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 浮かんだ夢で夜空を渡って










彼女の表情の変化を、一秒たりとも、見逃したことはない。

一緒に旅をしている時も、旅を終えた後も。

仕方がなかった。
自分の性格の影響かもしれないのだが、瞳には、ミラが映ってしまっている。
無意識に追い掛ける。


それも最近になってだが、頻度が少なくなった。


それはミラに興味がなくなったから、というわけではない。

ミラに嫌われないように、必死になっていた自分が、徐々に減少していたからだ。


ミラはジュードが自分を見ていることは気づいていた。
誰かの視線には敏感で、以外とすぐに気が付いた。

それはきっと、自分が突拍子のない事をしようとするから、彼はきっと心配だから、自分のことを見ているんだろうと、そうミラは解釈する。


そのジュードの視線を、ミラは感じることがなくなった。


もう自分を見張る必要はなくなったからか。
世界は平和になったからか。

どうしてだろう、それが、何故か、淋しい。





「ジュード」




その時ジュードは、ベッドで本を読んでいた。
ミラは、ジュードの本を奪い去る。
どうした、一体何があったのか。彼女の顔を見るまでは気が付かなかった。



「何か、あった?」



ジュードはもう戸惑う事はない。
ミラがどんな悪戯をしようとしても、何かをやらかしても、動じる事はない。
気持ちにも心にも、余裕ができた証拠である。




「いつから、こんな顔をするようになったんだ。いつも私を見ていたくせに」




ミラの勢いは止まらなかった。
指に力を込めすぎて、シーツにミラの指跡がくっきりと残っている。
ジュードは一度、シーツに目を向けては、次はミラが何を仕掛けてくるのだろうと、彼女の行動を待った。




「いつからだろうね。忘れちゃったよ」

「君がそういう顔を見せるようになってから、君は私を見なくなった」

「え、そうかな?」





次にミラは、ジュードが先程まで読んでいた本を手に取り、自分の懐に隠してしまった。

そうきたか。ジュードはまた、笑みを零す。
本当に予想外のことをやってくれる人だ。




「見てるよ、いつも」

「けど私は、君の視線を感じなくなった」

「酷いな、ミラは。視線を感じなくなったからって、僕の気持ちは、変わらないのに」





ジュードの大きな掌が、ミラへと伸びた。
ダメだ。ミラはジュードの掌が好きだ。この掌に触れられてしまえば、もう反論することがてきなくなる。

いつも、いつも。

紅い瞳がジュードでいっぱいになり、揺れる。



「僕は満たされたから。君が満たしてくれているから。不安じゃなくなったんだ」

「なら、私は用済みか」

「もう、そんなこと言わないでよ。じゃあ、僕がどれだけ、ミラの事を見ているのか、教えてあげようか?」

「そうだな、教えてくれるのであれば、是非教えてほしいな」








本当に立場が逆転したなと、当時の自分をミラに重ねて、ジュードは見てしまっていた。

ミラだったら、わかってるだろうに。





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タイトル・涙星マーメイドライオン



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