TOX2 | ナノ

Short night visitor(アルレイ)








「今度会えるって決まった時にね、渡そうって思ってたんだ」



確かに今日は、やたら荷物があるなと思っていた。
どこか買い物に行った帰りなんだろうな、と。
やたらにこにこしているし、テンションも高めだ。
数多くの荷物の陰から出てきた、小さい紙袋。
レイアはそれを勢いよく、アルヴィンに押し付けた。


「え、何だ、これ……」

「ほ、ほら、アルヴィンさ、就職祝い!誰からも貰ってないんじゃないかなって、そう思って」



キャスケットに隠れたレイアの表情は確認しきれなかったものの、この行動といい、この言動といい、彼女の様子はすぐにわかる。
からかいたいところだが、ありがたいと思う気持ちは、自分もたくさんあった。まさか、こういうのをいただけるとは思わなかった。


「ありがとな」

「ちょ、頭撫でないでよ、わたしだってもう…社会人だし、子供じゃないし」

「あ、わりい、ついな」

「……それだけだから、じゃあね!」




大荷物を抱え、レイアは風のようにその場を立ち去ってしまった。
残されたアルヴィンは、紙袋に入っているものを取り出し、ぱかっと蓋を開ける。
これは自分が好きなピーチパイの匂い。
そして少し形が崩れているピーチパイが、箱の中に納まれていた。


「なんであいつ…俺の好物知って…」


それと共に入っていたのは、一枚のメッセージカードだった。


『これからもお互いに頑張ろうね。わたしもアルヴィンに負けないように、頑張るから』


手書きで書かれたそのカードには、メールとはまた、違う嬉しさがあった。
あいつは俺と張り合うつもりか、レイアの事だからそうかもな、とアルヴィンはそう思ったが、レイアの気持ちの温かさが、彼の支えのひとつとなる。

そうして、彼女が作ったピーチパイを口に運んだ。









先に家に帰り着いたレイアは、全速力で走ったせいと、置き逃げしてきてしまったせいもあり、心臓の鼓動がバクバクと鳴り止まずに床へと寝転んでいた。

何かお礼をしたかった。

まだそんなにお金があるわけじゃないから、アルヴィンに似合う高価な物は上げられない。
だからアルヴィンが好きだというピーチパイを、頑張って手づくりした。
父親に料理を教わっていればよかったなと後悔しつつ、形は崩れてしまったが、味見もしたし、ばっちりなはずだ。
きっとアルヴィンから、もうすぐ連絡が来る。

GHSの着信音がいつ鳴るかドキドキしていたが、先に鳴ったのは、家の呼び鈴だった。


「はいっっ!!」


びっくりして、甲高い声を出してしまった。
今の自分は音には敏感だから勘弁してほしいと思いつつ、ドアをあけると、そこに立っていたのはアルヴィン。
自分が先程渡した、紙袋を持って。


「え、な、何?どうしたの?」

「…おたくは、俺を殺す気かよ、そこまで嫌われてると思わなかった」

「殺す気って……どういうこと?」

「なんでピーチパイにアルミホイルが混ざってんだ、噛んだ瞬間、びっくりしたじゃねえか」

「嘘?!本当に!??」



レイアは確認したくて、アルヴィンから紙袋を奪い、箱を開けた。
だが既に中身は空っぽで、箱の中に残されていたのは、アルミホイルのカケラ達。


「でも全部…食べてくれたんだ」

「食べるよ。お前のくれた、気持ちのこもった物だかんな。美味しかったよ」

「っ、だったら、別にアルミホイルくらい見逃してよ、言わなくたっていいじゃん!」

「嬉しかったんだよ、俺の為に、頑張ってくれたんだなーって」

「そ、そうだよ!寝る間も惜しんで、頑張って作ったんだから!」



これが彼なんだ。こうまで優しくされると、どう反応していいのか悩む。
だからついつい、過剰反応してしまう。
でも彼は、そんな自分のことも、きっとお見通しなんだろう。



「で、お茶飲んでく?の言葉はないわけ?」

「今それを言おうと思ってたとこ!」

「はいはい。どーも。お邪魔しまーす」





少し不用心なところは、なんとかさせないとな、とアルヴィンは思った。
こいつに頼られる男になりたい。

もっと、もっと、もっと。













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