◎ 信じるものが同じなら
二人の家にはアルバムがたくさんあった。
最初に言い出したのはレイアで。
思い出なんか必要ないとアルヴィンは言った。
形にしたところで、なんの意味があるのだと。
頭に残しておけば、問題がないだろう。
「でもわたしは、残しておきたいんだよ」
一眼レフのカメラを手にしては、レイアはパシャっとレンズを彼に向けて、写真を撮り続けた。
撮られ馴れていない彼は、一番初めは、目線すら合わせてくれなかった。
固い顔をし続けた。
一人が嫌なら、一緒に写ろうとレイアが促して、セルフタイマーを用いて、レイアはアルヴィンと写真に写る。
「ほら、いい顔してるじゃん」
出来上がった写真をアルヴィンは見た。
レイアが隣にいるせいだろうか、自然な笑顔が、この写真から滲み出ている。
だが、恥ずかしすぎて、ずっと見ることは敵わなかった。
「ふふふーん♪」
その写真を大事そうに、そして嬉しそうに、レイアは抱きしめていた。
「そんなに嬉しいものなのか?」
「嬉しいよ、だって、初めてのツーショット写真じゃん」
やはり自分には理解できるはずがない。
隣に自分がいるのだから、別に不必要なのではないのだろうか。
「わかってもらえなくても、別にいいんだから」
たとえ彼にわかってもらえなくとも、絶対にいつか、わかってもらえる時がくると、レイアは信じていた。
撮り続けてきた写真は、百枚を超えているだろう。
アルバムがどんどん重なっていく。
その大量のアルバムを、アルヴィンは手に持ち、ぺらぺらとページをめくっていく。
ああ、こんなこともあったっけと、彼は思い出に更ける。
こんなにたくさんの彼女との思い出があり、振り返っては、はにかんだ。
彼女と過ごした時間は何にも変えられない。
こういうことかとアルヴィンは初めて実感する。
そして、また違うアルバムを手にして、ページをめくると、それは全部、自分だけしか写っていない写真だった。
いつの間にこんなに撮り溜めていたのだろう。
まったく気づかなかった。
これは本気で照れる。
レイアから見た自分は、このように見えているのか。喜怒哀楽のすべてを撮り逃さずに、彼女は残してくれていた。
アルヴィンはアルバムの傍らにあった、一眼レフカメラを手にし、ソファーで横になって眠っているレイアの姿にピントを合わせ、シャッターを押した。
「ファインダーから覗いた、俺が見たレイア…か」
そうして彼は、再びシャッターを押した。
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タイトル・Evergreen
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