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 未来を語ったのは快晴の暮れ時(アルレイ)







望むのは、たったひとつの笑顔。

ポケットに手を突っ込んでは、小さな箱が入っていることを、アルヴィンは何度も確かめる。
これだけは、絶対になくしてはならない、大切な物だから。


大切な物とは、レイアへと渡す為に用意した、婚約指輪だった。


レイアと付き合い始めて数年が立つ。
こういうことは、早い方がいいのか、遅い方がいいのか、彼には検討もつかない。

タイミングがすべてであろう。


レイアの夢は、お父さんとお母さんのような、自分の家のような、温かい家庭を作りたいこと。
彼は看護士見習いを辞めたレイアから、聞いていた。

自分と一緒になって、彼女が望むような家庭を、自分が与えることができるのかと言われれば、それは定かではない。

与えてあげることはできなくとも、一緒に築いていくことは、きっとできるはずだ。

自分はレイアと一緒にいると幸せだ。
だから、レイアにもいつでもそう思ってもらえるようにするのが、自分の努めであろう。



「アルヴィンくーん!」

「おわっ」




待ち合わせ場所に、アルヴィンを見つけたレイアは、勢いよく彼の背中へと抱き着く。
違った意味でアルヴィンは驚いて、口から心臓が飛び出てきそうであった。

こちとら、前科があるわけだ。
大事な事を今から言わなくてはならないのだから、下手な失敗は許されない。
かといえ、もしも拒否されたらどうしたもんか。


(それくらいは同時ねえように、しとかなきゃな)


アルヴィンはポケットに入った箱を再び握り締めながら、軽く深呼吸をした。



「珍しいね、アルヴィン君が待ち合わせ時間前に来てるなんて」

「人を遅刻常習犯みたいに言うんじゃねえ」

「あはは。だから、なんか捕まえたくってさ、思わず抱き着いちゃったよ」



レイアはくすっと笑いつづけた。
彼女はまだ、アルヴィンに抱き着いたままだった。
離れないのであれば、今がチャンスなのかもしれない。
箱を渡すよりも、直接指に嵌めてしまった方がいいのではないのだろうか。



「ではお嬢さん。もうちょい、こうしててもらってもよろしいでしょうか?」

「え、どうして?」

「幸せを噛み締めていたいから」

「うん……?」



彼が望むのであるなら、とレイアは彼の背中に更に抱き着き、腕の力を強めた。
上手くいったかと確認すると、彼はラッピングされたリボンを解き、どうにか指輪の箱を開けることに成功する。

