ジュード×ミラ | ナノ


一方通行






時計の秒針が、カチカチと動く。
誰もいない、静かな空間で、ミラはテーブルに肘をついていた。
夜という時間は不思議だ。
いろんなことが、考えられる。

電気を付けずに、普通の暗闇の中で、考えたり、星を見たりするのが、好きだった。
ミラはたまにこういう時じゃないと…気持ちの整理すら、できない時がある。
どんなにしっかりしてる人でも、恋愛だけは…不器用だ。

それは一人で成り立たないから。
相手と自分。二人の気持ちが交じるから、成立する。片方の想いだけじゃ、一方通行のまま。


『ミラが女性として好きなんだ』


ミラの中に残る、男の声。彼女はその言葉と声の主に頭を悩ませる。
そんな時に鳴らされた、ドアをノックされた音。



「誰だ?」


「ミラさん。私です。ちょっと…よろしいですか?」


ミラは了承し、そこから入ってきたのは、ローエンであった。彼はコップを持ち、一つをミラに託す。


「どうですか、1杯?」

「ああ、構わないぞ」



ローエンの声を聞き、ミラの緊張の糸が、一気に解れた感覚に襲われた。
すべてを知っているかのような、ローエンの表情を見て、ミラはたまには甘えてもいいのかなと思った。
本当なら、酒が弱いミラに進めるなんて、自分としては有り得ない行為なのだけど。

興味を持って、アルヴィンやローエンと飲む機会が増えて。
彼女は、(ホントに若干であるが)お酒に強くなった。
けど、ちゃんと自分の意思でやってることだし、自己管理はできていたから、もう何も言うことはなくなった。

唯一、口を挟んでくるのは、彼女が今悩んでいる原因の人だけ。


「……難しいな」


ふと、ミラが口にだした一言。


「…何がですか?」

「…恋愛だ。なんで世の中に…そんな感情が発生するんだろう」


彼女にとっては、1番やっかいなものだと思っていた。
恋なんて。愛なんて。
相手を傷つけるものでしか、ないと思うのに。それは何一つ、癒しにはならないではないか。
苦しくて苦しくて、いつかは自滅してしまうものなのではないのか。


「ミラさん。あなたは?恋愛は不必要とお考えですか?」

「……わからない。でも……必要なもの…なんだろう?」

「そうだと思いますよ。あなたが、誰かを好きなように」


ローエンの言葉に、びくっと、ミラの身体が反応した。
動揺して、ローエンの方に勢いよく振り返った。
そんなローエンは、ただ、にっこりと微笑んでいて。


「……好きな人がいるなら、その人にちゃんと伝えるべきですよ」

「知ってたのか……」

「……ええ。すみません。聞こえてしまして。彼は…爪が甘かったみたいですね」




顔が平静を装いながらも、ミラの心拍数は、どんどん上がって来ている。
まさか気づかれていたとは思わなかった。



「みんな、知っているのか?」

「いいえ。彼の気持ちはさておき、あなたがそういう感情をお持ちになっていることは、私だけが知っているんではないかと思っていますが」

「そうか………」

「彼はあなたを、大切にしてくれると思います」




大半のみんなは、彼の気持ちを知っていた。
どれだけ、ミラのことを大切に想っているのか、ということもだ。

彼になら、ミラを大事にしてくれるだろうと、大の大人二人は、話したことがあった。

確かにそうなのだ。
彼はもう、当たり前の存在になっているから。
そんなミラはローエンに、甘えるように寄り掛かった。

ローエンはミラの頭を撫でて、ぽんぽんと叩く。


「あいつの気持ちに応えてやりたいんだが、これから起こることを考えると…言えなくなるんだ。言わないのも愛情の一種だろ」

「けど、曖昧では……彼を傷つけることになってしまいますよ」

「………………」




好きな人と想いが通じ合わない人は、こんな気持ちになるんだろう。
どうして、自分じゃダメなんだろう、と。



「しかし、私がミラさんの頭を撫でる展開になるとは思いませんでしたよ」

「そうだな、しかし…確かにこういうのは悪くないな」

「あなたが誕生した年月を考えれば、私の方が人間としては生きてますから。じじいもたまには役に立てますよ」

「そうだな、感謝しているぞ」



ミラは正直、躊躇っている部分もたくさんあったりしていた。

彼が好きだと言ってくれた時、胸がとくんと跳ね上がってしまった。
ミラが彼に感じている気持ちは、きっと彼と同じものであるんだろう。







「うわ、ローエン、どこに行ったと思ってたら…ミラも」

「酒くさ…いい歳してなにやってんだ、こりゃまた、何があったかわからんが、地獄絵図じゃねえか」



翌日、アルヴィンとジュードは部屋を訪れて、部屋のすざましい光景に、二人は思わず言葉を失った。


「ミラ起きて、布団に横になりな」


ジュードはミラを抱き上げて、彼女の体を支えながら連れて行く。
ふわふわとした意識の中でミラは、彼におんぶされていたあの時と同じ感覚を思い出して。


「ここは…安心するな………」


ミラがそう言った時、彼は参ったなと心の中で思いつつも、
それはこっちのセリフだよと返す。
自分は彼女に想いを伝えてしまったのだが、彼女からは返事を貰えていない。

だが今の言葉は、好きと言われる以上に嬉しい言葉だった。











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