スパイファミリー | ナノ

▽ 愛しくて仕方ないってこと




夜も更けて23時過ぎ。この部屋の中には自分の愛しい人が待っている。
初めてこの部屋に彼女を呼び寄せた時は彼女が酷く緊張していたのを覚えている。恐る恐る足を運んで、行き場のない足と、どうすればいいのかわからない挙動不審のご様子。この箱庭の中に誘いこめたなら、もう主導権は自分のモノだった。怖くないですよ、大丈夫ですよ、と優しく誘導しながらも、その腕を掴んでしまってはそれが最後。数時間後にヨルがとてもれていた事は忘れていない。

いつからか寝室を別にすることも少なくなった。主にヨルが自分の部屋に来るようになった。
今日のように、先に部屋の中にいることもある。自分と2人で過ごす事に慣れて、初々しさがなくなってしまったのかと言われればそういうわけでもなくて。

ガチャっと自室のドアを開けた。愛しい人は大きなベッドの真ん中で、赤子のように包まり、黒く艶めいている長い髪がベッドの上に広がっている。目を閉じていて軽く寝息を立てているようにも見えるが、ロイドの目は誤魔化せなかった。

(さて、どうしてやろうか)

悪戯心が膨れ上がっていく。察しの通り、ヨルが寝ているわけではない。ずっとヨルを見てきて、隣で過ごしてきたんだから、これくらいはすぐにわかる。どうしてくるのか、どうされるのか、彼女もある意味試しているのではともとれる。自分がここにいるというのも、彼女はわかっているはずなので、そういうことをするとどうなるのかをわからせる必要があると思った。

ベッドへを足を乗り入れて、重みでマットレスが沈んだ。それでも頑なに目を開けようとしないヨル。
もうここに自分が来てしまっては、もうあなたは袋の中の鼠だ。ヨルの身体を起こして、力強く抱きしめようと思ったその時に、先に先手を取ったのはヨルの方だった。

「・・・っ・・・・・!」

ロイドの頬を両手で掴んで、ちゅっと啄むようなキスをするヨル。一瞬離したかと思えば、再び覆い被さってくる唇。自ら咥内に舌を侵入させる事にはまだ慣れていないらしく、それ以上はしてこない。この離し離されてのフレンチのキスでも、ヨルからしてくれるようになった、というだけでもロイドの心を満たすのには充分で。
ただ、いつまで待ってもロイドが舌を絡ませてくれるということがなくて、流石のヨルもじれったさを感じたのか、長く続けていたキスを止めてしまった。

「・・・どうしました?」
「ロイドさん、い、いじわるです・・・!」
「そんなことない、ずっとこうしてヨルさんとキスしていたいですよ」
「で、でも・・・」
「でも?」

ああダメだ。可愛いなぁ。またそうして唇を尖らせながら剥れて。その顔も本当に可愛いから、見たくなってしまってついつい意地悪したくなってしまう。ヨルの額にこつんと額を合わせて腰に手を回す。
言いたいけど恥ずかしくて言えないのもわかってる。今のキスも相当勇気を振り絞ってくれたんだろう。

「その、もっと、こう・・・」
「こうですか?」

互いの鼻と鼻を擦り合わせて、すぐにでも重なり合いそうだった唇はヨルの言葉を聞く前に塞いでしまった。
最初は目を見開いていたヨルも応えるように目を閉じた。唇から聞こえてくる水音が五感全部を刺激する。ヨルの咥内へと侵入していくのも早かった。舌を手繰り寄せて、ヨルが舌を絡ませてきた時、受け入れてくれているんだと思うと嬉しくて、ついついきつく舌を絡ませてしまって、一定にならないヨルの呼吸と、今にも力が抜けてしまいそうな彼女の背中へと手を回して、キスを続けられるように支えた。