そうして片手におさめた、婚約指輪。


自分の腹部に、ちょうど彼女の手があてられている。
そして左手に触れた。


「どうしたの?」


握られている事に気づいたレイアは、彼へと問い掛けるが、彼からの返答はなかった。

彼はレイアの指の感覚を開けて、薬指をそっと撫でる。
それから、指輪をレイアの指に嵌めた。

レイアの左薬指に光り輝く指輪。

それを見ては、なんとなく自己満足ど終わりそうになってしまう。
違う、本番はこれからだ。



「え、アルヴィン君、何したの」

「まあまあ、ありがとな、もう離れていいぜ」



腕の力を緩めて、レイアはアルヴィンから腕を離す。
左薬指に違和感を感じ、レイアは薬指を眺めた。

シンプルなシルバーリングが、レイアの視界に入り込む。



「え、これって」


レイアは背を向けたままのアルヴィンに問い掛ける。
ここに嵌められた指輪。いくらなんでも、そこまで鈍感なわけじゃない。
自分にもそれくらいわかる。

単なるプレゼント、というわけではなさそうだった。




「レイア」

「は、はい」

「おたくの夢ってなんだっけ」

「……あったかい家庭を、作ること」

「その夢、俺と一緒に叶えないか?」





真剣な事を言うのは慣れない。
今だってちゃんと言えていたかどうかはわからない。
結婚して下さいと言えばいいのだろうが、自分はなんか好かない。

せめてもう少し、何かかっこいいようにできないものか。


彼が悩んで決めたプロポーズは、レイアの夢を一緒に叶えないかというものであった。



レイアは冗談なのかと、最初は思ってしまった。
だが、彼がここに嵌めてくれた指輪、そして今の言葉。その意味を理解しては、知らぬ間に目からは涙が零れていた。

彼が、わたしを選んでくれた。




「………っ」

「レイア、泣いてんのか?そうか、泣くほど嫌なんだ、俺も嫌われたもんだな」

「違う、嬉しくて、なんか……夢みたいで………」



もうそろそろ振り向いてもいいだろうか。
レイアの様子をこの目で確認したい。
アルヴィンは振り返る。両手で顔を押さえながら、レイアは泣いていた。そんなレイアを彼は抱きしめる。


「で、返事は?はい以外は受け付けねえぞ」

「っ……き…きょ…うせい……?」

「最初からそのつもりだったんだけど」

「わ…わたしだって……いつ…も…そうなれ…たらいいな…っ…て」



とりあえず安心だ。
受け入れて貰えたのなら、もう何も心配する必要はない。
アルヴィンは胸の支えがとれて、気が抜け、レイアに寄り掛かるように抱きしめていた。



それからが、大変であった。
彼に家族はいないが、彼女の親には報告をしなくてはならない。

お父さんは絶対泣くよとのレイアの宣告通り、お嬢さんを下さいと頭を下げにいったら、レイアの父親は泣きっぱなしで、ロクに会話もままならず、そこは彼女の母親が、代弁として、二人に応えてくれた。


「幸せになれとは言わないよ、幸せを作って、それをあんた達が作っていく家族に、与えて拡げていきなさい」

「お母さん…」

「アルヴィンさん、こんな娘ですが、レイアをよろしくお願いします」

「こちらこそ」




こうなることはわかっていた、と最後に母親に言われてレイアは苦笑した。
以前からアルヴィンはここによく遊びに来てくれていたから、もう息子も同然だからと、ソニアは豪快に笑いながら答えた。



挨拶もすませ、あとは式場も探さなければならなかった。
結婚するにあたって、いろいろ準備するものがあって、これは確かに男は面倒くさくなるなと、投げやりになりかけもしたが、ここはレイアの為だと、協力できる限り、協力した。

その間、喧嘩が数回あった。

それでもすぐに仲直りし、忙しい合間をぬっては、着々と準備は進められていく。


試着でウエディングドレスを着た時、レイアはああ、自分は結婚するんだと、ようやく現実味を増してくる。




「似合うな」

「あ、ありがとう」



大きい鏡に写ったレイアとアルヴィン。
アルヴィンの服装も似合っていた。そして名門一家の生まれの気品が溢れて見えた。




「似合うよね」

「だろ?俺、いい男だから」

「もうっ」





試着した時も数枚、写真を撮ってもらった。
この写真を見ながら、本番の日をシミュレーションして、カウントダウンを開始していたのだが、その日はあっという間に訪れてしまい、こうしてバージンロードを歩く直前迄に至る。

本当に走馬灯のように日々は過ぎていった。



「綺麗だ」



レイアの姿を見ての第一声は、それだった。
エステに行ったり、体重を落としたりしていたのを彼は知っていたが、試着した時よりも、今が一番綺麗だと思い、口にしてしまった。


「よかった、ありがと。アルヴィン君もかっこいいよ」

「なんだこの褒めあいっこ」

「あははは、確かに」

「あ、まだ誓う前だけど……」

「え?」



アルヴィンはベールを上げて、レイアの顔を覗いて、ちゅっと口づけを交わす。
そしてすぐにベールを下げた。





「アルヴィン君」

「じゃあ、待ってるからな」





もう、本当に油断も隙もありゃしない。
でも嬉しい。顔がにやけてしまった。

とうとう夢が叶える時がくる。

あなたと一緒に叶えていく。






――――――――――
アルレイでプロポーズから結婚式までの話(匿名様)
タイトル・涙星マーメイドライオン


今回はリクエストありがとうございました!
拙い文ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。



2011.11.12




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