Commemoration | ナノ


小さな嫉妬を舐める(アルレイ)










出会いは突然。

あなたがわたしの高校に赴任してから。
いかにも軽そうでで、冗談ばっかり言う感じの……そんな人に見えた。
実際、その通りだったのだが。

「科学を担当する、アルヴィンだ。みんなよろしくなー」

あなたが出た瞬間、周りの女友達がざわざわと騒いでいた。かっこいいとか素敵だとか、そういう声がうるさいくらいに聞こえてきていた。

(ああもうわかってるよ、かっこいいよね確かにね)

眼鏡をかけて、第一ボタン開けちゃって、ネクタイ緩めて。いかにも『軽そう』というオーラを醸し出しているのに、レイアには理解できなかった。
そしてまた別に、今度は男子のざわめきが聞こえてきた。

「英語を担当します。プレザです。よろしくお願いします」

こちらはまたナイスバディでとっても美人な先生であった。それが男性にはヒットしたらしく、男性の話し声がちらほらと聞こえていた。

(……………はぁ。)

レイアは溜息をついて、早くこの着任式が終わってくれないかと切に願っていた。

レイア・ロランド。高校二年。
どうしてかイライラが止まらない日常の始まりである。


***



「次、授業なんだっけ?」
「次は科学!!アルヴィン先生の授業じゃない!」
「ああ〜……そうだった。ありがと………」
科学の授業前になる度に、クラスの女子はうるさいくらいに騒ぎまくる。
他の授業の時は携帯をいじったり、化粧をしたり、まったく他のことをしているのに。この変貌ぶりはかなりのものだろう。
「レイアって、科学の授業前になると、すっごい不機嫌になるわよね」
クラスメイトのミュゼがレイアに声をかけた。
「だって……周りがうるさすぎるんだもん。きゃあきゃあ騒ぎまくって………」
「まあ確かに、アルヴィン先生はカッコイイもん。みんなが騒ぐのも無理ないと思うわよ」
「ミュゼも?」
「私は別に。カッコイイなっては思うけど、そんなミーハーみたいに騒いでもいられないわ」
と言いながら鏡を手にして、ミュゼは化粧を直し始めていた。
彼女もそんなに騒ぐ方ではなかった。大人というかその辺の女子とはまた違った視点でという感じがした。
やがて始業のチャイムがなり、席に着く。
しばらくするとアルヴィンが教室のドアを開けて、室内へと入ってきた。
女子はかしこまり、アルヴィンの方へ眩しいくらいの視線を浴びせている。
「じゃ、授業を始めるぞ」
『『はーい!!!!!!』』
小学生のように、一斉に声を合わせる声が耳に入る。
その度にレイアはうんざりする表情をしていた。
どうしてこんなにイライラするのだろう。それすらもわからない。
だが、彼の授業自体は嫌いではなかった。彼の授業はとてもわかりやすく、すんなりと頭に入ることが出来たから。容姿もいいし、ふざけてるように見えるのにそうじゃなくて、本当にすべてが完璧だった。
そのせいか、男子生徒からも好かれていた。
レイアも素直にそのことは認めるが、なぜかむしゃくしゃして、どうしようもない。

(……どうしてこんなにイライラするんだろ)

そんな思いを抱きながら、いつも睨み付ける表情で、レイアはアルヴィンを見ていた。

(ふーん……………)

そんな彼女の様子をおもしろ半分にミュゼは見学していた。
『どうしてそんなに、アルヴィン先生に嫌悪感を示すの?』と聞いたことはあった。
返ってきた言葉は『なんか…イライラするの』というものだった。
そういえば、レイアがアルヴィン先生と話している姿を見たことがない。宿題のプリントの提出だって、いつも自分に押し付けて、彼女が自分から出しに行ってる姿なんて………。

(ただ…イライラするからってだけじゃないと思うんだけどな………)

ミュゼは思った。
嫌いなら目を合わせなければいいのに、何故ずっと彼を見ているの?嫌いなら見なきゃいいのに。例え睨み付けていたとしても、彼を見ていることには代わりないのに。
こんなことをレイアに言ってしまえば、確実に自分は怒鳴られるんだろう。
なんとなくおもしろく感じたミュゼは、もうしばらく観察していようと思った。


