◎ feel
誰かを想えば思うほど、すべてを独占したい気持ちがないことなど、生まれないはずがない。
僕は、ミラのどこが好きなんだと言われたら、きっと答えることができないと思った。
好きになるのに、理由なんかいらないって言うよね。
最初は信じることができなかったけど、でも、その言葉は、そうなんだって。
自分に大まかな理由がないにしても、ミラがどうして、自分の事を好きになってくれたのかどうか、その理由を知りたくなるのは、やはりずるいことなんだろうか。
なんとなくだけど、ミラに聞き出すことはできなかったんだ。
何かしら理由がないと、ダメなのかと言われそうで。
逆にミラは、僕には一切、そういうことを聞いてきたりはしなかったから。
でもある時、偶然だけど、僕はミラとレイアが会話しているのを耳にしてしまった。
別に隠れる必要がなかったんだけど、レイアが、僕の名前を会話で出してきたから。
その場を離れずにいられなくなった。
「ねえ、ジュードのどういうとこが、ミラは好きになったの?」
レイア、まるで僕がそこにいるのをわかっているような質問をして。
ミラにそういう質問しないでよって、焦ったが、聞きたかった。
ずっと知りたいと思っていたことだったから。
「理由か、考えたこともなかったな」
ミラの返答は、僕が予想していた通りのものだった。
やっぱりそうだよね、理由なんか、いらないよね。
「あ」
「なになに?」
「そうだな、ジュードの傍にいると、居心地がいいんだ。なんというか……私が、私らしくいられるから……かな」
「そうなんだ、わかるかも」
僕は、きっと、体全身が、真っ赤になっているんだと思った。
左手で口を覆い隠して、襲ってくる恥ずかしさに耐えた。
そんな、贅沢な言葉。
嬉しい気持ちも、
切ない気持ちも、
楽しい気持ちも、
こんなに、誰かを想い、どうしていいかわからなくなる気持ちも、
君と出逢って初めて知った。
僕はダッシュで、その場を離れた。思い切り走った。ミラの言葉が脳裏で永遠とループする。
嬉しい、嬉しかった。
本当は理由だって、たくさんあった、だけど僕は。
君を尊敬していて、
そんな君に尊敬される人間でなりたかった。
僕はまだ大人ではないし、君が頼るには、そんな器は持ち合わせていないのかもしれない、それでも。
自信なんて、これっぽっちもなかったけど。
「ははは、なんだ、僕は……」
君の言葉ひとつだけで、こんなにも幸せになれる。
その後の僕は、どうやら態度に嬉しさが、溢れかえっていたようで。
「何かいいことでも、あったのか」
とミラに聞かれてしまった。
なんでもないよって、言おうとしたんだけれど、言う前に、僕の体が、先に動いていて。
気づいた時に、僕の指は、ミラの肩付近に手を伸ばしていたんだ。
「どうかしたのか」
ミラの声に僕は我に返って、伸ばしていた手に気づき、行き場をなくした。
「どうしたい?」
「?」
「その手だよ、そこから、どうするつもりなんだ?」
ミラって、たまに意地悪なことを言うよね。
確かに僕の手は、固まったまま動かなくて、宙ぶらりんの状態で。
戻してしまえばいいものの、きっと僕は、ミラに触れたくてたまらないんだ。
だから手も下げることができないんだ。
僕の手は、ミラの頬に行き先を変えた。
ミラは、触れた僕の手に何も言わなかった。
「早く大人になりたい」
僕はこんなことを口走った。
「どうしてだ」
「君に、尊敬される人間になりたいんだ」
「大人にならなくても、そうなることはできるだろう」
今度はミラが、僕の頬に手を伸ばしてくる。
頬を撫でられ、髪に指を絡ませて、また頬に戻す。
「確かに、君が歳を重ねた姿を見るのは、私は楽しみだよ。なんせ、私が惚れた男だ。きっといい歳の重ね方をするだろう」
ぐいっと僕はミラに引き寄せられ、僕の首にミラの両手が絡み、指は僕の髪をいじっている。
だから僕も、彼女の誘いにのろうと思った。
「それ、僕の成長を、ずっと傍で見てくれているって、思っちゃっていいの?」
「ああ、そうだ。私は君の傍にいる、君の隣は、私のものだよ、誰にも譲らない」
初めてあった時からわかっていた。
僕は生涯、この人がいい。この人だけでいい。
世界中にたくさんの人がいようとも、僕には、この人しかいないんだ。
prev|next