解らないままでいさせて(アドサキ)
敵と会話をすると言うのは、滅多にというか、ほとんどないだろう。
撃たなければ殺される。それは当たり前の事なのだ。女だろうと容赦はしない。

だのに、想定もできなかった事が、今こうして目の前で起こっているのだ。まさか、自分がこうして、敵と「女」と向き合っていること。

女という生き物は厄介で、扱いづらい。だがアードライは小さい頃から礼儀作法はしっかりと叩き込まれ、女性への対応もそれなりにこなすことができていた。軍人になった今でも、それはどうやら染み付いていたらしい。

「尋問はもう終わったんでしょう?こんなとこに、ずっといていいの?貴方が私と手を組んでるって、怪しまれちゃうわよ?」
「今更だ。一時は手を組んでいただろう。体は子供でも、中身はお前だったんなら」
「ふーん・・・ドルシア軍にも、こんな風に捉えてくれる人がいるのね」

独房で会話をするアードライとサキ。サキにとっても、敵と言葉を交わすなんて考えもしないのだが、先程アードライが言ったように、一時は共に行動を共にしていて、彼を知ってしまっているのだ。無視をしようにも、することができない。こうして気にかけてくれるなんて、本当に敵なの?と言わんばかりに。

「なんとでも言うがいい。私はお前の監視でもなんでもしてると言えば済むこと。これでも信頼されている身なんだ」

入口に背中を預けて寄りかかるアードライ。そこから動く気配もなく、そしてサキもアードライを見つめながら、目線を逸らして唇を噛み締めた。
この人は、私が刺されても死なない事を知っているのに。化け物だって認識しているはずなのに。そんなこと一切言ってこない。この人は怖くないのだろうか。聞いてみたいが聞くことはできなかった。事情を知らない人間がどう思うのかと。自分には同じ境遇の仲間がいる。だから怖くない。何を言われようとも。ただ、いざその事を突きつけられると、こんなにも重くて、考えてしまうことだったなんて、思わなかったのだ。自分がヴァルヴレイヴに乗ることを決めた理由なんて、世間に簡単に言えるはずがないのだから。

「そう。だったら好きにすればいいわ。私が話せることなんて、もう何もないもの」

サキは膝を抱えて、その場に踞った。

このまま、真実を知らなければ、彼女のことを放っておいて、すぐに立ち去ってしまおうと思うのに、体が動かない。
帰るべき場所に帰れなかった友を思い出すだけで、胸も痛い。
信じきれなかった事が、報いなのであれば。


「最近、ちゃんと眠れてないだろう。隈ができている」
「だから何よ」
「少しでいい。仮眠をとっておけ」
「え・・・?」

アードライの言葉に驚いたサキ。彼の意図がわからずに困惑していた。
アードライはサキに近づき、膝をついた。

「眠れるわけないでしょう。周りは全員敵っていう場所で」
「私がここにいる限り、何も起こることはない」
「何よそれ。意味がわからないわ」
「そのままだ。不本意だが、お前を気にしての発言だ」


私はどうしたらいいのだろう、と思った。この人の事が益々わからなくなる。ただ、その言葉にほんの少しだけ、心が軽くなったのもまた事実で。

「そんな優しい言葉なんかかけちゃって。本当、貴方がどうなっても、私、知らないからね。盗聴されてたらどうするのよ」

そうして、サキはアードライの姿を見るのをやめるように、瞼をふっと閉じた。
サキが目を閉じてから、アードライは眠るのを確認するまで、サキの傍にいた。
何をやっているんだ、とも思ったのだが、彼女が目を覚ましてから、もっと大がかりなことを、自分はやろうとしているのだ。

だからそれまでは、エルエルフへの、そして、流木野サキへとできる、自分の罪滅ぼしと罰を受けようと、そう思った。

この瞼が開くまでは、流木野サキを、守ってやろう。
この瞼が開いたら、自分は革命を起こしてやろう、と。





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