Tales of belceria | ナノ

  OVERFLOW(ロクベル)R-18



※R-18






「泊まる部屋ならあるよ、と言いたいところなんだが、隣の部屋を今改装していてね。空き部屋は1つしかないんだよ」

まだロクロウと2人で旅をしていた最初の頃。業魔の住む洞窟の近くにある村ビアズレイに降り立ったその日の夜。雪原にて遭遇した魔物を倒しながらここまで辿り着くまでに予想以上に体力を消耗した。無理もなかった。監獄島からの脱走。船が壊れてヘラヴィーザへ移動などと、まともにちゃんと休めない日々が続いていた。ロクロウはベルベットに恩を返すという理由でベルベットと行動を共にしているが、彼女の行動力の高さには本当に驚かされていた。次から次へと先に進む案を見つけては迷わずに前に進んでいく。その後ろを歩く自分。
とても興味を持った。自分がついて行かないと行けばきっとすぐに切り捨てられるということは目に見えている。そうする訳にはいかなかった。強い女。真っ直ぐな女。惹かれないわけがない。
ビアズレイに到着した時は既に夕方を迎えていて、夜を迎えようとも休まずに先に進もうとしたベルベットをロクロウは制止をかけた。先を急ぎたい気持ちもわかるが、休んで体力を整える事も戦いには大事なことだぞ、とムッとした表情を見せたベルベットに向けて言い放つ。

「わかったわよ」

ベルベットが渋々承諾してくれて宿屋に向かったのはいいのだが、このような事態に陥ってしまったというわけだ。

「一部屋ってことはベッドは1つしかないってことよね」
「そういうことになりますね」
「俺は別に構わないぞ、床で寝ればいいし。ベルベットさえ気にしなければの話だけど」
「はぁ、、、それなら別に休まないで先に進んでもいいんじゃ」
「その部屋で大丈夫だ。よろしく頼む」
「ちょっ、ロクロウ!!」

ベルベットの許可を得ずにロクロウは強引に話を進めて、宿の記帳にサインを行った。ベルベットは大きな溜め息を吐き、頭を抱えているのがロクロウの視線に入ってきたが、ロクロウはあまり気にしてはいなかった。恩を返すこと、それはベルベットを守ることも兼ねている。ヘラヴィーザでも彼女に言ったことだ。男は強引な方がいいのだと。なのでこの場のロクロウは多少強引に話を進めて休息をとることに成功させた。
部屋へと案内されて宿主は部屋を後にする。部屋は確かに1人部屋でベッドとテーブルと必要最小限のものが置かれている。床もロクロウが1人横になれるスペースがあったのでロクロウは実際に横になって確かめた。

「あんた、本当に強引になる時はなるのね」
「まあな。でも休みたかったというよりかは休ませてあげたかったと言うべきかな」

ロクロウはムクッと起き上がり、壁に寄りかかってベルベットの方を見た。腕を組んで涼しげな瞳を見せている彼女の表情が一瞬だけ緩んだのをロクロウは見逃さなかった。

「さて汗を綺麗に流してきますか」
「あたしは、、、まだいい。ロクロウ行ってきなさいよ」
「そうか。それじゃお先に行ってくるぜ」

背中に背負っている彼の大刀征嵐をテーブルの上に置き、ロクロウは部屋のドアノブに手をかける。その時少しだけ立ち止まったままでロクロウは固まったまま動かなかった。

「ロクロウ?」

流石のベルベットも驚いて声を掛けた。

「ベルベット。俺を置いて勝手に先に行ったりするなよ」

振り返り真剣な表情でロクロウはベルベットに言う。視線が合うとベルベットは少しだけ罰が悪そうな顔を見せたが「わかってるわよ」と返してロクロウから視線を反らした。不安になった。この女ならやりかねないとそう思ったから。これ以上しつこく言う権限は自分にはないし、彼女もわかっていると返してくれたから、ロクロウはドアノブを回して部屋を後にした。
1人部屋に残ったベルベットは、靴を脱いでベッドに横になった。確かにロクロウを置いて先に行ってしまおうかという考えがあったのも嘘ではない。先に早く進みたい。アルトリウスがいる場所に少しでも早く。けれど彼がそんなことを言ってくるとは思っていなかった。ついてくるのは勝手にしなさいよと思っていたのだが、そこまで恩を返したいということなのか。
変な奴だなとベルベットは思う。思えばベッドに横になったのはいつぶりだろうか。こんな感覚ももう忘れていた。ふかふかで柔らかい肌触り。アバルにいたあの幸せだったあの日々を思い出す。