キンコンカンコーン―――――・・・・


やがて、授業終了の鐘が鳴り、アルヴィンの授業は終わった。女性陣はとても残念そうな顔を浮かべて、終了の挨拶をした後でも、彼に詰め寄って、一方的に会話をしている。
「やーっと終わった。」
レイアが伸び伸びと肩を伸ばす。
「でもレイア。ちゃんとノートは取ってるから、えらいわよね」
ミュゼがレイアのノートをぺらぺらとめくりながら言った。
「一応授業なんだから…取らなくちゃいけないでしょ?」
「まあ…そうだけどね。あ!後で写させてね」
「は?!またとってないの!?」
「ごめんごめん。だって、授業よりも面白いことがあるんだもん」
ニコニコとミュゼは笑う。レイアは呆れた表情をしつつも、ミュゼにノートを渡し、席を立った。
「ありがとー☆レイア」
「次はちゃんと、とっといてよ!」
「はいはい。わかってるわよ」
ミュゼの声も遠退き、レイアは教室から出ようとするが、アルヴィンとクラスの女子が入り口にたむろっていて、外に出ることができない。

(あー…………もうまた囲まれちゃってる………)

そんなことを思いながら、レイアはずんずんと進んでいく。
「あの!通れないんですけど」
レイアは腕を組み、ぎっとアルヴィンを睨みつける。彼女と目が合い、アルヴィンはにやっとする。
「ごめんね、レイア」
「ううん、いいよ」
女子にはにこやかな笑顔で接するレイアだが、アルヴィンにだけはずっと鋭い目付きのままで。

(あいつ………どうして…………)

あの生徒は確か…レイア・ロランドという名前だったはずだ。
いつも自分の方を見て、ずっと睨んだ目付きで自分を見ていた。
そのせいか、彼女の印象はアルヴインの中でとても強く残っていた。多分、自分は彼女に嫌われているのだろう。
理由はわからないが、いつもそうして怒った顔をするから、きっとそうなんだ。挨拶も会話もしたことがないのに。
自分はこの容姿のおかげで人にはよく囲まれるし、それは致し方ないと思う。
だが、一度だけ……彼女と会話をしてみたい、アルヴィンはそう思っていた。



その後、アルヴィンは職員室に戻り、自身の机に着いた。
「はい、どうぞ」
コトっと机の上にお茶が置かれる。アルヴィンが振り向くと、そこにいたのは英語教師で同僚、プレザだった。
「お、気が利くね、サンキュ」
「いえ」
お茶を手にし、アルヴィンはそれを口にした。ちょうどよい濃さと熱さだった。彼を見ながら、プレザは微笑む。大丈夫だったんだと。
「アルヴィン先生……授業の方はどうですか?」
「一応慣れてきてるぜ。まだまだ……全然ダメな部分があるけどな」
「アルヴィン先生の評判、結構いいのよ。とてもわかりやすいって。羨ましい」
「そんなこと。プレザ先生の授業も結構いいらしいじゃないですか。アメとムチを上手く使い分けてるって」
「えっ………やだ、そんなことないわよ……………」
プレザは顔を真っ赤にする。アルヴィンの言葉が、プレザにはとても嬉しいものであった。それは、彼に好意を抱いているから。同期であるから、気軽に話せることがとても嬉しく感じていた。
最初は掴みどころがわからなかった彼が、少しずつ口数も笑顔も増えてくれて、距離が縮まっているのだなと思うと、本当に嬉しかった。
「じゃあ、私…次の授業がありますので……失礼します」
「ああ」
軽く会釈すると、プレザは自身の席へと戻っていった。

(ふう……………)
やはりまだ、緊張する。何を話せばいいのか、アルヴィンはわからなかった。幸い向こうの方から話題をもってきてくれるから、それで助かってはいたけれど。
この職業に就いたからには、そんなことはあってはならないと…そうわかっていても。
ぐるぐると考えながら、アルヴィンは机の上にあるプリントの整頓を始めた。クラス事に整理していくものの、一クラス分足りない。そういえば、教壇の机の中に入れっぱなしにしていたことを思い出した。

(しまった……………忘れてたな)

ちらっと時計を見るが、もう既に次の授業が始まってしまっている。もうこの授業が終われば、後は放課になるから、それからでもいいやと思い、アルヴィンは机に向かった。


***


そして放課後。

誰もいなくなったのを見計らって、アルヴィンはプリントを回収するため、教室へと向かっていった。
少数の人とはすれ違ったりしたが、絡まれたりはしなかった。実は少し、人と話したり、親しくなったりするのが、彼は苦手だった。だから、話し掛けられる度に、実はとても混乱していたのだ。
ガラッと教室のドアを開ける。
誰もいないことを期待していたのだが、それは叶わなかった。
「……………!」
教室にいたのは一人の女生徒。

(な、なんで………!?)

