拍手 | ナノ
 辿る想い




ジュードにしては、珍しいミスをした。

ほんの一瞬の隙を突かれただけで、相手側に有利になることは、少なくはない。

戦いの中で、そういうことは、心掛けていたはずだった。

自分を護る術だけは、幼少期から鍛えてきているから、常に動きの中で無駄がないジュードにとっては、完璧であるはずだった。

それが、ある時に思い知る事となった。

ミラが、人間と戦闘している姿を、目撃する。
ア・ジュールの兵士でも、ラ・シュガルの兵士でもない、見たことのない組織。

何の理由もなく、ミラが戦闘に入るとは思えない。

ジュードは考えた。ミラはアルクノアという組織から、命を狙われているということを思い出す。

ジュードの推測から、ミラが今戦っている相手は、アルクノアと判断した。

ミラが負けるとは思えないが、ミラを殺されるわけにはいかない、絶対に守ってみせる。

ジュードは走り出し、戦闘へと加勢する。


「ミラ!」


ジュードが駆け付けた時、ミラは相手の拳を回避しきれない状況に陥っていた。
ジュードは颯爽と現れ、相手の拳を両腕を使い、拳をしっかりと受け止めた。
びりっと体中に電流が走る。


「ジュード」

「大丈夫?ミラ」


ジュードはミラの方を振り向いて、ミラの無事を確認した。
目でミラの体全身を見て、彼女が無傷であることを確認すると、よかったと胸を撫で下ろす。


「すまない、相手が武器を持ち合わせていなくてな、私が剣を使うのは卑怯だと思って……」

「うん、わかってる、でももう大丈夫だよ、ミラは僕が守ってみせる、拳でなら僕は、負けるわけにはいかない!」



ミラを背後に下げ、ジュードは数人を相手に、武身術を繰り広げながら、相手を翻弄した。
ジュードの無駄のない動きを見て、ミラは改めて、ジュードの強さを確信していた。
戦闘が終わる度に、ミラに怪我がないかどうかを、確認していたジュード。

私はマクスウェルだから、心配無用だと、彼に何度も言ったのだが、彼は納得した様子を見せてくれたことなど、一度もない。


「ダメだよ、ミラは、ひとりで戦っているわけじゃないんだから。仲間の心配をするのは当然だし、その……、君の体に傷をつけられるのは、僕が、嫌なんだ」



ああ、本当に。
私は彼に守られてばかりだ。この青少年に。
この背中を何度見てきただろう。
人を守りながら戦うことなど、すごく難しいことなんだ。体力だって、相当消費したにきまって………。



