Tales of belceria | ナノ

  優しいにわか雨(ロクベル)


※ちょい裏要素あり





静寂の中に微かに響く水滴の音。
外は雨が降っている。今宵は止みそうもない。ベルベットは窓を開けて外を眺めた。
外灯はないので外は真っ暗だ。雨の音だけが、ただただ聞こえる。

(・・・・・・・・・・・)

すべてを知る前から、心がぐらついているのは感じていた。心だけは自分でなんとか繋ぎ止めておかなくちゃいけなかった。だって本当の自分は強くないから。
押し殺して、飲み込んで、言い聞かせて。
だけどそうしていても、仲間が気にかけているのはわかっていた。それはそうだ。無理もない。

ぼんやりとして少したった頃に、ずっと同じ部屋にいたロクロウが動いて、ベルベットの背後に迫った。そうして彼女の頭を撫でた後にきつく、きつく縛りつけるように抱きしめて。

「拘束」

ロクロウはそう呟いた。
少しだけ痛かったけども、離してほしいとは思わなくて、ベルベットはロクロウに身を預けて背後に寄りかかる。
彼は業魔だ。自分と同じ存在だ。一緒に旅をしている仲間の中で唯一の。
穢れを知っているのも彼だと思った。
それでも悲しみを抱えている素振りはあまり感じられなくて、むしろ明るくて、だからこそ傍にいたくなるのかもしれなかった。

「ロクロウ」

「ん」

「足りないわ、もっとよ」

目をきょとんとさせるロクロウは一瞬だけ腕の力を強めたがすぐにそれを止めて、力を緩めて。ベルベットをひょいっと抱き抱えるとすぐ傍のベッドに彼女を運んだ。寝かせるのではなく、座らせた。続いて自分もベッドに座り込むと、今度は正面からベルベットを抱き締めた。

「こっちの方がいいだろ」


正面からだと、密着具合が増す。
こうしてロクロウに抱き締められるのは初めてではないけれど、誰かに抱き締められるというのは、こんなにも心地がいいんだと、彼に教えてもらった。日々の鍛練で鍛えられている強くたくましい身体に包まれながら。でも背中に手は回せない。その方がいい。身動きをとれない方が。
すんすんと鼻を動かして、ロクロウの匂いも感じとる。そうすれば更にロクロウの中に自分がいるのだと、安心できた。

「いつもながら、可愛いことをしてくれるよな」

「好きなんだから。仕方ないでしょ」

「・・・それそれ。その不意討ち。狙ってんのか?」


くっくっく、とロクロウが笑い声を漏らすと、密着していた身体を離してベルベットの頬に触れた。ベルベットは瞳を触れられている指先に動かしてから、瞼を閉じて唇を緩ませて、その手のひらの温もりを感じている。
瞼を閉じたというなら、そういう意味だ。許可を得ずともロクロウの次の行動は決まっていた。
この目の前の女性の穏やかな表情をもっと見ていたいとも思ったけれど、心の中に入ることを許されているのなら、身も心も身体も溶けて混じりあいたい。
緩んでいる彼女の唇に触れた。触れた後に唇が混ざりあうのに時間はかからなくて、ロクロウの舌の絡みにベルベットは懸命についていく。

「・・・ふ・・・っ」

苦しい。食べられてしまいそう。
でもそれでもいい。食べられるなら彼がいい。

「しかし・・・お前はあれだよな。いわゆるツンデレ・・・というやつか」

「そ、そんなことないわよ、あの事件がなかったら、あたしだって・・・」

「まあまあ。俺はどんなベルベットでも可愛いって思ってるから、問題ない」

「またそういうことをさらっと・・・」

「でもまあ、事実だからな」


甘い言葉を投げかけられながら、さりげなく脱がされかかっている服を目前にしても、嫌だとはまったく思わない。次の段階に進んだかとそう思っては、ロクロウが次にしてくる行為をベルベットは待った。
上半身が共に裸になったロクロウと肌を重ねながらベッドに沈む。

「そうだベルベット」

「?」

「声は抑えとけよ、壁がそこまで厚くないから隣に聞こえちまう」

「・・・だったら、そんなに大きい声を出させないようにしなさいよ」

「俺もそれができたら苦労はしないんだかな」


その会話を最後にロクロウの顔が視界から消えて、ベルベットはロクロウの攻めに唇を噛みしめながらただひたすらに快楽に耐える。
この感じている切なさも苦しさもすべてをぶつけて、それを受け止めてくれたロクロウを、ベルベットはただ、ただ

「傍にいてほしいだけじゃ・・・ないのよ・・・・っ、あたしは、ちゃんと・・・」

「俺の事が好き」

「・・・っ、そうよ」

「んなことは承知してる。さっきのあの顔を見れば、な」


それはキスをする前の、自分がベルベットの頬に触れている時の表情を見れば一目瞭然だった。
あの瞬間はもう、悲しみも苦しみも何もかも忘れた、ただ自分を感じてくれているひとりの女性。

「俺はいるよ。お前の傍に。嫌だって言ったとしてもずっとな」

「ロク・ロ・・・っ」


言葉を聞き入れた耳がぴくぴくと動いた。
(あんたが支配するのはあたしだけ。あたしが支配されるのはあんただけ。そうじゃなくなったら、あたしは、もう)


髪をほどかれたロクロウの髪を細い指先で掴みながら、ベルベットは雨が自分の鳴き声を消してくれと願いながら、深い深い常闇の奥深くへ堕ちていった。




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タイトル・反転コンタクト




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