ジュード×ミラ | ナノ


ユーチャリス






ある夜、ジュードは散歩にでていた。



潮風を肌に感じながら。
そして誰もいないこの空間は、意識を冷静に保つことができる。


『ジュード…すまない…』


今日の夕方、ジュードはミラにそう言われた。
ミラが謝るなんて、何かあったのだろうか。
だがジュードにはどうしてだかわからなくて、考えに来ていたのもある。
思いあたることはなにもなかった。
その後、彼女はそのまま振り向かずに歩いていってしまい、聞き返すきっかけが、つかめなかった。

でも、あの時のミラの微笑が、なんだかとても悲しくて。


「だから…ほっとけないんだよ、僕は…」


本当はあの時、すぐにでも、彼女を抱きしめていればよかったんだ。
すぐにでも、会いたくなった。
こんなことをしてる場合じゃない。
急いで、宿屋へと戻り、彼女の元へと急いだ。

もう真夜中を過ぎている。
きっともう眠っているだろう。
そう思ったジュードだが、なんと入り口でミラが座り込んでジュードを待っていた。


「ミラ…?ずっとここにいたの?」

「あ…ああ。よかった、いなくなったから、心配してたんだぞ」


そっと、ミラが立ち上がった時、隙をついてジュードはミラを連れて、空き部屋へと入っていった。
そしてドアを閉め、壁へ手をついた。ジュードのその行動にミラはただ、驚くしかなかなかった。そしていつになく真剣な表情をしているジュードを見て、ミラにはジュードが何を思っているのか、何を言いたいのか、そこでわかってしまっていた。


「今日の“すまない”ってなに?」

「それはだな、私が、ここまで君を巻き込んで、なんだか…いたたまれない気持ちに…なってしまって…」


こんな弱気になるのは、自分らしくない。
前にもこんなことがあった。
そう、あの時、存在の矛盾に気が付いた時だ。
そして、何かを失うことの恐怖。
いつも心配をかけてしまうこと。

すべてが悪い方向に考えてしまって、ジュードへと謝ってしまった。
らしくないことはわかっている。だが、心に違和感を感じるようになってしまってから、以前のような自分がどのようであったのかが思い出せなくなってしまったのだ。

何故だ。どうしてしまったのか。
これでは、ジュードが想ってくれている自分などではないだろう。


「すまない…!」


ミラはジュードの手を振りほどき、ドアを開けようとしたが、彼は彼女を逃がさない。彼女の細い腕は、彼に捕まり、どれだけ力を込めても、びくともせず振りほどく事ができなかった。

「行かせないよ、ミラ」

ジュードは耳元で囁く。
愛しく感じていた。
普段では見ることのできない、壊れそうなミラのすべてを包みこみたくなる。
ミラは自分の目頭が熱くなっていくのがわかる。
ああ、私は、ひとりなのではない。
ジュードがいてくれたからこそ、自分は今、こうしてここに立っていられているのだ。

ミラはジュードの傍にいたいと思っていた。
だが何故だろう。たぶん過ごせるのは、この時しかないのかもしれないとしか思えないのだ。


「…すまない、ジュード。私はもう平気だ。ジュード、君と一緒なら」


ミラはそっと、ジュードの指先をつかんだ。顔を上げて、優しく微笑んで見せた。
ジュードはミラを抱きしめた。柔らかな長い髪に優しくキスをする。


「好きだよ、ミラ」


それは変わらない自分の素直な気持ちだった。



「ジュード、私は、私も…君を…」


ミラの言葉を待たずに、ジュードはミラの唇を塞ぐ。
唇を離すと、ジュードもまた、優しく微笑んで見せた。


「何故言わせてくれないんだ」

「聞いたら、僕、嬉しくなっちゃって、もっと、どうにかなっちゃいそうだから」



本当は聞きたい。だがこの状態で二人きりで、もしもミラから言葉を聞いてしまっては、本能の赴くままに行動せざるを得なくなる。ジュードの脳内がその光景を何度も何度も掠めている。
自制がまだコントロールできる、キスを繰り返した。
それでも、ミラを飲み込んでしまいそうになってしまっていた。
ミラが受け入れてくれてよかったとジュードは思った。


「ミラ、謝らなくていいんだよ。僕、悪いことされたなんて思ってないからさ、だからあんまり考えないで」

「ジュード…ありがとう…」


精一杯感謝の気持ちをこめて、ミラはジュードの頬にキスをする。
やっと彼女は、微笑をジュードに見せる事ができた。

私が、私でいられる。
彼女にとってジュードが、その場所なのだ。













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