「ライフィ、セット・・・」

弟の顔を思い浮かべては名前を口に出す。過去を振り返りながら思い出を噛み締めながら、ベルベットは瞼をどんどん閉じていく。




ロクロウが戻ったのは数十分後だった。やはり風呂は気持ちがいい。さっぱりするし清々しい気持ちになる。ベルベットがちゃんと部屋にいるかどうかが少しだけ気がかりで多少急いでしまったのが正直な所。信じていないというわけではないのだが、1人にしておくとどこか心配なのが彼女だから。傍にいてあげないと危なっかしい。見ていてあげなければと守ってあげなければと彼女はそう思わせる。部屋の前にたった時、深く深呼吸をした。一応礼儀の為にノックをしようと拳を握り締めたその時だった。

「うるさい、うるさいっっーーーーーーー!!!

ドアの向こうからベルベットの悲鳴が聞こえてきた。その声は怒鳴っているようにも捉えられたがとても苦しそうで叫ぶまるで獣のような声。それを耳にしたロクロウはいてもたってもいられず、力一杯ドアをこじ開けた。

「ベルベット!!」

ロクロウの視界に飛び込んできたのはベッドの上で小さく縮こまっているベルベットの姿。小刻みに震えているのだがロクロウを見つめる目線はとても鋭く、普通の人なら背筋が凍ってしまう程の震えを感じる所なのだが、ロクロウは何も言わずにゆっくりベルベットの元に歩み寄ってベッドにそっと腰掛けた。

「大丈夫か」
「近寄らないで!」

右手を思い切り振り上げて傍にいるロクロウを吹っ飛ばそうとしたベルベットだったが、反射神経のいいロクロウはいち早く感知し、ベルベットの右手首を掴んでそれを阻止する。だが様子を見る限りだと彼女の様子はまだ収まりそうにない。左手もいつ解放されて喰われてしまう状態かもしれないが、そんなことはどうでもよかった。例えもし彼女に喰われることになってしまってもそれはそれで本望であると。
ロクロウはベルベットの身体を自分の元へと引きずり寄せて、自分の腕の中へ閉じこめた、そうされた直後のベルベットは少しばかり暴れたが、人間では力が及ばなかったかもしれないが、業魔であるロクロウはベルベットを抑え込む力を持っている。やがてベルベットは正気を取り戻したのか震えも止まり、体の力が抜けていっているのをロクロウは感じとり、少しだけ腕の力を弱めた。

「悪かったわ、もう平気だから。離して」
「そうか」

いつもの、彼女だ。
ロクロウはベルベットを体から離して、そのまま彼女の方を見つめ続けた。何があったのか詳しく聞きたい所だが、様子を見る限りだと彼女が詳しく話してくれるとは思えない。だからロクロウはベルベットに次の言葉を発する。

「風呂でも入ってこいよ。さっぱりするぞ」

と。ベルベットは目を大きく見開いてロクロウを見た。まさかこんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。ベルベットの視界にいるロクロウはとても優しい表情をしていたから、それに困惑していたようにも見えた。

「・・・そうね」

ベルベットは小さく返答すると、逃げるように部屋から出て行った。彼女の武装品は部屋に置かれていた為、置いていかれることはないだろう。ロクロウは腕を組んで先程のベルベットの姿を思い返す。靴を脱いでいたし、ベッドの上にいたということは自分が風呂に行っている間に寝てしまったのだろうと推測する。悪い夢でも見てしまった所か。彼女をそこまで震えさせる、とてもとても怖くて悪い夢。震える体もあの叫び声ももう、ロクロウの脳裏にはしっかりと記憶されて消えることはないだろう。
ベルベットが部屋に戻ったのはそれから30分後だった。
部屋の明かりはほんのりと灯されて明日に向けて休もうという所なのだが、きっと彼女は眠りにつけることはないのかもしれない。なんとなくだがそう思ったのだ。

