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 その柔らかさを愛してる









「ふわああああ………」



もうこれで、何度目の欠伸をしてしまったのだろう。よく覚えていない。
確かに睡眠不足だった。まだ十代の若者であるならば、全然体力もあって、深夜に起きていることなんて、得意分野であるはずなのに、レイアはそれができなかった、というか、アルヴィンがそれを許してくれなかった。

昨晩は、久しぶりに彼からの誘いを受けた。
教師という職業柄、資料の作成や、授業の進め方、クラスメートの対応等、やるべき事はたくさんある。面倒くさいと連呼しつつも、しっかりと真面目に取り組んでいる姿を、レイアはアルヴィンの私室で何度も目にしてきた。

家ではあまり邪魔をしたくなくて、仮に結婚していて、夫婦だとしても、レイアは気を使い、アルヴィンに合わせていた。
正直、少し淋しいと思っていた。学校では、自分達の関係は誰にも知られてはならないし、容姿、そして彼の表向きの性格が、生徒たちにはとても人気だ。
自分も友達と一緒になって、アルヴィンに絡みにいけばいいと思うのに、そこでまたレイアは躊躇い、話すこともほぼ少なからず。
自分がもう、彼の特別な存在だということはわかっている。こうして、結婚して、彼の妻になっているわけであるから。

だが、学校ならまだしも、家でも、顔を合わせる事は少なくて、自分達の関係って一体なんなんだろう、と悩んでいた時の、彼からの誘いだった。

考えすぎていて、なかなか眠りにつくことができなかった。そんな時、レイアの好きなアルヴィンの匂いが鼻を掠めた。どうして、と反応したレイアが、むくりとベッドから起き上がる。それと同時に体が太い腕に捕まり拘束された。直にわかるアルヴィンの匂い、抱きしめられているとわかっているはずなのに、夢か幻かと思ってしまっている自分もどうかしていた。



「もう寝ちまうのか」

「だ、だって、もう、深夜回っちゃうもん、朝ご飯とかお弁当とか作らなきゃいけないから、早く寝ないと」



レイアはそう呟いても、アルヴィンの腕の拘束は解かれない。寧ろどんどん強くなっていく。



「最近、してないだろ、俺だけか、こんなに欲求不満になってんのは」




アルヴィンはそう呟きながら、長い指をレイアのパジャマの中にゆっくりと忍ばせる。直ぐにレイアの胸を指が発見して、先端をそっとなぞられた。



「ひゃっ……」



声を発しながら、レイアはアルヴィンの方を振り向いた。眼鏡を外した、家の中での彼。ここにいるのは、教師ではなく、只一人の男だ。



「レイア……」





二人が静寂の闇に溶け込むのに、そう時間はかからなかった。


そして今現在に至っている。
一回だけだと思っていたのに、そうではなかった。彼の欲求を満たすかのように、行為は数回ほど繰り返される。彼が自分の名前を何度も何度も呼ぶ。思い出すだけで、恥ずかしくなってしまう。昨日、あのベッドの中にいたのは、自分ではないみたいだ。

ちょうどタイミングがいいのか、悪いのか、今はアルヴィンが担当している教科の授業中だった。
その低い声を耳にする度に、また思い出して、それを繰り返してドツボにハマっていく。だから、彼の授業中は本当に苦手だった。授業を受けているどころではない。
変な話だ。最初は、学校でアルヴィンに会える事が嬉しくて、彼の授業が一番楽しみで、一番頑張れたはずだったのに、ある意味、今は、こんなに辛いなんて。
理由もそれだけではない、私の旦那さんの傍に皆が近寄らないでほしい、なんても思う。
耳に詮をしてしまいたい。彼が教師としての姿や、こんな光景を目にするのは、自分が卒業するまでの、貴重な時間だとはわかっているのに、こんなにも余裕がなくて、心が狭いのかと思うと、自分がいかにまだ子供なんだということを痛感し、自嘲する。

またそうこうしている内に、授業終了のチャイムが鳴った。レイアはふうっと息をついて、欠伸を抑える事ができずに、またしてしまった。
授業が終わるなり、彼の周りには人がたくさん集まっていた。本当に彼は人気者だ。

