泣かないで、僕が恋がれた英雄。
好きだった、
好きだった、
好きだよ。
あの時、涙というものを初めて流した。
どんなケガをしても、歩けなくなっても、医療ジンテクスの痛みに耐え切れなくても、涙を流したことなど、なかったのに。
体の痛みなら、いくらでも耐え切れた。実際、このような事で泣いていては、精霊の主として、また一人の人間として、大人として、示しがつかないと思っていた。
そこまで決意を固めていたはずなのに、涙というものは、こんなに簡単に流れ落ちてくるものなのか。彼に指摘された時、動揺を隠せなかった。
瞳から何かが流れてきていた。止まれ止まれと念じても、瞬きをしても、それは止まらなかった。
ああ、これが、涙というものなのか。
「ミラ、泣かないで」
彼が私の手を握り、呟いた。泣いていない、私はそう答えた。
わかっていたはずなのに。この戦いの結末を。私達の未来を。成すべきことを。
それでも私は、胸の奥が、ずっと、ずっと、痛かったのだ。応急処置をしてもらいたいくらいに。
ジュード、私は嫌だ。
君に会えなくなるのが嫌だ。君と話せなくなるのが嫌だ。君に触れられなくなるのが嫌だ。
そう思っていた矢先の、この涙、だった。
だが、そんな自分の気持ちにも封をしなければいけなかった。マクスウェルとして生きると決めたのだから。決意とは裏腹にできた、人間としての、女性としての、素直なこの気持ち。
「さよならとは、言わないからな」
好きだ、好きだよ。君に言いたかった。
君は私が恋い焦がれた、英雄だ。
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タイトル・涙星マーメイドライオン
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