他の男の存在がいると、わかっていても。



「ふわああああぁぁぁ・・・」


ミラは目を擦り、むくりと起き上がった。きょろきょろと周りを見渡すと、自分を見ているジュードが視界に入り込んでくる。


「ジュード、おはよう、早いんだな」
「・・・おはよう」
「ん、どうした?元気ないな、眠れなかったのか?」


きょとんとしているミラを見て、ジュードは深いため息をつく。
ああ、今回も覚えていないんだなと思いながら。起きたら、好きな女の子が隣で眠っている、その状況に男はどうしたらいいのかわからなくなるんだぞって言いたくなった。だけど言うことができなかった。どうしたらいいか、わからなくなるのと同時に、一緒の空間にいることができるという、大きな幸せが自分の中にあるのだから。


「眠れたよ。これでもかというくらいに。ミラはまた眠らなくていいの?朝方に帰ってきたばかりじゃないの?」


自分と会話している間も、ずっとミラは目を擦っていたから、まだ全然睡眠が足りていないんだということが見て取れた。


「まあ、後で寝るよ。君こそ、今日はコンサートの日じゃないのか?ちゃんと寝てなくて大丈夫なのか?」


自分は今日がコンサートであることは、彼女には話していなかった。だけどミラは知っていてくれていた。それは彼女が自分のことを見てくれているんだという証に繋がった。


「ガイアスもさ、言っていたんだ。君の演奏、聴きに行くって言ってたぞ」


『ガイアス』



その名前を耳にしたジュードは、そっか、と小さく囁いた。
そこからすぐ話題をそらすかのように、ジュードはキッチンへと向かい、コーヒーメーカーでコーヒーを注ぎ、椅子へと腰掛けて、ごくごくと飲み始めた。
ミラがそこから話を繋げてくることはなかったので、ジュードは安堵した。


「おかげさまでゆっくり眠れているから、大丈夫だよ。それより、僕はもう支度して出て行くから、ミラももう少し休んで」
「ジュ・・・」


次のミラの言葉をまたずに、ジュードは立ち上がり、リビングから立ち去っていった。
別室の部屋のドアが閉まる音が聞こえた後、ミラは自分が寝ていた位置から、ごろんと一回転がった。そこは先ほどまで、ジュードが眠っていた場所だった。まだ若干温かい、彼の、ジュードの温もりが、ジュードの匂いが残っている。そしてミラは布団をばふっとかけた。
ジュードに包まれているみたいだった。ぎゅっと抱きしめられているみたいで、ミラは思わず微笑んでしまう。
ミラは全部わかってやったことだった。
ジュードがソファーベッドで眠っているのを見つけたから、自分もこっそりと潜り込んで、一緒に眠っていた。彼の大きくて広い背中を見つめながら。本当はその背中に向かってぎゅっとしたいと思ったけれど、そんなことはさすがにできなった。
だって、自分から、彼を手放してしまったのだから。
そんな自分が、今更、何を言うことができるだろう。

ずっとスキだったって?
その言葉すら、とてもとてもとっても、ずるいものなのではないのだろうか。








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ジュミラで芸能人パロ(匿名様)

大変遅くなりまして、申し訳ありません。
今回はリクエストありがとうございました!
拙い文ですが、楽しんで頂けると嬉しいです。

2013.4.8


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