「ロクロウ、ベッドはあんたが使いなさいよ。あたし多分眠れそうにないし」
「いやいやそれはできない、女を差し置いてそんなこと」
「あんたみたいな図体な男が床で寝たら体の節々が痛くなる・・・」
「じゃあ半分でいいぞ」
「半分って・・・それ無理でしょ、これシングルだし、あたしとあんたは男と女で」
「安心しろ、何もしないから」
「あんたねえ・・・そういう問題じゃ」
「さっきの状態見ちまったら、逆に傍にいない方が心配だ」

そう言われてしまってはベルベットも返す言葉が見つからなかった。最後に言われたその一言がとても響いて大丈夫と言っても信憑性がない。とても真面目にこちらを見てきたから、ああ彼の言うことに嘘はないんだなと思わざるを得なかった。まだ一緒に旅をして日にちは浅いけれども、彼を信用していた。同じ業魔だからってのもあるかもしれないが。

「・・・わかったわ。」

やれやれと肩を落とし、ベルベットは折れた。体の大きいロクロウが先に横たわって、空いたスペースにベルベットがすっぽりと埋まる。ロクロウは正面を向いて、ベルベットはロクロウに背を向けて。以外になんとか寝れるものなんだなとロクロウは思った。業魔になり感情が欠落しているがそうして彼女の傍にいたのが自分でよかったと心の底でそう思っている自分がいた。

「なあベルベット。お前、俺の前でだけは無理するなよ」
「・・・・・・・・」

彼女の返答を得ることはできなかったが、ロクロウは言いたい事を言えて満足した様子を見せていた。彼女の苦しみをすべてわかってあげられるとは自分には言えないし、言う資格も持ち合わせていない。それでもこうして傍にいてあげることはできる。せめて彼女に伝わっていてくれればなと、それは自惚れに近いものかもしれないけれど。
ロクロウが瞼を閉じようと思っていた矢先、ベルベットの右手とロクロウの左手が触れ合った。その事に気付いたが敢えて手を動かさずにそのままにしておく。ベルベットの方から手を離すと見ていたが、彼女も動かす様子が見受けられない。眠ってしまったのかと考えられたが、呼吸が一定ではなくどうやらまだ起きているようだった。
ベルベットも無意識に手を動かしてしまったとロクロウの手に触れ合った時に気付いていたのだが、手が動きたくないと言っているかのようで重くて動かない。まだ触れていたいのだと訴えている。
その時はお互いに言葉を発することもなく、手が触れ合った状態のままで朝を迎えることとなった。






次に2人が同じ部屋で眠る事になったのは、随分後になる。
あの3年前の緋の夜の真相を知り、最終決戦に挑む前のとある日の事だった。ロクロウとベルベットの関係はあの日の夜からあまり変わってはいないものの、随分と長い間旅をして、一緒に時を刻んでいくことで互いの事を知り、距離が縮まっているのは双方感じていた。仲間が増えたので2人で夜を明かすというのはほぼ皆無なのだが、あの日の夜の事は2人だけのもの。ベルベットの傍にいてずっと見てきたロクロウは、ふとあの事を思い出してはははっと口元が緩む時もあった。あの時は確かに自分達だけの空間だったから。手が触れ合っている時は、少なくとも自分には少しでも心を許してくれているんだとそう思えたから。

「ねえ、ちょっと1日レアボード借りてもいい?」

ロウライネにて休息をとることに決めていた一行は、各自自由行動にすると決めた際、ベルベットがみんなに申し入れをたてた。

「ちょっとこいつと行っておきたい所があるのよ」

ちょうどたまたまベルベットの横にいたロクロウに手を向けて。いきなりの出来事にロクロウは驚き目を丸くさせた。もちろんロクロウには断る理由はあるはずがなく承諾する。仲間の了承も得れた。どうやらレアボードは2人までは乗ることができるらしい。起動させてベルベットはレアボードに乗り込んだ。

