ハルトの部屋に転がり込んで、ハルトのベッドに寝転がるのはいつものこと。
ショーコのいつもの定位置だ。ショーコがごろごろと転がっている最中、ハルトはリビングでお茶を組んでいた。
思春期の男女が、家で2人きり。ショーコが家に来る度に、ハルトはいつもそう思っていた。ショーコの事を想うからこそ、この状況に喜んでは、耐えなければならないの繰り返しで、正直しんどい。
多分ショーコは、何も考えたりしていないと思う。
また、僕のベッドに寝転がっているに違いないやと、ショーコの光景も浮かんでくる。
とりあえず深く深呼吸をした後、ハルトは2つのグラスを持って、階段を上がっていった。自分の部屋なのに、コンコンとノックをして。
(あれ、何やってんだろ、僕)
バカだなと思いながら、ハルトはドアを開けようとしたら、先にドアが開いてショーコが顔を出した。
「はいはーい、時縞でっす」
「うわ、びっくりした」
「だってノックしたじゃない。なら、出なくちゃと思って」
「それは、まあ、つい。ってか、時縞って」
「お茶。ありがと」
ハルトの片手からお茶を受け取ったショーコは、ささっどうぞと言いながら、ハルトを部屋の中へ通した。
お邪魔します、と言い、ハルトもそれにのっかった。
こくっと一口お茶を口に運んだショーコは、ハルトの机にお茶を置き、ごろんとベッドに横になった。
「本当お前、そうするの好きだよな」
「だって、ふかふかなんだもん」
寝心地がよさそうにしてるのは、ショーコの表情を見ればすぐにわかる。しかしショーコがごろごろ動くと、制服のスカートも小刻みに揺れるから、ハルトは目のやり場に困り、ベッドに寄りかかるように腰掛ける。これがハルトの定位置だった。ショーコの姿を目にせずにすむから。
そしていつものように、日常の会話をする。その会話中、ハルトとショーコは一度も目を合わせることはない。それでもショーコは気に止めなかった。ちゃんと会話は成立しているから。
だが、今日のショーコは違っていた。
「ハルト」
気付けばショーコはハルトのすぐ真後ろまで迫っていた。その事にまだ気づいていなくて、お茶を口に含んでいた。
「何、ショーコ・・・」
ショーコは腕を伸ばし、ハルトに絡み付く。顔を肩に乗せて。これにはハルトも驚いた。ショーコが自分に絡み付いている。それを理解するのに、少しばかり時間がかかった。心拍数も急激に上がり、呼吸も乱れる。
「何か、あったのか?」
ようやく振り絞って言葉を発した。ショーコが、自分にこうすることなど、ほとんどなかったから。さっきまで笑ってはいたけれど、もしかしたら、本当は。
その時、初めてハルトは、ショーコの方を振り向き、顔を覗き込もうとした。ショーコは少しだけ、艶っぽい表情を見せていた。ハルトと目が合ったとわかったショーコは、そのまま蒼い瞳を見続けた。その瞳には、確かに自分が写っている。
ショーコの意図がわからなかった。ただ、いつもとは全然違うシチュエーションに、ハルトはどうしようかと、これからの行動に悩んだ。だってもう、こんなにも顔が近い。それなのに、ショーコは逃げもせずに、自分に絡み付いたまま、動かないのだから。
「・・・」
少しだけ、顔を近づけてみた。やはりショーコは動かなかった。少しばかり、目を閉じているように見えた。そしてまた、近づいてみれば、完全に目を閉じてしまったから、ハルトはもう迷わずに、ショーコの唇に、唇を落とした。
数秒くらいそうしてから、ハルトはショーコの唇を少し名残惜しそうに、離す。
「ふふふ」
その余韻もあまり感じさせず、ショーコは微笑んだ。
「な、なんで笑うんだよ、っとに、どういうつもり・・・」
ちゅっ、と不意打ちのキスを、ショーコはハルトに交わす。ハルトはぴくっと、身体中が反応しては、硬直する。
「私もそこまでバカじゃないよ。いつハルトが、私に手を出してくるんだろうって、思ってたのに、焦らすの得意だよね」
「焦らすって、そんなつもりじゃ。僕だって色々考えて、それで」
「だから、もう、手を出したくなっちゃった」
再びハルトに抱きついたショーコに、ハルトは状況を整理するのに精一杯で、とりあえずお茶を一口飲もうとコップを持ったが、動揺していた為か、思いきり床に溢してしまった。
「ダメ、離さないから」
「ショーコ」
「さて、これからどうしよっか」
それはこっちの台詞だよ。
望むような展開になったとはいえ、いざそうなってしまうと、どうすればいいのかわからない。
ハルトの葛藤は続く。