スパイファミリー | ナノ


▽ 大丈夫だから逃げないで




ボクはあなたに弱いことを知っている
隙を見せることが少ないあなたが唯一隙を見せる時も知っている
だからそれを利用させてもらっている
本当は嘘つきで臆病なボクは、それを利用するしかなかった



自分の妻であるヨル・フォージャー。
見た目や話し方はとてもおっとりしているのに、隙のない身のこなし、護身術を習っていたらしく、それを使用しているシーンも何度も目にしてきた。弟と2人で生きてきたというのもあり、自分は彼女は本当は心も身体能力も高くてとても強いのではないかと思っていた。それなのにたまに抜けている所や柔らかな微笑み。自分がいなければこの人はダメなんじゃないかって、そう思わせてくる。狙っているわけではないこともわかっているつもりだが、心配になって気になって、ついつい目で追いかけてしまうようになっていた。そして手を差し伸べたくなり、笑顔を見せてくれれば胸が高鳴り、つい伸ばしてしまいそうな手をぎゅっと握りしめる。
おかしいと思っていた。ハツカネズミのように何度も何度も心の中で自問自答を繰り返した。その答えが見つからないまま、自分は彼女が無防備になり、隙を作る時を発見する。そうそれは、お酒を口にした時だった。
軽めならば問題ないのだが、お酒を呑むスピードが速まったりするとあっという間に酔っぱらってしまい、無防備な状態になり、そして次の日になるとほぼ記憶がなくなってしまう。

(本当はいけないことだとはわかっているけどな、黄昏)

お互いに次の日が休みの日は、ワインを空けるようになった。提案者はロイドだった。ずっとお酒を呑まないようにして下さいってのもなんだか可哀そうなので、と付け加えるとヨルはぱあっと顔を明るくして、

「ありがとうございます、ロイドさん!とっても嬉しいです!」

そう返してくれるから、少しだけ良心が痛むけども、すぐに心の整理をして切り捨てた。
ああこの人はボクの事を信頼してくれているのがわかる。そう思える笑顔だった。
特に薬を盛ったりだとか、そういうことはしない。ただ普通にお酒のおつまみを作って、ワインを空けて乾杯して、他愛のない会話をするだけ。ヨルの話ももちろん真剣に聞きながら、ワインを口に含んでいく。自分は酔わないように訓練されているため、いくら呑んでも問題はないのだが、一方のヨルの方は開始から30分を過ぎてくると目の方がとろんとしてきて、だんだんと呂律が回らなくなってきている。ただいつも以上にとてもリラックスしているのも伝わってきて、この時だけにしかい見れないその姿も、もっと見てみたいとも思っていた。

「ヨルさん、今日はいつもよりペース早いですよ」
「ろいろさんのぺーすがはやいからです〜!!おなじくらいのまないとろいろさんがつまらなくなっちゃう
でしょう〜?」
「・・・本当にあなたって人は」
「そのほうがろいどさんもうれしいですよね?ろいろさんがうれしいなら、わたしもうれしいんです」

ワイングラスをくるくると揺らし、ヨルはそれを口に含む。確かにいつもより呑むペースが速かったかもしれないが、今日はまだ3杯目だった。ただ今日のワインはいつもよりも度数が高いワインだったために、素材の味がとても美味しく、ついつい呑むペースが速くなってしまった。
そして酔うとヨルは自分調べではあるが、心にしまっている感情をうっかりもあるだろうがよく吐き出してくれている気がした。そうした所を数回目にしてきている。それを聞けるのも何気に楽しみだったりしているのだ。

「ヨルさん」

そうしてしばらく時間が過ぎると、ヨルの言葉がなくなり、聞こえてくるのは一定の呼吸音。目を閉じてテーブルにもたれかかるように眠りにつくヨルの姿。数回声をかけるが反応はない。完全に眠りについている状態だと判断する。そうロイドは次はこうなる時間を待っていた。
ロイドはヨルに近づいてまず頭をそっと撫でた。もちろんヨルから反応が返ってくることはない。それを確認してからはヨルの身体を起こして、そっと抱きかかえる。すーすーと聞こえてくる寝息と、頭を撫でてる時には確認できなかった彼女の寝顔をじっと見つめると、ロイドは息を呑んで、ぎゅうっとヨルを抱きしめる。アルコールが含まれているからヨルの体温は温かくて、自分の身体もどんどんと熱くなってきているのもわかった。ちょうど抱きしめている時にヨルの吐息が耳にかかるから、くらくらとして、目をぎゅっと閉じる。ああこんな時じゃないと彼女に触れることが許されないのかと思うと、それもそれでもどかしかった。素面であるとヨルは、男慣れしてないせいもあるとは思うが、手や足を出して拒絶してくることを覚えてしまった為に、そういう状態ではそういう彼女が恥ずかしがってしまうことを直接言うのはなるべく控えめにしている。たまにアルコールが含まれている状態でも手を出してくることがあるので、実際にこうして彼女にしっかり触れられるのは、アルコールが含まれている状態で眠っている時しかなかった。

自分はソファーを背もたれにして、ヨルを正面に向けて、お互いの首元に顔を埋める。

こうしているととても安心できた。ヨルを抱きしめているだけでこんなにも満たされる。この習慣を少し前から実行するようになった。最初は上手くいくかどうか不安視はしていたものの、ヨルが思ったよりも素直だったから、自分の頭の中で描いていてように事が進んで上手くいってしまい、拍子抜けしてしまったのを覚えている。あなたが起きている時ではできない、そして言えない。

