幸せが心を少し素直にした(ハルサキ)
私の原動力は、間違いなく彼だった。

どんな状況に置かれても、あなたがいてくれたから、頑張ろうと思えた部分は多々ある。
彼の心に自分がいなくても、彼の視線の先に見つめるのが、自分ではなくても、彼がヴァルヴレイヴに搭乗したきっかけを作った、あの子ではなくとも。

月でハルトとエルエルフを見つけ、その時は涙で、目が滲みすぎて止まらなかった。滅多に泣いたりなんかしないのに、どうしてなんだろうね。
女の武器とも言える涙を見せる事を、サキは絶対に嫌だった。だから涙が溢れたのが、二人に会う前で本当によかったと思った。
二人に会えた喜びと、生きていてくれてよかったという思いを。

その後、どうにか追っ手を回避することに成功して、エルエルフの指示で、ハルトらはとある無人施設へと退避する。
そこでようやく、サキはハルトとまともに言葉を交わすことになった。

「ハルト」

そう名を呼んで、見つめる先にいるハルトは、とても別人に見えた。ほんの少し、ほんの少しだけ離れていただけなのに、一体どうしてしまったんだと言わんばかりに。
サキの手は震えていた。私も話さなきゃいけないことが、たくさんある。ドルシア軍に捕まって、死なないとわかっているのに、本当は怖くて怖くて堪らなくて。
それでも、あなたの苦しみに比べたら、大したことじゃないんだからって、一生懸命、自分に言い聞かせて。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

その時、ハルトが震えるサキの右手をぎゅっと握り締めた。そして、何も言わずににっこりと笑ったのだ。その時、サキにはわかった。
まただ。また何かあったんだ。いっぱいいっぱい、背負い込んでしまったんだ、と。

「ハルト、やめてよ、微笑まないでよ」

ハルトが握り締めた手を、サキは力強く握り返した。

「本当そうよね、あなたは。いつもいつもいつも、自分ばっかり」

「そんなことないだろ」

「私はあなたと付き合いが長いわけじゃないけど、でもね、わかるのよ私には。私が安心するとでも・・・思っ・・・」


顔をうつ向いたまま続けたサキは、ハルトに顔を見せないようにして、彼を抱きしめた。あんなに近くに感じていたはずなのに、どうしてまた遠くに感じるの。嫌だ、嫌だよ。

(私は決めたのよ、あなたをひとりぼっちにしないって)

忘れないでほしかった。ハルトには私がいるということを。
例えこの先何があっても、私だけは絶対にあなたの傍を離れたりしないからと。
それは自分の為でもあることは知っていた。あなたを失いたくないという自分の我が儘であることも。

「ごめん、ね」
「すべて話してなんて言わない、でもせめて、私には・・・私の前では、弱さを見せてくれたって、いいんだから」
「僕は」
「もう遠ざけないで、拒絶したりしないで・・・・・・・・・・」

ハルトは瞼をぎゅっと閉じた後、目の前にいる小さな身体を、壊れてしまうくらいに強く抱き締め返していた。
彼女もたくさん辛い思いを交わしているというのに、それでも自分の事を一番に思ってくれて、心配してくれて。

「うん、ごめん、ごめんね」

サキに触れないように、あまり近づかないようにしていたのもあった。それはそうだ。あんなことはもう。でも彼女は僕に歩み寄ってくる。今もこうして。

「ハルト・・・・・・・・・・・!」

本当は彼女にたくさん話さなければならないことが、たくさん、たくさんある。話さなければ、また怒られてしまうのだろう。それも目に見える。
僕も密かに、彼女とはふたりぼっちであることを認識している。もう繋がりを断ちきろうと思っても、無理なことさえも。だって今、サキを抱きしめて温もりを感じているだけで、こんなにも安堵してしまうのだから。いつかのあの日のように。離したくない。この人を手離せない。

呼吸があったのか、身体を離し、見つめあった二人が、唇を重ねあうのは自然の流れであった。互いが互いをジャックしたかのように気持ちを感じられる。このまま、もっとひとつになって、自分達は別の存在なんだって実感したい。そうであればあるほど、ひとつになる時の喜びが増すものだ。

優しい唇の重なりが、生きていることを実感させてくれた。ハルトはサキの腰に手を回しては、自分の元にいてくれとの言わんばかりの行動をする。密着だ。それはサキもだった。ハルトの首回りに腕を回して、彼の唇を追いかけた。


「私は強くない、でも弱くもないわ。ハルトを受け止めることができるのは、きっと私しかいない」
「受け止めてくれた流木野さんは、僕が丸ごと包んであげるよ」
「そ、それじゃ意味ないわよ」
「あるんだよ」

ちゅっとサキのおでこにキスをしたハルトは笑い、サキは胸を撫で下ろす。
これが、彼の笑顔。私が好きな笑顔。

サキはハルトの腕にしがみつき、離れようとしなかった。もう戻らなければならない時間なのに、とハルトはサキを見つめる。

「流木野さん、もう時間が」
「嫌よ、ハルトが足りないんだもん。ギリギリまで一緒にいさせて」
「そうだね・・・足りないね、時間が」



人が一人で生まれてきた理由を、こういう時に深く思い知った。



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