「ほら、ロクロウ。飛ばされると行けないから、その・・・あたしをしっかり掴んでいなさいよ」
「お、応・・・わかった」

ロクロウはベルベットの背後に回りレアボードに足を乗せて、ベルベットの腰に腕を回してしっかりと腕を絡めた。まさかこんな状況でベルベットと密着する機会が訪れるとは思ってもおらず、ただただ困惑するばかり。ロクロウが乗り込んだことを確認したベルベットはレアボードを動かして目的地へと向かっていく。本当に逞しい女だ。何度も何度も思ってきたことだが、今までだってこんな女に出会ったことはないし、もう出会えることもないだろう。ずっと傍にいたいと今でもそう思っている。辛さを乗り越えてから更にロクロウの中のベルベットはとても輝かしい存在へとなっていた。
そんなことを考えながら辿り着いた場所はビアズレイだった。時刻も夕方に差し掛かり日が沈もうとしている。

「お、こりゃまた懐かしい場所に来たな」
「ちょっと宿屋に寄るわよ。あれも結構体力使うんだから」

ベルベットは宿屋に向けて足を運んでいく。ロクロウはそんな彼女を見つめながら後をついていく。どうやら宿主は以前にベルベット達が来たことを覚えていたようで、あの時はすみませんでしたと深々と頭を下げてきた。気にしなくていいとベルベットは返すとあの時の部屋は空いていますかと問いかけた。

「空いてますけど、今日は2人部屋も空いてますがそちらでよろしいのですか?」
「ええ、そこでいいわ。今日は旅の思い出を振り返りにきたんだから」

ベルベットと宿主のやり取りをロクロウはただ黙って聞いていた。
部屋に案内されると、そこはあの時と変わらないまま。懐かしくあの日に起こった出来事が鮮明に思い出させる。1つだけ違うのは前回はロクロウが強引に宿屋に泊まることを勧めたのだが、今回はベルベットの方が行っているということ。思い出を振り返るなんてそんな言葉はなんだからしくない。それでもこうして彼女と2人きりになったのは本当に久しぶりだった。
先にベッドに腰掛けたのはロクロウの方。上手い言葉が見つからず、なんだか酷く緊張している。それに続いてベルベットもロクロウの隣に腰掛けた。あの時とは境遇も状況も2人も大きく変化している、特にベルベットは雰囲気も大分変わった。彼女本来のものであろう穏やかな空気がロクロウを包み込む。自分でも相当意識しているのがわかった。

「あの時はありがとう、ロクロウ」

だから先にベルベットが口を開いてくれて助かった。

「いや別に。何も大した事はしてない」
「それでもあの時のあんたには、あたし相当救われていたのよ」
「なんか、お前らしくないな」
「何よ、人が真剣に話してるっていうのに」
「悪い悪い」

なんだか今日はあの時とは違った意味で、ベルベットが弱々しく見える。何故だろう。
こうまで素直に話してくれているのは嬉しいが、それは逆に不安にもなる。思い出を振り返るというのは建前で、それはまるで最後の挨拶に来ているというような、そんな気持ちにさせる。思わず腕が伸びて、ベルベットを抱きしめてしまっていた。温もりを感じることで、確かに今ちゃんとここにベルベットはいると深く安堵して。

「どうしたの」
「なんか、どっか行っちまいそうな感じがした」

正直、突き放されるかと思ったが、そうされずに助かった。この行為をベルベットは受け入れてくれているのだ。そして背中に手を回して抱きしめ返してくれた。今何が起こっているのか整理するまで少し時間がかかった。お前大丈夫か気は確かかと失礼ながら口に出てしまいそうになったが、さすがにその言葉は呑み込んだ。
しばらくそうして抱きしめあったあった後にようやく体を離す。ああ、この空気。ベルベットの大きい琥珀色の瞳がロクロウを捉えて離さない。吸い込まれる。つい顔を近づけてしまう。ゆっくりゆっくり少しずつ。だが先に仕掛けたのはベルベットの方だった。右手でロクロウの顎を掴み引き寄せて唇を塞いだ。数秒唇を重ね合わせて離し、吐息を漏らす。その声を聞いた瞬間にロクロウの抑え込んでいたものが弾けた、ベルベットの頭を掴み体を力強く引っ張りだし、口づけた。そうかずっとこうしたかったんだとこうなった時に初めて気付いた。
加減が効かなかった。舌を執拗に絡めてしまった。激しく、長く。
次に唇を離したのは数分後でベルベットが少しだけ苦しそうに息をしているのがわかったが、その表情は恍惚としている。なんだもう、可愛すぎる、忘れていた感情のひとつが蘇る。きっとそれは愛しいという名の感情だ。

