Short night visitor(アルレイ)
「今度会えるって決まった時にね、渡そうって思ってたんだ」
確かに今日は、やたら荷物があるなと思っていた。
どこか買い物に行った帰りなんだろうな、と。
やたらにこにこしているし、テンションも高めだ。
数多くの荷物の陰から出てきた、小さい紙袋。
レイアはそれを勢いよく、アルヴィンに押し付けた。
「え、何だ、これ……」
「ほ、ほら、アルヴィンさ、就職祝い!誰からも貰ってないんじゃないかなって、そう思って」
キャスケットに隠れたレイアの表情は確認しきれなかったものの、この行動といい、この言動といい、彼女の様子はすぐにわかる。
からかいたいところだが、ありがたいと思う気持ちは、自分もたくさんあった。まさか、こういうのをいただけるとは思わなかった。
「ありがとな」
「ちょ、頭撫でないでよ、わたしだってもう…社会人だし、子供じゃないし」
「あ、わりい、ついな」
「……それだけだから、じゃあね!」
大荷物を抱え、レイアは風のようにその場を立ち去ってしまった。
残されたアルヴィンは、紙袋に入っているものを取り出し、ぱかっと蓋を開ける。
これは自分が好きなピーチパイの匂い。
そして少し形が崩れているピーチパイが、箱の中に納まれていた。
「なんであいつ…俺の好物知って…」
それと共に入っていたのは、一枚のメッセージカードだった。
『これからもお互いに頑張ろうね。わたしもアルヴィンに負けないように、頑張るから』
手書きで書かれたそのカードには、メールとはまた、違う嬉しさがあった。
あいつは俺と張り合うつもりか、レイアの事だからそうかもな、とアルヴィンはそう思ったが、レイアの気持ちの温かさが、彼の支えのひとつとなる。
そうして、彼女が作ったピーチパイを口に運んだ。
先に家に帰り着いたレイアは、全速力で走ったせいと、置き逃げしてきてしまったせいもあり、心臓の鼓動がバクバクと鳴り止まずに床へと寝転んでいた。
何かお礼をしたかった。
まだそんなにお金があるわけじゃないから、アルヴィンに似合う高価な物は上げられない。
だからアルヴィンが好きだというピーチパイを、頑張って手づくりした。
父親に料理を教わっていればよかったなと後悔しつつ、形は崩れてしまったが、味見もしたし、ばっちりなはずだ。
きっとアルヴィンから、もうすぐ連絡が来る。
GHSの着信音がいつ鳴るかドキドキしていたが、先に鳴ったのは、家の呼び鈴だった。
「はいっっ!!」
びっくりして、甲高い声を出してしまった。
今の自分は音には敏感だから勘弁してほしいと思いつつ、ドアをあけると、そこに立っていたのはアルヴィン。
自分が先程渡した、紙袋を持って。
「え、な、何?どうしたの?」
「…おたくは、俺を殺す気かよ、そこまで嫌われてると思わなかった」
「殺す気って……どういうこと?」
「なんでピーチパイにアルミホイルが混ざってんだ、噛んだ瞬間、びっくりしたじゃねえか」
「嘘?!本当に!??」
レイアは確認したくて、アルヴィンから紙袋を奪い、箱を開けた。
だが既に中身は空っぽで、箱の中に残されていたのは、アルミホイルのカケラ達。
「でも全部…食べてくれたんだ」
「食べるよ。お前のくれた、気持ちのこもった物だかんな。美味しかったよ」
「っ、だったら、別にアルミホイルくらい見逃してよ、言わなくたっていいじゃん!」
「嬉しかったんだよ、俺の為に、頑張ってくれたんだなーって」
「そ、そうだよ!寝る間も惜しんで、頑張って作ったんだから!」
これが彼なんだ。こうまで優しくされると、どう反応していいのか悩む。
だからついつい、過剰反応してしまう。
でも彼は、そんな自分のことも、きっとお見通しなんだろう。
「で、お茶飲んでく?の言葉はないわけ?」
「今それを言おうと思ってたとこ!」
「はいはい。どーも。お邪魔しまーす」
少し不用心なところは、なんとかさせないとな、とアルヴィンは思った。
こいつに頼られる男になりたい。
もっと、もっと、もっと。
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