そう、レイアだった。忘れ物を取りにたまたま戻って来たレイア。そこでイライラの元凶となっているアルヴィンと顔を合わせてしまい、最悪だ……と思わざるを得ない。

(とっとと帰ろう…………)

そう思って帰ろうとしたレイアだったのだが。
「レイア・ロランドさん………だな」
いきなり名前を呼ばれ、レイアはピタリと足を止めた。
「………何ですか?」
くるっとレイアはアルヴィンの方を振り向き、いつもの目でアルヴィンを見た。
きりっとしたその瞳。まともに目を合わせたのは初めてで、アルヴィンはぞくっと震えた。

(……なんだ……………これは…………)

「……あの。何もないなら帰りたいんですが」
レイアの声に、アルヴィンはふと我に返る。
「いや、その・・・聞きたいことがあるんだけど……何故……いつも俺を睨む?俺は君に……何かしたっけ?」
彼女と話す機会なんて今しかない……そう思ったアルヴィンは、知らないうちに口を開いて話してしまっていた。
しかも自分から。さすがに驚いて、胸がドキドキしている。
「………なんでって…………それは…………」
こんなことを聞かれるとは思わず、レイアは驚きを隠せなかった。
それは単純にムカつくからであって………でも、何故ムカつくのだろう。この人が来る度に、女子が騒いで、煩くて、それでも冷静で。そりゃあ、わたしだって話したいって思わないわけじゃないけど、いつもいつも女子が周りにいるからできなくて…あれ?気にしてしまう?いつも見ている?

(いいこと……思いついた………)

鞄を机の上に落とし、レイアはアルヴィンに近づいていく。
一歩一歩確実に。
アルヴィンはレイアから目を反らせず、身体が固まったまま動かなかった。
「レイア?」
「睨むなんて…そんなの一つしかないじゃないですか?わたしは……先生が大嫌いなんです………アルヴィン先生」
レイアはアルヴィンの両肩を掴むと、そのまま顔と近づけ、互いの鼻をくっつける。そしてそのまま、アルヴィンの頬に自分の唇を落とし、ぺろりと舌で彼の柔らかな頬を軽く舐めた。

(……………?!!!)

やがてレイアが離れ、アルヴィンを見ながらレイアはくすっと笑った。
「おたく………今……何故………」
頬を手で当てて、頬を染めるアルヴィンを見た時、レイアは思った。
「アルヴィン先生?いつも女子に囲まれてるくせに、もしかして…女性に免疫なかったりしちゃう?これくらいで動揺しちゃうなんて」
図星を突かれ、アルヴィンは言葉に詰まる。それどころではない。
自分は今、生徒にキスをされてしまったのだ。それを理解するまで少し時間がかかった。
「……質問に答えろよ。今、おたくが何をしたのか……わかってんの?俺は教師で…君は生徒なんだぞ?」
「知ってる。言ったじゃない。わたしは先生が嫌い。この件をばらせば、先生を飛ばすことなんて…簡単に出来ちゃうよ?わたしが先生にやれと言われてした……とか」
そのつもりで、レイアはアルヴィンの頬にキスをしたのだ。
こういう方法があったんだ。
これで、数多い生徒からかなり印象が残る生徒の一人になったはず。
弱みを握ったようなそんな嬉しさに、レイアはかられた。
アルヴィンはまだ、戸惑ったままであった。まさかこういうことになるとは…まったくもって想像していなかったのだ。対処の方法がわからず、困惑するばかりである。
「そこまでするほど……俺が嫌いなのか?」
「嫌い。見てるだけでイライラする」
そう言い残すと、レイアは後ろを振り返り、鞄を持ち、教室を去ろうとする。最後に彼女はアルヴィンにこう言った。

「……じゃあまた明日ね。アルヴィン先生。」

ドアが閉まり、彼女の足音だけがアルヴィンの耳の中に響いた。
相変わらず、頬に手を触れたまま、ぼーっとしているアルヴィン。

(……っとに、やられたな)

一人の女生徒が、アルヴィンの脳裏を埋め尽くす。
これからどうなるのだろう……どうすればいいのかと、アルヴィンは考えていた。







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アルレイで学園。生徒にモテモテなアルヴィンに嫉妬しちゃうレイア(秋月みかん様)

title・反転コンタクト

秋月様かなり遅くなってしまって本当にごめんなさい!
今回はリクエストありがとうございました。拙い文ですが、楽しいんでいただけると嬉しいです。

2013.4.8





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