◎ 計算されたカコフォニー
自信満々な裏には、桁外れの努力。
育て方次第で、幼い頃に人生を生きていく為の自分が形成されることは、こういう風になってしまった自分だからこそ、わかることであった。
朝、目覚めれば、時々、気分は重く、憂鬱な気持ちになることも、少なくはない。
寝起きではっきりとしない思考は、彼の気持ちを、更にネガティブへと連れていく。
リーゼ・マクシアに渡り着いてから、二十年余りの月日が流れても、対応しきれない、自分の体。精神状態。
「……だりいな」
朝は弱い方ではなかった。起きようと思えば、すぐに起きることはできた。
だが、今日もまた自分は、愛想笑いをするのかと、考えるだけでやり切れない。
「まーた、仏頂面してるね」
ひょっこりと、少女が、アルヴィンへ向けて、顔を出す。
毎度の如く、いきなりの訪問だ。それにもアルヴィンは慣れた。
「仕方ないだろ、朝は弱いって、おたくならわかってるだろ」
気分が乗らない時も、そう嘘をついて、自分の事をごまかした。
レイアは、それに納得してくれているんだとばかり思い込んでいた。
しかし、それは、彼の勘違いでもあり。
「最初は、朝は強いとか、言ってたのにね」
「あれ、そうだったっけ?」
知ってるよ。ごまかしたって、無駄なんだから。
彼は確かに、自分より長い時間を生きている。
経験したことも、自分とはまったく違う。
年上の人間は、少しでも大人ぶろうとする。
それがレイアは気に入らない。
だからつい、本能的に、レイアはアルヴィンの鼻を摘んでしまった。
「痛っ」
「もうみんな起きてるんだから、アルヴィン君も、早く下に降りてきてよね」
レイアは俯いたまま、風のように去って行ってしまった。
レイアの香りが、アルヴィンの周りを包む。いつまでも、消えることなく。
声のトーンから伺える、彼女の状態。怒っているのは一目瞭然だ。
アルヴィンは鼻を擦りながら思った。
「幼いのは、俺の方か」
彼女の逞しさに、アルヴィンは密かに憧れていた。
摘まれた鼻の痛みがなくなったら、下に降りよう。
アルヴィンはそれまで、ベッドの中へと潜り込んだ。
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タイトル・涙星マーメイドライオン
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