深く澄んだ誘いの夜
ミラの背中に、ジュードがしがみついている。
それはまるで、ミラが抱き枕かのように、ぎゅっと、しがみつくというよりかは、抱きしめていて、離れようとしなかった。
そんなジュードの手を、ミラはトントンと指先で叩き、撫でた。
ジュードがこのようなことになってしまったのは、アルヴィンがジュードと酒を飲みあかしたからであった。
いつもなら、未成年だからダメだと断り続けてきたジュードが、お酒を口にしてしまったらしい。
ミラはその場に居合わせていなかった為、詳しい情報がわからないが、ジュードが自分からお酒を呑むとは考えにくい。
当に一緒にいたアルヴィンも、珍しく、相当酔っ払っていたらしい。介抱しにいった、レイアとローエンがそう言っていた。
アルヴィンは後でわたしがシバいておくからと、レイアは苦笑いしながら答える。
「ミラさん、ジュードさんの事、すみませんがお願いします。引っ張っても、あなたから離れようとしませんから」
「ああ、私は大丈夫だ、ジュードに付き添うよ」
「うん、ごめんね、ミラ」
二人はアルヴィンを抱えて、部屋へと連れていった。
確かにジュードは、ローエンとレイアがいくら引き離そうとしても、ビクともせず、ミラから離れない。これではもう仕方がないと半ば諦めかける。
ミラは、きょとんとしていた。何故こんなにジュードは、自分から離れないようにしようとしているんだろう。お酒が入っているのなら、力が抜けてしまうものではないのか。
「ジュード」
ミラは数分置きにジュードの名を呼んだ。
しかしジュードの反応はなかった。
「本当に君は、可愛い事をしてくれるな」
後ろを振り向いても、ジュードの顔を見ることは敵わなかった。
それでもミラはジュードにこうされることは嫌いではなかったから、動かずにそのままでいた。
そんな最中、実はジュードの意識は既に正常だった。
意識がはっきりとした時、ミラを抱きしめていたことには驚いたのだが、ミラから離れたくなくて、彼は和えて、今の状態を維持し続ける。
彼がお酒を口にしたのは、アルヴィンに促されたせいでもあった。正直半分騙された。烏龍茶を飲んでいたはずだったのに、いつもの烏龍茶とは、明らかに違う味がした。そこで気づくべきだった。焼酎というお酒が含まれていたことに。
気付いた時のアルヴィンのどや顔を、ジュードは忘れない。勿論、お酒に免疫がまったくついていないジュードが、お酒に呑まれてしまうのは早かった。最悪だ。いい大人がこういうことをするもんじゃないと、叱り付けた。
「いいだろジュード君。最後の戦い前の晩餐だ」
何が晩餐だとジュードは思った。そこからの事はうろ覚えだ。
ミラの姿を見たジュードは、その時、自身の本心が体全体に溢れてしまったんだと感じていた。
ミラがいなくなる事を、ジュードだけは知っている。だから、せめて自分だけは、しゃんとして、ミラを見送らなくてはいけない。決めていたはずだった。
でも本心は、自分のすべてであった彼女に会えなくなることは、想像以上に辛いものであることを知っている。ミラの肉体が死んだ時に痛感していた。
一歩進んだと思っているが、本当にほんの一歩でしかない。ミラから離れてまた、一歩踏み出せるとも思っているけれど。
「ミラ、ミラ、ミラ………」
「どうした、私はここにいるよ、ジュード」
まだ、彼女はここにいてくれている。
きっと彼女は、まだ、自分が酔っ払っていると思っているはずだから。
この腕の中から、ミラを離したくない。ジュードはもう少しだけ、腕の力を強めた。
だってミラは確かに、ここにいる。
ここにいて欲しい。
行かないで、ミラ。
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タイトル・涙星マーメイドオリオン
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