この赤が何よりの証拠(ロクベル)
あの赤い月から3年。
もうただひたすら前を見て、先に進むことしか考えていなかった。憎くて憎くて堪らない、あの人の元へと。
もちろん不安な気持ちがまったくなかったらと言ったら嘘になる。だけど気持ちを吐露することは、もう二度とやらないと、そう決めていた。
信用できない、信用ならない。
それに誰かが一緒にいれば、それが弱さになることも、わかっていたから。
「ベルベット、まだ起きてるか」
ハドロウ沼窟の最深部。ダイルと手を組み、作戦を決行する事を決めたその日の夜。ロクロウとベルベットはその場所で夜を明かす事になった。
もうそんなに眠ることはなくなった。だが目を閉じる癖はついていた。もう人間じゃないとわかっていても、目を閉じるのはあいつの顔を思い出して、憎しみを忘れないようにする為に。
ダイルはもう眠りについていたが、ロクロウの方は起きていた。ロクロウは起き上がって、すぐ隣に横になっているベルベットに声をかける。
「寝てないってわかってるくせに」
「それでも声をかけてみるのが、礼儀ってもんだろ」
「・・・・・・で、何。」
ベルベットは起き上がってロクロウの方を向いた。正直ベルベットはロクロウの事が苦手だった。
いつも、いつも、優しい顔をして微笑んでいる。会って間もない自分に。冷たい女だと、業魔だと、その瞳に刻んでいるだろうに。だからベルベットはロクロウと目を合わせるのは一瞬だけで、あとはすぐに目を逸らす。
「お前、今いくつだっけ」
「はぁ?・・・19だけど」
「好きな色は?」
「・・・赤よ。血の色」
「そうかそうか」
「なんなのよ、一体」
質問の意図がわからず、ベルベットは少し不機嫌になる。ロクロウはふむふむと頷きながら、またにこっと笑みを見せる。
「俺は22なんだけどな、なんだ、ベルベットが20超えていたら、とっておきの心水を飲ませてやりたかったのに」
「お酒は飲まないわよ、20を過ぎても飲むつもりはない」
「応、そうか」
なに、こいつ。やっぱりそう思ってしまって、ベルベットはロクロウを睨み付ける。その時、ロクロウと目が合ってしまって、またすぐに反らす。
この人のペースにすぐに乗せられる。年上だとは思っていたが、自分と3歳違いだったのか。そんなに遠くもなく、近い。
「俺が好きな色も、赤だな。情熱の赤。燃えて燃えて燃えまくる、炎の色」
「そうね、決して消えることのない、血の色、憎しみの赤・・・」
包帯に巻かれている左腕が疼く。あいつを切りたくて切りたくて、刻みたくて、喰らいつくしたくて。
ふと憎悪に絡まれた後に我に返る。この質問をした意味は何かあるのかと。頭がキレる奴ってことも知っているだけに。何か企んでいるのだろうか。警戒しようと構えようとしたけれど。
「まあ、別に何か企んでる訳じゃないから安心しろよ。俺はただ、お前と話がしたかっただけなんだ」
「・・・」
「よかったよ、話ができて。お前が未成年ってこともわかったし」
「子供じゃないわよ」
「わかってるさ。自分が大人だって思ったら、大人だよ」
「っ・・・」
その切り返しはずるい。そんなことを言われたら自分は大人だ、とは返せないし言いきれない。子供扱いされているとしか思えない。
こんな変にくすぶる気持ちは久しぶりで、少しだけ息苦しかった。
「好きな色もわかったし」
「そんなの聞いてどうするつもりよ」
「年齢と好きな色は聞いておくべき事項だろう」
「意味わかんないし。もういいでしょ、寝るわ」
ベルベットは膝を抱えて俯いた。その様子を見たロクロウはふうと息をつくと、少しだけベルベットの方に近寄って、じっと見つめていた。
「・・・赤、か」
確かにこの女には赤が似合うし、そんなイメージが強かったから、好きな色が赤だと言われた時は少しばかりにやけた。
少しでも気になる女を知りたいことは当然だが、事情がたくさんありすぎるベルベットに関しては、深入りするのは許されない。本人もそれを望んでいない。
恩返しをしたいという気持ちも嘘ではないし、気になっているという気持ちも嘘じゃない。
(赤のアクセサリー・・・。確かいいのがあったな。見つかったら仕入れておくか)
傍らにいるベルベットは眠れるはずもなかった。
こいつがいるから大丈夫だって、いつかそう思ってしまうんじゃないかって。ペースに乗せられてしまいそうで。
(・・・いらないわ、いらないのよ、そんな気持ちなんて・・・)
赤に染まるのは、復讐だけでいい。
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タイトル・反転コンタクト
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