Gradation scale errand(ジュミラ)
私とジュードは、共に向かいあった際、ジュードが私を見上げ、私がジュードを少し見下ろす感じとなっている。
私の方が身長が高い分、こうなってしまうことは仕方がないし、私も特に気にしていない。
ジュードの年齢を考えれば、まだまだ背も伸びるだろう。
アルヴィンやガイアスと同じくらいになるのだろうか。それはそれで楽しみなのだが。
だがひとつだけ、してみたいことがあったのだ。
それは偶然に、ローエンとアルヴィンの会話を聞いてしまった事で、二人の間に割り込んで、また詳しく話を聞き込んでしまったのだが。
「上目遣い、とはなんだ?」
「おお、ミラさん。聞かれてしまいましたか」
「びっくりさせんなよ」
「……?すまない」
ローエンは笑いながらいつもと同じテンションで接してくれたが、アルヴィンはそうではなく、多少慌てていた。
なるほど、これは私は、いいタイミングで遭遇してしまったようだな。
「そのまんまですよ。顔を動かさず、目だけを動かして上を見ることです」
「ふむ、なるほど。で、そうされると、何故ドキドキするんだ?」
「男が女にそうしたら気持ち悪がられるけど、女が男にしたら、これがまた、たまんねーんだわ」
アルヴィンの会話と共に、ローエンもこくこくと頷いている。
なるほど、これは相当のようだ。となると、私も女である以上、そうするとドキドキさせてしまうのだろうか?
「ミラ、俺達で試そうとするなよ」
「なんだ、どうしてわかったんだ」
「そりゃあ正直、見てみたいと思いますが、それではジュードさんになんて言われるか」
アルヴィンとローエンが互いに顔を見合わせて、ニヤリとしている。
どうやらそれは、ジュードが過剰に反応してしまうものらしい。二人に止められてしまったので、私は二人に対して実行するのを止めた。
ジュードを見上げる方法。それは私が椅子や何かに座り込み、ジュードに立っていてもらうしかない。アルヴィンとローエンが言っていたように。
私はトリグラフの居住区へジュードを呼び出して、何かに座って待って見ることにした。
キョロキョロと辺りを見渡し、そこにはブランコという丁度いいものが見つかった。
そっと腰掛け、周りの子供達がしていたように、少しずつ前後に動かしてみた。
「ほお……これは……」
自身では足もついてしまい、子供みたいにこぐのは難しいだろうが、楽しい遊び道具だなと思った。
「お待たせ、ミラ」
背後からジュードの声が聞こえた。
ブランコの楽しさをジュードに伝えようと思ったが本題はそこではない。
私は切り替えて、二人から教わった通りにしようと試みた。
「いや。ありがとう、ジュード」
まず、目を潤ませる。
次に無言になる。
それから、ゆっくりと顔を上げてジュードをじーっと見つめる。
「………………!」
どうだろう。これであっているだろうか。
ジュードがどういう顔をしているのかがわからないから、なんとも言えないのだが。
「……え、ど、どうした、の………?」
どうやらジュードがうろたえている。
これは成功したと言っていいのだろうか。
「どうだ、上目遣いとやらは、できていたか?」
「うん……。それ、誰かに教わったの?」
「いや、そういうわけじゃない、君を見上げてみたくなったんだ。将来、君がいつか私を追い越し、私が見上げるようになるとわかっているんだが、もしかしたら、それは、できないかもしれないしな」
二人からは口止めされていた為、教わった事は内緒にした。
本で覚えたと思ってもらえれば幸いだ。
どうやら教え通りに、上目遣いはできていたようだ。私も見上げたジュードを見るのは、とても新鮮だった。彼の圧迫感が、なんだかとても心地がいい。
「…せっかくだから、僕も試したい事があったんだ、おかえしだよ」
「……?」
ジュードは私の正面に来て、ブランコの持ち手を掴んだ。
そうしてそのまま、彼は私に唇を重ねてきた。
彼にそうされることは、初めてではない。試したいというのは口実で、そうしたかっただけなのか?
私は嬉しいから、構わないのだが。
私から唇を離したジュードは、どうやら少し様子がおかしかった。
「どうした、ジュード」
「……ううん、なんでもない」
「なんだ、気になるじゃないか、話してくれないのか。君の試したい事は、私に愛情を示す事だったのではないか?」
「え!そ、その……違くは……ないけど……」
私はブランコから立ち上がって、今度はジュードを見下ろす形となった。
そう、これがいつもの形。
「別に負い目を感じていたわけじゃないけど……僕も試したかったんだ、ミラをその…見下ろして……キスするの」
「……ふふ、そうか」
「……そりゃあ、僕だって将来は、アルヴィン達ぐらい……までとはいかないかもしれないけど……」
「それはそれで見てみたいが、私は気にしたことはないよ。私は君が好きなんだから」
「そ、それは、僕だって……同じだよ………」
本当は、ジュードに上目遣いの感想を聞いてみたかったのだが、それはやめることにした。
一度だけでも試すことができたのだから、それはそれでいいのだと。
今までの流れからにして、これも私とジュードの、二人だけの秘密にしておいた方がいいんだろうな。
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