Stratagem
いつかは、こうなると、わかっていた。
自分という存在を、彼が越えた時、目まぐるしい成長を遂げることを、心の奥の片隅でわかっていたのに、気づかないフリをしていた。
彼の成長は、とても喜ばしいこと。それなのに、それを喜べない。
ジュードの時間が、このまま止まってしまえばいいのに。
ジュードが自分を頼りにしてくれていた、それがいつしか、ジュードを失いたくない不安に駆られた、自分の方が彼を頼る日が多くなっていく。
仮にジュードが、自分から離れていったとしても、別にジュードは悪くない。
それでもきっと自分は、ジュードを恨んでしまうのだろう。
「ジュード」
深夜にミラが、ジュードの部屋をこっそりと訪れて、今から眠ろう、布団に横になろうとしていたジュードへと馬乗りになり、彼の顎を親指と人差し指で掴んだ。
「……夜ばい?」
はたから見たら、明らかに自分は、目の前にいる彼女に今から襲われようとしている。
ジュードの両手はマットレスの上に置いたままで、動かそうとはしなかった。
突拍子のないことを彼女がするのは、わかっている。
「ジュード、君は今でも、私の事を欲しているか」
自分にこういうことをされて、彼はドキドキしているのだろうか。表情が変わらない為に理解することはできない。
彼が少しでもまだ、自分にドキっとくれているのなら、それで少しは自我を保つ事ができた。
彼に問い掛けたのにも関わらず、ミラは何度も唇を重ね合った、彼の唇へ覆い被さった。
ミラの手はジュードの手を探し、見つけては捕まえて、手を絡ませた。
「ん……っ、ミ、ラ……」
ジュードは目を細めて、ミラを見た。ミラの瞼は閉じられたままだった。
ジュードは首の角度が苦しく、何度か吐息を漏らす。吐息を漏らした理由はそれだけではない。
ミラの舌の軽やかな動きに、翻弄された。
「……っ……は………」
「どうなんだ、ジュード」
ミラが目を開けて、ジュードを見つめてくる。
次にミラの手は、ジュードの首後ろへと移動し、またいつでも唇を奪えるようにした。
「ミラは僕が欲しいんだ?」
「聞いているのは、私だぞ」
どうして彼は教えてくれないのか。それがとてももどかしくてたまらなかった。
受け身と思っていた彼は、実はサディストだったのか。これがジュードの本質的な部分なんだとしたら、もう自分は、彼に成す術が見つからない。
「欲しいって言ったら、くれるの?」
「ジュー……」
「壊したくなかったから、黙ってたのに。僕の言葉が足りなかったんなら、謝るよ、ミラ」
ジュードはミラの長い髪を掴み、ぐいっと引っ張っては、唇を重ね合った。
今度はジュードも絡んでくれた。ああ、これだ。欲しかったジュードの動きに、ミラは満たされていく。
「ミラは僕がいないと、ダメなんだって、わかってるよ」
悔しいがその通りだ。
「君だって、私がいないとダメだろう」
「なんだ、ちゃんと、わかってくれてるのに、あんなこと聞いてきたんだ?」
「それは、仕方ないだろう」
彼には知らない間に作られてしまっていた。
ジュードではないと、ダメなんだというような人間に。
優等生は侮れない。
不安な気持ちも、すべて、彼の策略に嵌まってしまったとしか思えなかった。
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