Tales of belceria | ナノ

  幸運は指から指へ(ロクベル)





「ずっと一緒にいてくれて、ありがとう」


こう気持ちをすっと出せるようになったのも、いつぶりだろうか。言わなくちゃ言わなくちゃと心に秘めていたのだが、なかなかいう機会が見つからずに時は過ぎていく。
だがやっとその時が訪れた。









ローグレスに立ち寄ると、タバサへの顔見せと挨拶も兼ねて血翅蝶のアジトでもある酒場へと足を運ぶ事になっている。
そして心水を好んでいるアイゼンとロクロウは、盃を交わすというのが当たり前の光景。

「ロクロウ、アイゼン!飲み過ぎは禁物ですからね!」

「わーってるっての!」

エレノアに注意をされ、ロクロウとアイゼンは互いに顔を見合わせ、ニヤリと笑いあう。エレノアは頭を抱えつつも、最後にはくすっと微笑んで、ライフィセットの手を引き連れて上の階へと消えていく。
そうして男二人の楽しい時間が始まった。
航海をしている時に夜風に当たるのが好きなように、陸地に降りた時の夜風に当たるのもベルベットは好きだった。
最初にローグレスに訪れた時より、ほんの少しでも心に余裕が生まれるようになってからは、景色や空気を心地よく感じられるようになってきていた。まだ自分にこんな感情があったんだと、最初は驚きを隠せなかったけれど。

「エレノア達はもう寝たかしら。ロクロウ達はまだ呑んでるのかな」

酒場の近くにある噴水の近くに腰を落として、酒場に灯されている明かりを見つめながらベルベットは頬笑む。
仲間の事を思うのは安堵できる。すべてを知った後でも自分に着いてきてくれたみんなを、大事に思えない訳がなかった。その気持ちを知ってしまったから、辛くなってしまったという新たな問題も生まれている。だからこうして離れた場所に行きたくなるのだ。

「・・・」

ぎゅっと拳を握り締めて唇を噛み締めて。
その時、目の前に人の気配を感じた。聖寮の巡回の騎士がきたかとベルベットは顔を上げずに立ち上がって、酒場へ足を運ぼうとした。

「おっと。無視かー?」

そこにいたのは聖寮の巡回の騎士などではなく、聞き慣れた男の声。

「ロクロウ・・・」

そう、ロクロウだった。

「あんた、アイゼンと呑んでたはずじゃ」
「呑んださ。呑み始めてから2時間たってお開きになったとこ」
「2時間・・・」

外に出てからもうそんなにたってしまったのかとベルベットは苦笑する。
そのまま酒場に戻ろうかと思ったが、ロクロウがベンチに座り込んだので、ベルベットもロクロウの隣に腰を落とした。

「なんでここに」
「お前、ローグレスに来たら夜はいつもここに来てただろ」
「知ってたの」
「当然だろ、お前に何かあったらたまったもんじゃないし」

いつもさらっと気恥ずかしくなることをロクロウは口に出すから、ベルベットはそういう時に黙りこむ癖がついていた。どう返したらいいのかがわからないからだ。彼が思ったことを素直に口に出す性分ではあるが、ベルベットはそうではない。内に秘めては押し殺してしまうから。
最初に会った時から全然変わらない。その明るさに何度も救われてきた。自分がどんなに素直になれなくても、酷いことをしてみんなを遠ざけようとしても、みんなは。貴方は。

「今日は酔い潰れていないのね」

呆れたような様子を見せつつも、ベルベットは軽く笑いながらベルベットは口を開く。

「どっちかっつーと、話の方がメインだったからな。アイゼンと男同士の話をさ。俺はとっくり1合あけたくらい」
「へえ、珍しい」

それは本当に珍しいことで、ベルベットは目を点にした後にくすくすと笑みを溢した。大体は二人は酔い潰れてはテーブルに倒れこんで朝を迎えているパターンが多い。それをベルベットやエレノアに目撃されては白い目で見られて、二人は小さく縮こまり、マギルゥにからかわれてライフィセットに笑われる。
今日もそういう光景が見られるのかと思ったのだが、どうやら見れそうにない。

「お前のことだよ」
「?」
「ベルベットの事を話してたんだ」
「あたしの事?何よ、とうとう不満たらたらで限界でも迎えちゃった?」

男同士の話でその内容が自分の事だとは。内容を聞いていないのにロクロウからそう伝えてきたということは、自分に聞いてほしいことなんだろうと、ベルベットはそう解釈した。
自分のせいにすればいい、ずっとそう言い続けてきたことだから、不満でもなんでも聞いてあげるわと、そんな心構えをみせていた。

「ベルベットに不満なんか感じたこと、一度もないさ」

ベンチに置かれているベルベットの右手を、ロクロウは左手でぎゅっと掴んで口に出した。ベルベットは少し驚いてロクロウの顔を見ようとしたが、それは止めて、視線を夜の空に移した。
それはロクロウも同じで、ベルベットの方を振り向いたりせずに、空を見上げていた。握り締めている手だけは離さないようにして。

「知らないだろ?俺とアイゼンがどれだけベルベットの事を好きなのか」
「知らない。どれだけ好きなの?あたしのこと」

不思議と動揺はあまりしなかった。この触れあっている手の温もりがそれをわからせてくれている。恥ずかしくなることを言われているのに。心水が回っている戯言かとも思ったりしたのだが、呑んでる量からして酔っているというわけではなさそうだ。だがさすがにその言葉の続きは気になって、次の言葉を待った。

「俺は最初からベルベットと一緒にいるから、俺の方が好きな時間は長いって話をしたら、ベルベットと顔を見合わせただけで何をすべきか把握できる俺の方が、わかりあえてるっていう言い争いになった」
「はいはい。あんた達も物好きね。災禍の顕主なんかに好意なんか抱いちゃって」
「ベルベット」

ロクロウの左手の力が強まってきて、ベルベットの名を呼んだロクロウの声のトーンが低くなり、ベルベットは今から真面目な話がされるのだと悟った。


「俺らは・・・・俺は、本当にお前の事が好きだ。お前の生き方や人間性も全部含めてな。ベルベットに出会わなかったら、今の俺はここにはいない。お前は本当に眩しいんだ」
「ロクロウ」
「これからも俺は俺のしたいようにいつも傍にいる。俺がお前と一緒にいたいから」
「・・・」
「こんないい業魔を虜にさせた罪は重いぞー?」

ああ、もう。
瞳の奥から我慢していたものが、一気に溢れ出てしまいそうだ。それでもベルベットは懸命に堪えて触れられている右手に精神を集中させていた。
ずっと言わなくちゃとそう思っていた。あたしらしくない言葉じゃないし、今更こんなことをと思って言えずにいたこと。それにこんな弱々しい声を聞かれてしまったらなんだか恥ずかしい。でもそれでも言わなくちゃいけない。伝えたい。今こうして隣にいてくれる貴方に。


「ずっと一緒にいてくれて、ありがとう」

多少声が震えたかもしれないが、なんとかロクロウに伝えることができた。
顔を合わせていないのが大きかったからかもしれない。
ロクロウは「応!」といつも通りのハキハキとした様子で返し、顔を仰向けにしてしまったベルベットが再び顔を上げるまで手を握り締め続けた。

「それから」
「なに」
「一応、口説いてるってこともお忘れなく、な」


ロクロウの左指の小指が動いて、ベルベットの右の小指に小指を絡ませた。
忘れてないわ、と小指を握り締める事でベルベットはロクロウに意思表示を行った。





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タイトル・反転コンタクト

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