そして最近は、だんだんと歯止めが利かなくなってきていた。



一通りにヨルの温もりを感じた後は眠っているヨルを部屋まで運んでいくのも習慣になっていたのだが、今日はいつもとは違っていた。ベッドへと寝かせようとした時にヨルが自分のシャツを無意識なのかわからないが握って離さなかった。

「ちょっ・・・」

そのままぐいっとヨルに引っ張られて、そうなることを想定していなかったロイドは、構えていなかった為にヨルと共にベッドに沈み込んだ。

「ロイドさん・・・」

そうヨルが呟いたから、起こしてしまったかと思い体を起こすと、そういうわけではなくて変わらずに眠っていて。それもそれでなんだか悔しくなった。寝言で自分の名前を呼ばれるなんて。思わず真っ赤になって口を覆い隠す。なんでこんなことで、とも思う。この人はなんでこんなにずるいんだろうか。

(ヨルさん知っていますか?あなたが無防備に眠ってしまった時に、オレがあなたに何をしているのか。
オレもあなたも、素面の時には触れ合うことはなかなかない。少し触れるだけでお互いすぐにパッと離れてしまうから。今までそんな経験をしたことがない。だけどオレはずっと、ずっと、あなたに触れたいと思っていたんです)

自分の手のひらにすっぽりと収まってしまうヨルの顔。なんて小さいんだろう。どうしてこんなにも愛しく思ってしまうのか。もしこうしてしまったら彼女が目を開けてしまうかもしれない。リスクはかなり高い。任務中であったらとても危険すぎる行為である。ただもう自分の理性が告げている。
恐る恐る近づきながら、ロイドはヨルの唇に唇を落とした。最初は少し触れるだけだった。触れて離して。

「ん・・・・・・」

それでもヨルは起きなかった。起きないことがわかってしまったから、彼女にキスをすることもできるようになったと自分の中にインプットする。けれどもただ触れるだけでは物足りなくなっている。キスをして、その時に唇を掻き回してしまいたくなる。そうしてしまったらヨルは確実に目を覚ましてしまうだろう。
自分と共に目を合わせて、同意してくれて、自分の名前を呼んでほしい。ヨルにも自分と同じくらい自分の事を求めてほしい。まさか陰でこっそりと行っていた行為の裏で、こんな風に気持ちが変化していくなんて思ってもみなかった。

(あなたはオレの事をどう思っていますか?ヨルさん。オレはーーーー)

その答えをロイドはヨルに口づけをして、わからせるように彼女へとみ込ませた。ちょうどヨルの口元が開いていたためにたまたま伸ばしていた舌がつい入り込んでしまい、しまったと思いつつも、止めることができなくなってゆっくりと舌をねじ込んでいく。彼女の舌を発見した。ぺろっと数回撫でると一瞬ヨルの身体が反応した。起きないで、でも起きてほしい。そんな狭間の中で葛藤しながら奥深く潜り込んでいく。


「ヨルさん、ヨルさん・・・」
「っつ・・・うう・・・・んんん」

段々と反応するようになってきてくれたので、もう少し続けてしまえばきっと目を覚ましてくれるだろうと思った。けれどバレてしまったら、彼女は自分を警戒するようになってしまうだろう。

『ロイドさんと結婚できてよかったです』

あんな風に笑顔を向けてくれなくなってしまうかもしれない。避けられるのは正直辛い。仮にも自分の職業はスパイである。スパイはバレないように任務をこなしていくのが使命。自分の感情を表に出したりするのも以ての外だ。色恋沙汰と任務は違うかもしれないが、1番簡単なのは、ヨルが自分と同じ気持ちを持ってくれることだ。それまではなんとか我慢して、我慢して、そう持っていけるようにするのが最適解かもしれない。離したくない、続けていたい。この葛藤には正直かなり苦しんだが、何とかやめる決断に至れた。
名残惜しく唇を離し、ヨルの方を少し見つめてから少しだけヨルに覆い被さった。

(らしくない、わかっている、でも)

本当に歯止めが利かなくなってしまうまでに、彼女が少しでも、自分の事を気にしてくれるようにする。
今自分ができるのはそれくらいだろう。



(ロイド・・・さん・・・?なんで、どうして?私・・・?)

先程のキスで若干現実と夢を彷徨っていたいたヨルだったが、ロイドが覆い被さっていた重みでぼんやりとだが意識を覚醒された。ああまた眠ってしまって、ロイドがここまで運んできてくれたんだろうないうのはわかって、でもどうしてこういう状態になっているのかはわからなくて、とりあえず向こうは眠っているだろうと思っているだろうから、このまま眠っていることにした方がいいと思って目を閉じる。

「オレを、好きになってください」

その後に少しだけ体に力が込められたような気がした。ロイドがすっと身体から離れて、そっとヨルの髪を撫でた後、布団をそっとかけて、彼はヨルの部屋を後にした。
もちろんそのままの状態でいられるわけもなく、ヨルはがばっと起き上がって両手で顔を抑え込んだ。

「え・・・ええええええ、いいいいいまま、何が・・・」

これは現実なのか、夢の狭間なのか。状況を整理するのにもしようがなくなった。




ドアを閉めた後、ロイドは自室に戻り椅子に座る。そうして頭を抱えた。

「起きてたな、ヨルさん」

少しの呼吸の違いも見逃せない。彼女は目を覚ましていた。明らかに自分が覆い被さっていた時は呼吸が違っていた。自分は何も知らないフリをしばらくするつもりだが、彼女が明日からどのような反応をするようになってくれるのか。

少しずつこのミッションは自分の思うように進んでいっているのかもしれない。










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