いつも心に背徳を(ジュミラ)
先日、交通事故により、運び込まれた患者が一人いた。
患者の名前はミラ。子供が車に轢かれそうになったのを庇い、車の急ブレーキの強い音、車にぶつかった鈍い音と共に、ミラの体は宙に舞い、地面に強く叩き付けられた。
命に別状はなかったものの、事故の後遺症で、彼女の右足が動かなくなってしまう。再び歩くようになる為には、リハビリが必要だった。そのリハビリを行えるようになるまでの治癒は、まだ終わっていない。
未だ個室に部屋を設けられて、退屈そうな顔をしながら、ベッドに横になる日々が続く。
そんなミラでも、唯一、楽しみな事がある。それは、彼女の主治医である、ジュードの存在だった。手術の執刀も行い、彼女の命を救ってくれた恩人だ。
どこか幼くて、でもしっかりとしていて。
問診でジュードが来るのが、楽しみでならなかった。
きっと自分は、ジュードに一目惚れしてしまったんだと思った。一目惚れなど、信じられないと思っていたのに。
体に聴診器を当てられている時も、ジュードが近すぎて、息ができないくらいに苦しくなった。心拍数が上がり、ジュードが何かあった?と何度も聞かれていた。
「女性の体に聴診器を当てるのは、恥ずかしいと思わないのか?」
「僕は医者だし、そんなこと気にしてたら、男しか治せなくなっちゃうよ。うん、今日も健康だね、足ももう少しでリハビリできそう……」
その時、ミラはジュードを眺めながら、唇を尖らせていた。
確かに他の女性に、ドキドキされては困る。けれど、他の女性よりも、自分の方がいい女だと、言える自信もあった。ジュードをドキドキさせたいと思った。
「ジュード先生」
くいくいとミラはジュードの白衣を引く。
「どうしたの?」
ジュードはミラの方を振り向く。
ミラはしめたと、唇を緩ませた。引っ掛かったなと思うと、彼の手を掴んで、自らの胸に触れさせた。
ミラの豊満な胸の谷間に、ジュードの手が挟み込まれる。
流石のジュードも、顔を真っ赤にしていた。
「ドキドキしただろ、なんだ、嘘じゃないか、ジュード先生」
「ド、ドキドキするに決まってるじゃないか、こ、こんなことされたら………」
「どうだ?もっと触りたいとは思わないか?」
ミラの両手が、ジュードの右手首を掴んで離さない。ジュードが引き抜こうと頑張っているのは、手の動きからわかった。だが、全力で逃れようとするならば、もっと力を込めれば、安易にできてしまうはずだろう。
でも彼はそうしようとしない。
「……ミラ、さん」
「私は構わん、ジュード先生になら、いくらでも触れてもらっても、な」
ミラはジュードへと甘い言葉を幾度も幾度も囁き続けた。ジュードが耐えているのが面白いとさえ思った。
彼女にとっては、ジュードが自分を意識してくれるように、仕向けた事である。ジュードとたくさん会話を交わしてきたからこそ、そのタイミングを、ずっとずっと伺ってきたようなものだ。
やがてジュードはカーテンを閉めきって、外からの光を完全に遮断させた。
下唇を噛み締め、はあはあと、口から漏れる荒い吐息。ジュードがようやくミラを見る。
パジャマのボタンが胸元だけ外れていて、それを見て、いつの間に、とジュードを驚かせる。
「その気になったか」
「……ずっと、待ってたってこと?」
「そうだ。先生のこの細くて長い指、大きな掌に、触れられたいと思っていた。私に問診している時は、ドキドキしてほしいと思っていた。この感情、なんだと思う?先生」
「……さあ?僕にはわからないよ、ミラさん」
ジュードが靴を脱ぎ、ベッドの上に昇る。
ミラの胸に挟まれていた手を動かして、パジャマのボタンをプチンプチンと外し、脱がせた。
「もう一回、問診してくれないか」
ミラに誘われて、ジュードは彼女の心臓に触れる。ドクンドクンと早まる心臓の音。この早さの心拍数を、自分はいつも耳にしてきたはずだ。
「そうか、僕が触れているから?」
「そうだ。ジュード先生が、私に触れているから、私はこんなにドキドキしてるんだ」
「そう。じゃあ、僕の心臓の音、聞いてみる?」
ミラはジュードに言われるがまま、ジュードの胸に顔を近づけて、耳を当てる。
なんて早い心拍数なんだろう。早くて早くて、彼がどうにかなってしまいそうな気がする。ミラがそうした瞬間に、ジュードはミラを抱きしめる。
「今からの事は、僕達だけの秘密だよ」
勿論、とミラは呟くと、秘密の時間をジュードと共に過ごした。
以後もしばらく、秘密の関係は続いていく。
「好きだよ、ジュード」
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ジュミラでジュードが医者でミラが患者。ラブラブか裏(匿名様)
今回はリクエストありがとうございました!
拙い文ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
2012.2.9
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