Commemoration | ナノ


好きだよ、いつものことだけど(アルレイ)










決して、見慣れた光景というわけではない。
互いに干渉をしないと思っていたはずだったのだが、こういう時に、平静を装うのがいかに難しいということも学習した。

アルヴィンは商売の取引先の女性と打ち合わせの予定が入っていた。
本来なら夕方までに、商談は終えている予定だった。だが、先方の都合により、時間は夜に持ち越される。

待ち合わせの場所は、ル・ロンドの宿泊邸ロランド。そう、レイアの家だ。
よりによって、なんでここなんだよと、アルヴィンは先方の電話を切った後に、大きく溜息を吐いた。


「時間、夜だって?」

「ああ、まあ、仕方ないよな。せっかく取れたアポなんだし、上手くいくようにしねえと」

「とって喰われないように気をつけろよ」

「それ俺に言うか?普通は逆だろ」



ユルゲンスとの何気ない話をし、アルヴィンは少しだけ気が紛れた。
別に仕事だから、やましいことをしているわけではないのだから、レイアを気にする必要はない。
レイアは、そういうのを気にする女じゃない。

仮にもし、レイアが手伝いに借り出されていたとしても、仕方がない。彼女なら、わかってくれるだろう。

そう思っていても、心はどこか落ち着きがなかった。










「いらっしゃいませー!」


アルヴィンの予測通り、レイアは家の手伝いをしていた。夕方の夕食時。レイアの父親の料理の評判はすこぶるいい。
なので、宿屋の少スペースといえども、お客さんはたくさん来ていた。

レイアは食事を運んだり、時にカウンターに入っては、お客さんと話を交えたりもしていた。

レイアは看板娘だ。そして彼女の笑顔は、とても魅力的だった。
彼女を口説こうと訪れてくる人も少なくはない。

だが、そんなレイアの笑顔に、今日は曇りが走っている。
それはカウンターからも目に入る、入口のテーブルに座っている男女。
そう、アルヴィンと女性だ。

父親からは、レイアが手伝いに入る少し前に来たと聞いていた。
テーブルの上にたくさんの資料を並べ、時にそれを手に取り、真剣に話をしあっているとのことだった。

別室を用意するべきか聞いた。入口付近だし、うるさいだろうと。だが、女性がご飯も食べたいし、すぐに済むから大丈夫だと言われ、二人はその場所に落ち着いたらしい。


(……聞いて、ないもん)



今日は大事な商談があるからと、彼が気合いが入っているのはわかっていた。
だが、あそこまで綺麗で大人で美人の人が相手だと、不安にならずにはいられなかった。アルヴィンの事を信用してないわけじゃなくても、やはり妬いてしまう。



「レイアちゃん?」

「あ、ごめんなさい!ぼんやりしちゃって、よくないですよね」

「レイアちゃんが元気ないと、俺は凄く心配になっちゃうよ。レイアちゃんは笑顔がよく似合うから」

「あ、ありがとう、ございます」



常連客からレイアはそう告げられ、これはいけないと、レイアは気持ちを切り替えようと試みた。







「……以上になります。ごめんなさい、時間変更してもらっちゃって」

「いえいえ、こちらこそ。商談に応じてくれて感謝してますよ」



ようやく打ち合わせを終えたアルヴィンは、資料を鞄にしまうと、すぐに視線をカウンターにいるレイアへ向けた。

自分に見せる笑顔以上の物を、お客さんに見せている。元々、彼女が元気なのはわかっているが、あそこまで元気過ぎて、あんな笑顔を見せて、正直面白くはなかった。

女性が荷物をまとめ終えたのを確認すると、二人はカウンターに座り、レイアの父親は、お疲れ様と告げ、すぐに美味しいご飯作りますからと、調理に取り掛かった。


二人が席に着いた時、レイアはアルヴィンと目が合ってしまい、反らすこともできずに見つめ合った。

だがすぐに、男性が話をし始めた為、レイアは助かったと思い、にこっと笑い、話を聞き続ける。




「なんだよ、あいつ」

「あの方は、アルヴィンさんの恋人ですか?」

「どうしてそう思ったんだ」

「気づいてませんでしたか?打ち合わせ中、たまにあなたは、レイアさんをちらっと見て、ムスっとしていた。打ち合わせよりも、レイアさんの方が気になって仕方なかった」

「それは」

「普通なら失礼行為に当たりますよ、でも、やっぱり噂通り、仕事の腕は確かなようですしね、珍しいのも見れたし、許してあげます」


女性がくすくすと笑い続け、これは参ったなとアルヴィンは頭を抱えた。
無論、カウンター越しにいるレイアに聞こえないはずがない。女性の声を耳にして、急に顔が赤くなった。

レイアはちらっとアルヴィンを見る。本当だ、また、彼はわたしの事を見ている。気になってくれてたの?もしかして、妬いてたりしていたの?



「レイア、これ、アルヴィンさん達に」

「あ、うん」



レイアはカウンターから出て、出来立ての料理をアルヴィン達に出しに行った。ありがとうございますと、二人はレイアの父親にお礼を言った。またカウンターに戻ろうとしたレイアは、アルヴィンに手首を掴まれる。

そして指で彼女の掌に文字を書いた。



「足りないの?」

「伝えなきゃわかんねえことだってあるだろ」

「心配になったんだ?」

「うっせ、バカ」






彼がレイアの掌に描いたのは、『俺には?』

彼にしか見せない顔があるんだってこと、知っておいてほしいなとレイアは微笑みながら、そっと彼の手を握り返した。












――――――――――
アルレイで互いにヤキモチ、最後は仲直りする話(匿名様)
タイトル・プレゼント

遅くなってすみません。今回はリクエストありがとうございました!
拙い文ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。


2012.6.11


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