しばらくそうしていて、名残惜しく唇を離して、再び鼻を擦り合わせて、こつんと額をぶつけた。

「・・・これで合ってましたか?」

そうだってわかっていても、ついつい聞いてしまう自分を恨めしく感じても、ヨルの反応を見たくて。

「・・・合って、ます」

まるでお酒を呑んだかのように呂律が回らなくなりそうでそれだけでびっくりした。
いつもよりもとても濃厚で、ねっとりとしていて、一生こうしているんじゃないかと錯覚するほどに。
そうした後に抱きしめられて、ヨルは手を背中に回してシャツをぎゅっと握りしめた。分厚い胸板が自分の目の前にあって、それはもう自分の身体の一部のようにも思えた。包み込まれたり、下敷きになったり、背中から熱を感じたり。この人の温もりを感じないと自分が満たされないようになってきていて、それもちょっとだけ怖かったけど。気づいたらまた、この部屋に来てしまっているのだ。こうしてほしくて。

「ヨルさんからくると思ってなかった」
「・・・今日は、私が先に仕掛けようと思ったんです」
「どうして」
「いつも、ロイドさんから触れて下さるから、私から触れたら、ロイドさんをドキドキさせることができるのかなって、思って」
「・・・そうでしたか」

その時籠っていた力が緩んで、トンっとヨルをベッドに押し倒すのは簡単だった。そのままヨルに覆い被さて、ヨルの左手を自分の右手を絡ませて、ヨルの身動きを取れないようにする。こうして支配するのは本当に簡単だ。ヨルの恥ずかしさのメーターが極限を振り切らなければ、自分の方が確実に優位に立てる。

「私、本当に、ロイドさんとこうするのが好きなんです」

自分の身体の下にいる彼女から聞こえてくる言葉が自分を昂らせる。

「オレだって、そうです」
「ふふふ、知ってます」
「それはそれで、なんだか悔しいんですが」

何故かとても悔しくなって、ヨルの頬に唇を触れて、額、鼻、首筋と唇を強く押し付けて、時折唇から洩れるヨルの吐息が聞こえてくると、少しだけ勝ち誇ったような気分になれた。重なった手は離れることはなく今もずっとお互いに握り締めている。離したくないと言っている。接着剤でくっついているようだ。

「・・・口には、してくれないんですか」
「ヨルさんが意地悪を言うから」
「言ってないですよ!だって、知ってますから!ロイドさんが私とこうするのが、好ーーーーー」

全てを言い終わる前に、最後に残していた唇をまた塞ぐ。さっきあんなに長い時間していたのに、待ってましたと言わんばかりに、お互いの舌がまた深く絡み合う。今度はヨルがベッドに横になっているから、身体を支える必要もない。自分の重みで彼女を潰してしまうのかもしれないけど、ヨルが拒否したことはない。舌が渇いてしまうまでに口づけは繰り返すことができる。やめるタイミングが見つからなかった。離すのは、言葉を交わす時だけ。


「ヨルさんは、オレとこういうキスをするのも好きですよね、だってさっき・・・」
「ちょわーーーーす!!!」
「ほら、そういう時は大体図星です」
「う、ううううううう・・・・・・」
「別に悪いなんて言ってないですよ、だからこうしているんですから」


こうして気持ちが通じて触れ合うことができる幸せを噛みしめていたくて、ヨルを自身の腕に巻き込んだ。このように少しずつ触れ合いを重ねてから、夜を深めていく。もうそれだけで1時間以上も費やしているし、焦る必要などもなかった。少しだけ下半身が苦しい状態にはなってしまうが。
本当に、本当に特別な存在なのだ。どんな触れ合いでも大事にしたかったし、何よりも満たされる。
きっと自分たちは同じことを思っていると思える自覚があった。

次に目を合わせた時が、それが合図で。



ロイドの太くてごつごつとした指がヨルの鎖骨をなぞり、そこから手が入り込まれた時、次にお互いが身体を離すのは、カーテンから朝日が差し込んでくる時である。










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