「……っと、よそ見はよくないぜ」



一人の男が、ミラの背後に現れた。
しまったとミラは構えるが、男の大きい両手が、ミラへ向かって振りかかる。
間に合わない……ミラは目を閉じた。


ガチッと鈍い音が周囲に響き渡る。
ミラは自分自身に、痛みがまったくないことに気づき、そっと目を開けた。

男の攻撃を喰らったのは、ミラを庇ったジュードであった。
力強く吹き飛ばされ、ジュードはミラと共に背後へ飛ばされ、転がる。


「……っ……………」


ジュードは脇腹を抑えた。
ギリギリで構いが間に合わず、攻撃が身体にもろに響いてしまったようだ。

「ミラ……、大丈夫?」

それでも、ミラに心配をかけないよう、彼は気丈に振る舞った。


「あ、ああ、私は……。ジュードこそ、大丈夫か」

「これくらい、大丈夫だよ。あとはあいつだけだよね、すぐに片付けてくるから」


ジュードはにこっと微笑んで、再び戦闘に赴く。
あとはあいつだけ、という言葉を耳にし、周囲を見て驚いた。
ミラが苦戦していた相手が、地面へと倒れている。

拳で戦わせれば、彼はリーゼ・マクシアで強いのではないだろうか。

だが、そんなジュードの様子がおかしいことに、ミラは気づく。
敵の攻撃を数回、喰らっていたのだ。
体の動きもどうやらおかしい。キレがなくなっている。


「ジュード……!」


もしや、先程飛ばされた時に、まともに攻撃をくらってしまったのではないのだろうか。
私を、庇ったせいで……。

ミラは身を乗り出し、加勢しようと剣を構えた。



「…っ、ダメだよ、ミラ」


そうしようとしたミラを、ジュードが止めた。


「そんなことを言っている場合か、君は………!」

「いいから、大丈夫だから。僕は負けたりしないから」


頬の傷も数箇所についていて、ミラは悔しさのあまり、両拳を握りしめる。
歯も食いしばった。身体的能力は、自分よりジュードの方がかなり上だ。

(私が無傷で、彼が傷だらけなんて)

それはミラにとっては、1番納得のいかない事であった。



「はあああぁっ………!」


ジュードの技が決まる。
最後の男も、ジュードによって、倒され、地面に沈んだ。

その瞬間、ミラは急いでジュードの元へと駆け寄る。

ジュードは微笑むが、脇腹の傷が響き、そこを抑えながら、膝をつき、壁に寄り掛かった。


(……っ、やっちゃったな、もう少し長引いたら、危なかったかも……)


治癒功を使用しようとしたが、その体力すら持ち合わせておらず、これは仕方がないと諦め、体力の回復を待とうとした。

自分自身を護る為の護身術ではあるが、大事な人を護ることができなければ、意味がない。
守りながら戦うのが難しいとはわかっている。
だから、ミラが危なかった時に、攻撃を受け止めきれなかったことが、ジュードは悔しくてたまらなかった。



「大丈夫?」

「大丈夫じゃ、ない」

「どこか怪我した?」

「してない」

「ミラ」

「私が無傷でも、君が……そうじゃないだろう………」



怪我はしていない。
ジュードが守ってくれたから。
そのジュードが、体中にたくさんの傷を負っている。
それを見ると、胸が痛い。

ミラはジュードの切れた唇に触れる。
触れられると、少し痛みが走ったが、構わないと思っていた。
それがドキドキして、口を動かすとまた痛んで、顔がしかめる。


「すまない」


ジュードの様子を見て、ミラが手を離した。
だがジュードが、ミラの指先を掴んで離さなかった。
ジュードの戦いの後の指先を見ては、ミラはまた、ちくちくと胸が張り裂けそうだった。


「……ジュード」

「ちょっと、失敗」

「失敗?」

「僕、絶対、顔には傷がつかないようにしていたんだよ。だって、ちゃんと守りながら戦えるから、大丈夫だって、心配だってかけなくてすむんだって」

「…………」

「今日はだから、失敗だね。しかも……1番見られたくなかった人に、見せちゃったし」



そんなジュードを見て、ミラはわざと、ジュードが先程から押さえ込んでいる脇腹を、拳を作り、軽く殴りつける。


「く……………」


ジュードが痛みに耐え切れずに声を漏らした。


「ここも、だろ」

「知って……たんだ」

「勘違いされては困るから言っておく。私は守られたいわけじゃない、私だって君を守りたい。それは君と同じ気持ちだ、だから……」



ミラはジュードの片腕を、自身の肩に回し、ゆっくりとジュードを立ち上がらせた。
絶対ジュードは、自分で立って、脇腹の傷も隠して、歩いていくだろうと思っていたから。


「私を、頼れ」

「ミラ………」

「こういうことを、格好悪いと思わなくていいんだ。私はそんな風に思わない、戦いの勲章は格好いい、だが、私を守ったせいでの傷は……申し訳なくて、辛いんだ」

「……うん、でも、ミラも気にしないでよ、僕は君を守りきることができて、嬉しいんだから」





ジュードはミスをした。
ミラの気持ちを考える事ができなかったことを。
自分は護ることしか、頭になかったが忘れてはいけないのだ。

彼女も守りながら戦っているのだということを。





――――――――
タイトル・異邦人




prev|next

back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -