Commemoration | ナノ


マイ フェルリープト・ハニートースト










早朝から、高倉家の開いた窓の隙間から、食欲をそそられる匂いが立ち込めた。
そしてそれと共に、陽毬と苹果の口ずさんだメロディーも、窓の隙間から奏でられていた。
朝早くから準備できるようにと、苹果は前日の夜から高倉家に泊まり、陽毬の部屋で一緒に眠った。
いつもは、ほぼひとりで過ごしていた家の中に、人がいると思うだけで、とても穏やかな気持ちになっていく。冠葉、陽毬、そして晶馬。三人の間に入るのには、やはり多少の緊張感は感じていたのだが、それでも、この人達と一緒にいることは、嫌ではなかった。

「苹果ちゃん、明日、楽しみだね」

陽毬のベッドで共に寝ていた苹果へ、陽毬が話しかける。
苹果が寝返りを打ち、陽毬の方を見た。陽毬はにこにこ笑っていた。

「うん、そうだね。美味しいお弁当作ってさ、晶馬君達に喜んでもらおうね」

そうして、二人の和やかな時間は過ぎ、陽毬と苹果の最高傑作であるお弁当が作られていた。

その後ろで、サンちゃんが弁当箱をテーブルに出し、また違う弁当箱を二つ用意して、おかずを詰め込んでいた。











「っとに、なんで俺まで」

「兄貴、そんな渋い顔するなよ。いいじゃないか、僕は嬉しいよ」



冠葉、そして1号、2号と共に、晶馬は河原へ到着する。場所取りだ。いい天気ではあったのだが、お花見でもなんでもないのだから、陽毬達と一緒に行けばいいだろうと冠葉は渋っていたが、晶馬に家から引きずり出せてしまっていた。


「眩し…………」

「冠葉は昼間は寝てばっかりだもんな」

「外が明るすぎるんだ。それに、暖かいだろ。眠くなっちまうんだよ」


そう言いながら、冠葉は苦笑した。本当に太陽は眩しかった。目が眩みそうになる。この何もない場所、なんの変化もないこの空間にいるだけで、へどが出そうだった。
1号はサングラスをかけて、腰回りに手をおき、かっこよくポーズを決めている。そんな1号の隣にいた2号が、1号をとんっと突き飛ばし、1号はごろごろと転がり落ちていった。


「僕はこういうのいいなって思うけどね。荻野目さんも一緒に行くって言ってくれたし、陽毬も喜んでたし」

「お前は祖父さんか」

「いいんだよ、この当たり前の時間を生きてる事が、僕は幸せなんだ」



冠葉と晶馬は、ブルーシートを広げながら、ぽつぽつと会話を交わし、1号2号が、シートの隅に石を置いた。さっきの仕返しか、今度は1号が2号を突き飛ばした。2号が石に躓き、ブルーシートの上に直撃して身悶えていた。


「お待たせー!」


坂を上った所に、バスケットを持った二人が、手を振りながら合図を送る。やっと来たかと冠葉が呟くと、坂を上り、陽毬の持っていたバスケットを預かった。

「冠ちゃん、ありがとう。振り回したりしないでよ」

「んなバカなことするかよ、それにしても大きいな、どんだけ作ったんだ……あ、陽毬、ここ危ないから気をつけろよ」


冠葉が陽毬の手を取り、坂を下りていく。その様子を見つめながら、苹果は、冠葉の以外な優しさに驚いていた。そして陽毬がお姫様に見えた。彼女に優しく寄り添う冠葉は、まるで王子様みたいだった。

1号がサンちゃんの両手に持っていた荷物を持つ。
しかし2号もサンちゃんの荷物を持とうとし、1号から奪おうとし、二匹は見つめ合っていた。



「ごめん、持つよ」


冠葉と陽毬に視線を奪われていた苹果は、手元が軽くなった事に驚き、そして晶馬が来てくれていた事にも驚いて、顔を赤くした。


「陽毬の料理が美味いのは知ってるけど、こうして荻野目さんの作った料理が食べれること、僕は嬉しいよ」

「えっ、や、や、やだな、そんなこと………」


晶馬の恥ずかしい台詞を耳にした苹果は、勢いよく晶馬の背中を叩く。


「いっ…………」


晶馬はしゃがみ込んだ。


「ご、ごめん、大丈夫?晶馬く…………」



ああまたやってしまったと、苹果は慌てて、晶馬に謝ろうとしゃがみ込んだ。
その隙に、晶馬は一瞬だが、苹果へとキスをした。冠葉や陽毬に見られたら恥ずかしいと思ったから、本当にほんの一瞬だけ。


「ケチャップの味だね」

「っ………晶馬くんっ!!!!!」


苹果の大きな声が、坂の上で響き渡っていた。










「も、もう冠ちゃん、大丈夫だよ、逆にそんなにくっついてたら危ないよ」

「大丈夫だ、お前は危なっかしいんだから、心配なんだよ、せっかく朝から頑張って作ってくれた弁当も、無駄にしたくないしな」



陽毬を腕にしっかりと掴ませて、冠葉はゆっくりと坂を下り、場所をとったブルーシートの上にバスケットを置いた。


「ありがとう、冠ちゃん」


気にするなよと、冠葉はブルーシートに腰を落としては、手を振った。
陽毬が自分の腕を掴んでいてくれていた時、大丈夫だよと言いながらも、しっかりと掴んでいてくれていたのが、冠葉はとても喜んでいた。
陽毬の感覚が残っている腕に触れ、陽毬を思い出し、微笑む。



「はい」



陽毬が何かを冠葉の口元に近づけた。
それは細かく加工された、1号の形をしたウインナー。


「これ、お前が作ったのか」

「サンちゃんのも、晶ちゃんのも作ったよ、先に食べたら怒られちゃうかもしれないけど、さっきのお礼に、冠ちゃんに先にあげるね」


綺麗に作られた1号ウインナーを見て、冠葉はそれをパクっと口に入れ、よく噛み、飲み込んだ。


「ん、美味い」

「これでマズかったら大変だよ、苹果ちゃんと頑張ったこっちを美味しいって、思ってもらわなきゃ」

「お前の作ったものは、なんでも美味いんだよ」



さらりと口にされた言葉に、陽毬はドキっとしてしまう。その瞬間だけ、冠葉を意識して、早く準備をしなくちゃと、冠葉から逃げようとした。


「楽しみだな、お弁当」

「う、うん、楽しみにしてくれて、ありがとう………」




そうしてようやく、ブルーシートに座った四人プラス三匹。
冠葉と晶馬は、目の前に出された、陽毬と苹果の特製お弁当を美味しいと連呼しながら食べ続けた。
1号2号も同様だった。


そんな二人の姿を見ながら、陽毬と苹果は喜んでいたが、二人の頬が熱くなっているのは、治まらず、どんどん上昇していっていた。









―――――――――――
ピンドラの晶苹と冠陽でピクニック。ペンギンも(匿名様)
タイトル・涙星マーメイドオリオン

今回はリクエストありがとうございました!
拙い文ですが楽しんでいただけると嬉しいです。

2012.4.28


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