そんな彼の妻である自分は、どうして彼は私を選んでくれたんだろうと、ふと考える。

じっとアルヴィンを見ていたレイアは、彼と目が合ってしまい、慌てて目を反らした。
そんなアルヴィンは口に手を当てて、レイアに届くように名を呼んだ。




「レイア」

「な……、は、はい?!」




驚いたレイアは立ち上がり、声が裏返りながら返答を返す。そんな彼女を見て、アルヴィンは噴き出した。



「なになに〜先生に見とれてたのか?おたくの熱い視線、感じたぜ?」

「ち、違います!!」

「先生、レイアは違うよ、レイアは先生の事、苦手だって言ってたから、残念だね」

「ちょっ、サーシャ!」




友人であるサーシャが口にしたことに、レイアは慌てた。やばい彼を傷つけてしまう、そう思っていたレイアだったが、アルヴィンは顔色一つ変えたりしなかった。



「ありゃ、マジかよ、俺の魅力に引かれないなんてなあ」

「あ、アルヴィンせんせ……」

「あと、おたくはこの前のテストも散々だったから、放課後補習な、っとに、逃げたら承知しないぞ」

「えっ、補習!?」




確かにこの前のテストは、アルヴィンの受け持っている教科だけが赤点だった。他はすべて平均以上を維持しているのに。去っていくアルヴィンの後ろ姿を見ては、レイアはほっと胸を撫で下ろした。


「補習か、ついてないね、レイア」

「もー、サーシャ!!なんで余計なこと言ったのよ、絶対それも含めての補習に決まってるじゃない……」

「先生の補習、かなりのスパルタだから気をつけてね、あたし、受けたことあるから、わかるんだ」

「……!そ、そうなんだ………」




サーシャが頬を染めながら、嬉しそうに語っている。ああ、そういえば、彼が言っていたっけ。サーシャが自ら補習を申し込んできたって。熱心だから、こっちも熱心に応対してやった、とかとも言っていたっけ。
サーシャは彼の事を本当に慕っている。口には出さないが、彼女はアルヴィンの事が好きなんだろう。女子はそういうのには敏感だからすぐにわかった。

ただレイアは、補習を行うのであれば、別に学校じゃなくて、家にすればいいのにと思い、彼にメールを送る。だが、彼からの返事はダメだ、の一点張りだった。
学校でなるべく顔を合わせることを避けていたレイアは、生徒として、彼と向き合える事ができるのか、まったくもって自信がなかった。

放課後に指定されていた、視聴覚室にレイアは足を運ぶ。そこには既にアルヴィンがいて、腕を、足を組みながら、こっくり、こっくりと首を動かしながら眠りについている。
そりゃあ、昨日、あんなに何回もしたら、翌日体に響くに決まっている。
とりあえずレイアは、アルヴィンを起こそうと思い、近づいては肩を揺さぶる。



「先生、先生、起きてよ」

「レイアがキスしてくれたら、起きる」

「な、何言ってるの、できるわけないじゃないですか………」



誰もいない、密室で二人きりだとしても、ここは学校であり、互いの関係は教師と生徒だ。
レイアは拒絶し、すぐに近くの椅子に腰掛けようとした。



「俺さ、マジで傷ついたんだけど」



ふと気付けば、昨日の夜、行為を行う前と同じ体勢になっていた。彼の腕の中にレイアがいる。



「だ、ダメだよ先生、誰かに見つかったら……」

「なあ、思い出さないか、レイア、昨日の夜の事をさ」

「せんせ……ダメ、ダメ、ダメ…………」

「おたくが気にして、俺を避けてたのは知ってるけど、さすがに苦手とまで言われるとよ、俺も傷つく」

「っ……ごめん、なさい……」




アルヴィンがしゃがみ込んだ為、レイアも引き寄せられては、一緒に床に膝をついた。




「こうすりゃ、見つからないな」

「あの……いいの?割り切ろうって言ったのは、アルヴィン……先生の方……」

「いいんだよ、たまには。でなきゃ、おたくに愛想尽かされちまうからな。この関係で一番辛い思いしてんのは、レイアだろ」

「せんせ……アルヴィン」



どうしてだろう、凄くキスがしたくて堪らなくなった。ずっとずっと堪えて、我慢していた。学校でこうして、彼と絡めることが、やはりレイアには嬉しすぎた。
そっと彼の頬に手を添えて、ゆっくりと距離を縮めながら唇を重ねる。
とても、とても、緊張した。こんな我が儘、もう許してもらえないかもしれない。許されたら、調子に乗ってしまいそうで。
彼は欲求不満と言っていたが、自分もそうだ。好きな人の傍にいたい、もっとたくさん話したい、帰ってからなら、尚更だ。



「今日は補習どころじゃねえな」

「ん……、んんっ、苦しいよ……先生……」

「偉いよな、こんな時まで、ちゃんと先生って言うんだから」

「……っ、こういうの、好きな癖に………」

「バレたか、じゃあ、もうちょい、頑張ってな……レイア」




アルヴィンの白衣に包まれ、抱きすくめられたレイアが、幸せそうな笑みを浮かべている。
我慢しすぎるのも、良くないんだと、彼に叱咤されては、また微笑み、彼の胸の中に甘えるように寄り掛かっていた。











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タイトル・Evergreen

アルレイおめでとうトロピカルヤッホー♪
とても楽しく書かせていただきました。



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