我慢すれば離してる(晶陽)
晶馬の一番傍にいる女性は、自分だと思っていた。
自分で言うのもなんだが、冠葉や晶馬が、尋常ではないくらいに、自分を愛してくれていることを、陽毬は日々感じ取っていた。
そんななかで、晶馬が自分を選んでくれたあの日から、陽毬の中の一番は、晶馬だった。晶馬以外に考えることなど不可能だった。
子供の時だったからこそ、晶馬と家族になった後も、兄となったとしても、ずっと、ずっと、陽毬には晶馬しか目に入らなかった。
晶馬の成長していく姿を間近で見ることができ、少年から青年へ、そして声も顔つきも変わっていき、陽毬の恋心は、どんどんと膨れ上がっていく。
それと共に、晶馬の心の闇も、陽毬は知ることとなった。
例の事件後、晶馬は表情に出さないようにしてきたつもりであろうが、晶馬をずっと見てきた陽毬には、痛いほど理解していた。
それでも陽毬は何も言わなかった。晶馬の望むことが、冠葉、そして自分と三人で『家族』として生きていくことだと知っていたからだ。
晶馬がそれで、少しでも楽になれるのなら、彼の心の闇が中和されるのなら、自分はそれに応えてあげたい。
晶馬の笑顔を護りたい。
今までそうして、自分が晶馬を護ってきたつもりだったのだが、陽毬のその長い想いは、たったひとつの出来事で、あっという間に消えてしまう。
それは夕飯の買い出しに行っていた帰り、晶馬が荻野目苹果と一緒にいるのを見たときだ。
二人を見かけた陽毬は、声をかけようと名を呼ぼうとする。
「もう、信じらんない!本当、晶馬君ってデリカシーがないんだから!」
「何言ってんだよ、無茶苦茶な行動してんのはどっちだよ、付き合ってるこっちの身にもなってよ」
「何よ、だったら、貸さないわよ?この日記」
「う……………」
「ふふっ……本当、面白いね、晶馬君は。こんな感情剥き出しになるなんて、以外」
喧嘩をしているようで、でもそんな雰囲気じゃなくて、いつも自分に対しては、穏やかで優しい微笑みしか見せない晶馬の、他の顔を、陽毬は初めて見てしまう。
なかなか本音を漏らさない彼の、唯一、自分を破壊してくる存在。
「あれ、陽毬?」
「お、陽毬ちゃーん!」
陽毬に気づいた、晶馬と苹果が陽毬に近づき、晶馬は陽毬の買い物袋を持った。
どうしよう、体から変な汗が出てくる。二人をまともに見ることができなかった。
晶馬と、途中まで帰り道が一緒な苹果に挟まれ、陽毬は非常に気まずくて堪らなかった。晶馬は話に入れるように気を使い、そして苹果と楽しそうに会話をして。
(…っ…………)
自分は何に対して怒っているんだろう。晶馬に?苹果に?違う、二人は何も悪くない。
本当なら、あの日から止まったままの晶馬を連れ出してくれる苹果の存在には、感謝しなければならない。
苹果なら、晶馬の核心についてくれる。彼女が私達の間に入ることは、そんなに簡単なことじゃないと思っても、苹果が好きな自分には、彼女の存在が、高倉家には必要なのだ。
「今度、一緒に遊ぼうね、陽毬ちゃん」
「う、うん!」
私はこの人を嫌いになれない。
「帰ろ、陽毬」
苹果と別れてから、晶馬は帰ろうと、空いてる手を陽毬に差し出し、陽毬は躊躇ったが、晶馬に手を握って欲しかった為、彼の手をぎゅっと握った。
(晶ちゃんの、手だ)
好きなのに、こんなに好きなのに。
あなたが本当に必要なのは、私じゃない。でもそれを認めたくない。
彼を幸せに導いてくれるのは。
「……晶ちゃん、ずっと一緒だよね?」
「うん、ずっと一緒だよ」
その言葉だけで充分だ。陽毬は無条件で握る事ができる彼に手を引かれながら、帰路についた。
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晶陽で、晶ちゃんが凄く好きだけど自分といるよりも苹果ちゃんといる方が晶ちゃんの幸せになるんだと何度も自分に言い聞かせる哀しい陽毬(匿名様)
タイトル・反転コンタクト
今回はリクエストありがとうございました。遅くなってしまい、申し訳ありません。
拙い文ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
2012.7.26
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