君は、貴方は、自分の原動力(ハルショ)
参ったなあ、本当に。
どうしてあんなこと言っちゃったんだろう。もっと充分に考えれば、わかることだったのに。感情を先走った私は、冷静さを酷く欠いていた。
ハルトならわかってもらえるとか、そんな虫のいいことなんか思わない。

ハルトはこの1号機を奪取しに戻ってくることは間違いない。

1号機が納まれている格納庫に、ショーコは待機することを決めた。周りの制止を振り切っての行動だ。その周りに対する説得にも時間をとられてしまったが、それでもショーコは、ハルトともう一度、話がしたかった。
ごめんなさい?許して下さい?そんな脆い言葉で通用するとは思わない。
一度走ってしまったら、もう戻れない。

格納庫の照明が落とされ、ショーコはきりっと表情を変えて、ここに入り込む人物を迎え入れた。

(1号機に誰かいる・・・)

暗闇を辿り、その人物におそるおそる近づいたハルトは、人物を確認すると、ごくっと息を呑んだ。

「ショーコ・・・」

ショーコはコクピットの前で両手を広げて、険しい表情でハルトを見つめた。


「やめて」
「ショーコ・・・」


しまった。エルエルフからあんなことを聞いてしまった以上、ショーコに合わせる顔が益々なくなってしまっていたのに。
ショーコも知っているんだ。その事を。これでもう、君とは完全に決裂を迎えてしまうんだろう。僕はそうじゃなくとも、彼女を苦しませることだけは、絶対に回避しなければならなかったのに。
君の敵を討つ。その為にヴァルヴレイヴに乗ることを選んだ。その事を知られさえしなければ、もう。

「貴方は買収されたはずでしょ。それなのに、また、こうして戻ってきて。どういうつもり?嘘つきさん」

ショーコは隠し持っていた銃をハルトに向ける。

「ショーコ、やめろ」
「わかってるよ、これを乱射したところで、ハルトは死んだりなんかしない。人間じゃないんだって、思い知らされるだけだもの」
「そうじゃない、お前にそういうものを扱ってほしくないんだ。僕を撃ったら、君は・・・泣くだろ」
「・・・・・・・・・・・っ」

ガタガタと銃を持つ手は安定していない。事情さえ知らなければ、国を守るために、貴方を拒絶することは容易いはずなのに。
貴方が苦しんでる間、学園で笑っていた私はなんだったの。バカみたいじゃないか。どうしてもっと早く教えてくれなかったんだろう。

「僕はそれに乗る。だから、そこをどいてくれないか。大丈夫、みんなを殺したりなんか」
「そんなのわかってるよ!!!」

ショーコの銃弾はハルトの右肩を掠めた。ハルトはショーコに近寄り、ショーコの手から銃を奪い返した。

「やめろって言っただろ!」
「・・・いつから、こうなっちゃったの」
「・・・・・・・・・・・・・!」
「ねえ、私たち、いつからこんなにすれ違っちゃったんだろうね。知らないことたくさんで、何にもわかんなくなっちゃって」

こうして会話をしていると、何にも変わらない。いつものハルト。いつもの私。ただ当たり前に笑って楽しく過ごしてきた日常に、戻れるものなら、戻りたい。

「君は最後まで、僕を恨まなきゃ駄目だろ」
「ハルト・・・・・・」
「そういうすれ違いも、僕のせいなんだから。それに国の代表として、そんな軸がぶれていたら、国民が不安になっちゃうだろ」
「っ」
「これだけは約束するよ。ショーコ、何があっても、この国を、君を必ず僕が守ってみせる」


ハルトはショーコを抱きしめた。力を込めて、約束を必ず守ると身体に刻みこませるように。ショーコはその抱擁に応えることはなく、ハルトは身体を離した。


「ショーコ。僕は君が好きだった」
「え・・・」
「これからもずっと、変わらない。僕を動かしてくれるのは、君だけだ」


ハルトはそのままヴァルヴレイヴに搭乗し、ショーコはヴァルヴレイヴが起動されるのを目に焼き付けながら、自分がコクピットに乗り、問われた質問を思い返していた。

「にんげんをやめますか?」

「憎むなんて無理よ、できないよ、ずっと一緒にいたんだもの、これからも貴方とずっと一緒にいたいんだよ」


そう呟いて、溢れそうになった涙を堪えた。あんなことをしてしまったのに、ハルトの瞳には迷いがなかった。私を信用してくれている瞳だ。
それならば私は、こんなことで立ち止まって後悔して、してしまったことを悔やんでる暇はない。

「ハルトと共に在る世界を」



私が作ってみせる。


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