「苦し・・・」
「本当にずるいぞ、お前は」
「あんたもよ、ずるいわ。あんたがそういう奴だったから、だからあたしは」

その先の言葉は聞きたいようで聞きたくなかった。余計な事を言わせないようにベルベットをベッドに押し倒してしまった。それでもベルベットが抵抗させる素振りを見せなくて、ロクロウはベルベットに覆い被さった。ベルベットの服は軽装だが少しだけ複雑なもので、上半身を裸にするのに少しだけ時間がかかってしまった。ロクロウも上を脱ぎ捨てて鍛えられた逞しい体をベルベットの白い肌に重なり合い溶けていく。太く大きな指がベルベットの肌をなぞり滑らせる。唇を噛み締めながらぴくぴくと反応しているのを見てしまうと、もっと見たくなってしまい指だけではなく舌も動かしてしまった。耳に聞こえるベルベットの声が更にロクロウを刺激する。災禍の顕主といえども今は女だ。大事なたった1人の女。
隅々まで触れたかったからロクロウの頭が下まで動くには時間を有した。ベルベットの呼吸が乱れて腰が浮いているのがわかる。下の衣服も脱がしようやくそこに辿り着いた時はベルベットの太腿が酷く痙攣していて、そこを抑えて拡げて甘く溢れている蜜はロクロウが舌で舐める。んんっとそれまでとは違う声をベルベットは発した。声の変化をロクロウは見逃さずに愛撫を繰り返してはそこに指を含み入れて、そして掻き回す。ダメだと無理だとベルベットが叫んで、今この女を支配しているのは俺だ、何故かそんな気持ちがどんどん強くなっていた。
ロクロウの物が当てられた時、ベルベットは久しぶりにロクロウと目を合わせた。ロクロウは一呼吸ついてから一気にベルベットの中に入り込んだ。

「っ・・・・・・は・・・ぁぁ」

ぐいぐい奥に攻め込んでからは、ベルベットの腕を引っ張って抱き起こしてそこで久しぶりに体を密着させてきつく強く抱きしめた。

「わりい・・・加減が」
「・・・だい・じょうぶ・・・よ。もっと強く・・・抱きしめ・・・て」
「このくらい、か」
「そう・・・そのまま・・・離さないで・・・・・・」

この腕の中はベルベットにとっては特別なものだった、夢を見て魘されていた自分を落ち着かせてくれた。唯一の安堵できる場所。あの時、あの瞬間は間違いなくほっとしたのだ。普通の女に戻れた。一緒に眠った時に無意識に手を伸ばしてしまったのも、この隣にいる存在に救いを求めてしまっていたのだ。どうしてなのかずっとずっと考えていた。一度きりの抱擁とあの夜がベルベットの支えの1つになっていた。時折目で追いかけてしまったことがあるなんても死んでも言うことはできない。
密着する状態を維持したままロクロウはベルベットの腰を持ち上げて上下に動かし始めた。ロクロウにしがみついているベルベットは甲高い声を上げながら下からくる快楽に耐える。やがてその動きは強くなってロクロウも腰を動かして息を殺した。互いが絶頂に達した時、ベルベットの体は相変わらずロクロウに寄り添ったままで、寝かせようとも思ったのだがそれはやめて下に落ちた毛布をなんとか引っ張り出すと、それにそっと2人で包まった。まだ体は火照ったままだが次期に体温が落ちて冷たくなる。業魔に体温は関係ないかもしれないが、この人の体温をもっと自分に浸透させておきたかった。

「大丈夫か」

もぞもぞと腕の中で動くベルベットの様子を把握したロクロウは問いかけた。

「・・・平気よ」

呼吸が落ち着いたベルベットは深く深呼吸をしてまたロクロウへを体重を預ける。

「なんであんたの傍にいるとこんなに落ち着くんだろうね。傍にいたくなっちゃうんだろうね」

素直に零れ落ちてくる彼女の言葉は心を開いてくれている証拠だと受け取った。
それだけでいいとは言えない。まだ何かを考えて何かを隠しているとロクロウは捉えていてこのままこの腕の中に閉じ込めておきたいとそう願ってしまいたくなるが。

「さあてな」

そんな言葉しか返せなかったが、頭の中ではわかっているつもりだ。
それを言い出すことができない自分はとてもずるい。そう思った。



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